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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第11章
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第148話 奪われたライラ

「その銀狼族の女をよこせ! さもないと皆殺しだ!」

「くっ!」


 ゲムアの要求に、オレはライラを強く抱きしめる。




 その要求に応じることなど、とてもできない。

 ライラは取引するような「モノ」じゃない!

 れっきとした、オレの妻だ!


 こいつ、ライラを銀狼族だと知ってこの取引を持ち掛けたのか!


「銀狼族の女なら、奴隷としていくらでも買い手がいる。それこそ、アークティク・ターン号の貨物車と乗客から奪える金額を超えることだって珍しくない。だから、その銀狼族の女を渡せ。そうすれば、アークティク・ターン号の貨物車と乗客から手を引く」

「ふざけるな!!」


 オレは怒鳴った。


「そんな取引に、応じられるわけないだろう!!」

「応じないのなら、アークティク・ターン号の貨物車と乗客から金目の物を奪いつくして、皆殺しにするまでさ!」


 再び、ゲムアがホルスターから大型のリボルバーを引き抜く。


「くっそう……!」


 オレは唇をかみしめた。




 オレの頭は、全力で回転していた。

 ライラをゲムアに引き渡すのはどう考えてもダメ。

 しかし、アークティク・ターン号の貨物車と乗客から金目の物を奪われた上、皆殺しにされるのもダメだ。


 どちらにも応じられないこの取引。

 まるで2つの毒物を並べられて、どちらがより食べ物に近いのか選べと迫られているみたいだ。

 だが、そこにあるのは所詮毒物でしかない。

 どちらを選んだにせよ、待ち受けているのは最悪な展開だけだ。


 今いるこの状況を打開するには、どう動けばいいのか?

 オレの頭は回転に回転を重ねていき、やがて1つの答えを導き出した。



 強盗の皆殺し。



 これ以外に、方法はない。

 弾丸はすでに尽きているし、列車にRPKを取りに戻っている余裕はない。だが、オレの周りには強盗連合の構成員が落とした武器がある。その中には、剣も弓矢もあれば、銃だってある。

 落ちている武器を使えば、なんとか対抗できるはずだ。

 それにオレは1人で戦っているわけじゃない。鉄道騎士団や駅員といった、強盗連合を止めるために集まった人が大勢いる。


 ライラをあいつらに引き渡すくらいなら、たとえ差し違えてでも強盗を皆殺しにしてやる!

 それにオレには、最後の武器だってある!


 オレの心は、決まった。




「――ふざけるなよ」

「あ?」


 ゲムアが云うと、オレは叫んだ。


「てめぇら全員、ぶっ殺してやる!!」


 自分でも驚くほどの大声が、オレの口から出た。

 隣にいたライラがビックリして、耳を抑えたほどだった。


 しかしそんな大声にも、ゲムアは少し眉毛を動かしただけだった。


「ほう……できるならやってみろ」

「たとえオレが死んだとしても……お前たちを皆殺しにしてやる……!」


 オレはソードオフをしまい、落ちていた剣を拾い上げた。

 ライラを守り通せるのなら、命を落としたとしても悔いはない!

 何が何でも、オレがライラを守り抜くんだ!


「どうした? 来いよ!」


 ゲムアの言葉に、オレは剣を構える。


「地獄へ道連れだ!」


 そう叫び、オレは突撃しようとした。




「やめて!!」

「わっ!?」


 聞き覚えのある声がして、オレの腕が強く引き戻される。

 オレが振り返ると、ライラがオレの腕を握っていた。

 指が、腕に食い込んでいる。


「ライラ!? どうして!?」


 オレが問うが、ライラは腕を握ったまま離さずに首を振った。

 無理矢理振りほどこうとしても、ライラは手を離さない。それどころか、腕にライラの指が強く食い込んできて、痛い。


「ビートくん、ダメ!」

「どうしてダメなんだ!?」

「いいから、あのゲムアって人の云うことに従って!」

「無理だ!」


 オレは叫んだ。

 ゲムアの云うことに従う。それはつまり、ライラを強盗連合に差し出すことに他ならない。オレにとって、絶対にあり得ない選択肢を、ライラが採るように云ってくる。とても信じられなかった。


「ライラ、あいつらの云うことなんか信じるな! 最悪刺し違えたとしても、オレが必ずあいつらを止める! だから――」

「ビートくんが刺し違えるなんて、わたしには耐えられない!!」


 ライラが叫び、オレは言葉を飲み込んでしまう。


「ビートくんが助かるのなら、わたしは……!」

「だからダメだって!」

「ビートくん!」


 ライラが、突然オレを抱き寄せた。


「これは作戦よ」

「……作戦?」


 小声でライラから云われたその言葉に、オレは理解できず首を傾げた。


「わたしがあいつらの前に出たら、ビートくんはすぐに『アークティク・ターン号の貨物車と乗客から手を引く』という約束を取り付けて。その直後に、わたしは逃げ出すから、そうしたらあいつらをひとり残らずやっつけて!」

「危険すぎるよ」

「大丈夫。わたしも戦うから」


 ライラの決意は固いらしく、オレがどんなに渋っても考えを変える気はなさそうだった。

 こうなったら、ライラの作戦に乗るしかない。


「……わかった」


 オレが頷くと、ライラは一度だけオレに微笑んだ。

 そして、ゲムアに向かって歩き出した。


「……あなたの取引に、応じます」

「素直でよろしい」


 ゲムアがいやらしい目つきをライラに向けていた。

 オレはすぐにでも剣を突き刺してやりたくなったが、今はそれを抑えた。




「これで、取引は成立だな」


 ライラに手錠をかけたゲムアが、満足げに云う。

 しかし、これで終わりじゃない。


 ライラが、オレに目で合図を送ってくれた。

 オレは頷き、ゲムアに視線を向ける。


 ここから、オレたちの反撃開始だ!


「それで、これでアークティク・ターン号の貨物車と乗客からは手を引いてくれるんだよな!?」


 オレはゲムアに向かって云う。

 ここで「アークティク・ターン号の貨物車と乗客からは手を引く」という言葉を吐かせる。後はゲムアを含め、強盗をひとり残らず片付けるだけだ。


「ああ、もちろんだ。これでアークティク・ターン号の貨物車と乗客からは手を引いてやる」


 オレは口元を少しだけ吊り上げた。

 その言葉を、待っていた!

 まさかこんなに早く結果が出るなんて!


 あとはライラが逃げ出して、オレたちで残っている強盗をひとり残らずやっつけるだけだ。

 さぁ、これで終わりにしてやる!



 しかし、それは甘い考えだったことを、オレたちは思い知らされた。



「……今日だけは、な」

「……え?」


 オレが耳を疑ったと同時に、ゲムアが何かを投げた。

 それはロープで、先端に首輪のようなものがついていた。


「!?」


 投げられたロープの先端についていた首輪が、ライラを捕らえた。


「キャアッ!?」

「ライラ!!」


 オレが慌てて助け出そうとしたが、遅かった。

 どこかに隠れていた灰色の戦闘服が、オレの前に立ちふさがる。

 その手は、拳銃を握りしめていた。剣しか持っていないオレは、何もできずに灰色の戦闘服をにらみつける。


 ソードオフがあれば、こんな奴らはすぐ吹っ飛ばせるのに!


「ビートくん!」

「今日だけは、アークティク・ターン号の貨物車と乗客は見逃してやる! ただし、明日はまた襲撃する!」

「ふざけるな! 約束が違うじゃないか!」

「俺たちを強盗連合だと分かってて取引に応じた、お前たちがバカなだけだ!」


 ちくしょう、最初から騙す気だったんだ!

 オレは唇を噛みしめ、こぶしを握り締める。あまりにも力が入りすぎたためか、血が流れ出るのが分かった。


「この銀狼族の女は、いただいていくぜ! 俺たちで楽しんでから、奴隷として高く売ってやる!!」

「ビートくん!」


 ライラの悲痛な叫びが、オレの耳を貫いた。


「あばよ! バカども!!」


 ゲムアはライラを連れ、残っていた部下たちとともに引き上げ始めた。

 オレはライラを助け出したかったが、動けなかった。

 ライラはゲムアに自由を奪われているし、その周りは部下たちによって包囲されている。下手に動けば、ライラの命が危うい。


「ライラ……」


 信じられない光景に、オレは手にしていた剣を落とした。

 全身から力が抜けていくようで、立とうとしても立てない。

 そのまま、膝を地面につけてしまう。



 守れなかった、愛しいライラを。

 奪われてしまった、最愛の妻を。



「……ライラーッ!!」



 オレは泣き叫ぶことしかできなかった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は10月4日21時更新予定です!

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