第146話 強盗連合
強盗連合とは、ペジテの街を実質的に支配している犯罪組織だ。
強盗連合のボスであるゲムアという強盗を頂点にして、ピラミッド型に組織が構成されている。
構成しているのは犯罪者だけではない。
元兵士、遍歴学生、没落貴族、元乞食、元騎士……。
実に様々な人材が、ゲムアによってスカウトされて強盗連合へと組み込まれていた。
強盗連合の組織を大きく分けると、大佐、士官、軍曹、兵士の4つに分けられる。
軍隊の称号が使われているのは、元々ボスのゲムアが、とある国の軍隊に所属していたためだ。自らの慣れ親しんだ称号だけでなく、その戦術や規律のある行動、訓練といった軍隊の習慣を、ゲムアは組織に持ち込んだ。
そのため、組織は単なるならず者や犯罪者の寄せ集めのようなものにはならなかった。
厳しい訓練と上下関係により、ボスからの命令が最下位の者にまで徹底される。そしてボスに忠誠を誓い、立派な働きをしたり、組織に利益をもたらしたものは昇進もできた。それによって、ボスの側近になったり、ボスに変わって組織を統率して運営する、士官になった者もいたのである。
さらに強盗などの犯罪行為はすべて「作戦」と呼ばれていた。
犯罪をしているという感覚を薄くさせるのと同時に、作戦に参加しているということで、全体の一体感を作り上げ、仲間意識を高めるためでもあった。
そして武器は、剣と弓矢以外に、銃も存在していた。
銃は士官や軍曹といった上層部だけでなく、兵士でも扱うことが許されていた。
これはゲムアの戦略で、実際に自身も軍隊時代に武器として銃を扱っていたためであった。銃を自由自在に操れる人材は、騎士団では貴重だが強盗連合ではほぼ全員が銃を扱えた。
兵士たちには寝床と食事、そして作戦において略奪する権利が認められた。
軍曹や士官といった者たちには、組織への貢献や作戦立案、兵士の指揮といった権限が認められた。
これらの待遇により、内部では誰もゲムアや強盗連合といった組織に逆らおうとするものはいなくなった。
そして大佐であるゲムアは騎士団の上層部と利益を折半することによって、騎士団さえも掌握していた。
それによって、ペジテの街の住人さえも、逆らう者はいなくなっていった。
こうしてゲムアは、裏からペジテの街を支配する「影の領主」としての地位を築き上げていった。
「ゲムア大佐、報告があります!」
「入れ」
ゲムアの一言で、ドアが開けられる。
入ってきたのは、灰色の戦闘服に身を包んだ男だった。戦闘服は強盗連合の構成員であることを示すユニフォームであり、腕の部分に縫い付けられた階級章は、彼が幹部であることを示していた。
「報告とは、なんだ?」
「こちらをお読みください」
幹部が差し出した紙を、ゲムアは受け取る。
情報員としてペジテの街に潜伏している、兵士からの伝令だった。
「明日、アークティク・ターン号がペジテ駅に到着します。――なんと!!」
ゲムアは声を大きくし、目を見張った。
「これは本当か!?」
「はい。別の情報員にも確認しましたが、間違いありません。アークティク・ターン号は明日、確実にペジテ駅に到着いたします」
「でかした! これは年に1度、あるかないかのビッグチャンスだ!」
ゲムアは椅子から立ち上がり、目の前にいる幹部に命じた。
「すぐに人を集めるんだ! 作戦会議を開く!」
「はっ!」
幹部は、すぐに動き出した。
その後、集められた幹部たちとともにアークティク・ターン号襲撃作戦の作戦会議が開かれた。
そして、アークティク・ターン号が到着する日の朝。
「野郎ども、今日は大稼ぎができるぞ!」
ゲムアはそう云って、集められた構成員に告げる。
「今日はペジテの街に繰り出すが、今回は一般人や商店は眼中にないものと思え!」
ゲムアのその言葉に、兵士たちが驚き、戸惑いの色を浮かべる。
これまでに下されてきた命令は、一般人や商店、馬車などを狙うことだった。それらを襲撃して奪ったもので、これまでやってきたのだ。それなのに今回は、それを行わない。
「大佐! それでは我々は何を狙えば良いのでしょうか!?」
軍曹の1人が、ゲムアに問いかけた。
「今回の標的は、アークティク・ターン号だ!」
「あ、あのアークティク・ターン号ですか!?」
標的がアークティク・ターン号だと知り、軍曹や兵士たちは驚く。
唯一の大陸横断鉄道を狙うなんて、これまでに一度もなかった。
その理由として、駅の警備が厳重だからだ。
それにペジテの騎士団とは違い、駅を警備している鉄道騎士団は鉄道管理組合の管轄下にある。もし駅で捕まったりしたら、上層部のコネで解放してもらえることなどない。捕まったらそれこそ、裁判所に送られてそこで裁判を受けることになる。
そんなハイリスクな命令が出るとは!
「その通り、あのアークティク・ターン号だ!」
「た、大佐! 駅の警備は厳重です! 一筋縄では難しいのでは!?」
「大丈夫だ。そこもちゃんと考えてある!」
ゲムアがそういうと、幹部が紙を配り始めた。
「これは……?」
「アークティク・ターン号襲撃作戦の概要である。作戦名は、オペレーション・アルベだ!」
紙には作戦要領として、階級ごとに定められた動きや役割分担が書かれていた。
作戦の内容が外部に漏れださないよう、書かれていることを暗記した兵士たちは紙を小さく丸め、口の中に入れて飲み込んでいく。
「全員、10分後に準備を整えてこの場に集結せよ! 時間に遅れたものには制裁を下す!」
「イエッサー!」
「それでは、準備はじめ!」
ゲムアが命じると、幹部、軍曹、兵士たちがすぐさま動き出した。
全ては紙に書かれていた役割分担に基づき、着々と進行していった。
10分後。
準備を整えた構成員たちが、全員その場に集まった。剣や弓矢、銃器で武装し、馬車の用意まであった。構成員たちは本拠地を守る留守番部隊と、アークティク・ターン号を襲撃する行動部隊とに分かれていた。
すぐにでも出発できる準備が整っていた。
そして、ゲムアが行動部隊の先頭に立った。
「先ほど、情報員より新たな連絡が入った! アークティク・ターン号は予定通り、ペジテ駅に到着した!」
アークティク・ターン号を襲撃することが、決定事項となったことに、構成員たちは色めき立つ。
「こちらも作戦内容に変更はない。アークティク・ターン号の貨物車と乗客から、根こそぎいただくぞ!」
「イエッサー!」
強盗連合の構成員たちが、手にしていた武器を掲げる。
「それではこれより、オペレーション・アルベを開始する。全員、突撃せよ!」
「イエッサー!!」
ゲムアの命令に、構成員たちはすぐに従った。
そして本拠地の門が開け放たれ、武装した強盗連合の構成員たちが飛び出していった。
向かっていくのは、ペジテの街にある駅だった。
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