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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第9章
128/214

第126話 深夜の出発

 オレたちの前に現れたのは、紛れもなくスパナだった。

 しかし、スパナは仕事に行っているはずだ。


「ど、どうしてここにいるんだ!?」

「どうしてって……?」


 スパナが怪訝そうな顔をして、首をかしげる。


「センチュリーボーイが復活したと聞いて、飛んできたんだぜ? 出発していく前に、一度見ておきたいと思ってな」

「仕事は、どうしたんだよ!?」

「仕事なら大丈夫。出勤時間を少しだけ送らせてもらった。普段、こき使われているからな。こういうときには、強引に遅らせることもできるのさ」


 スパナはそう云って笑うと、オレたちに歩み寄った。

 改めて近くで見ると、スパナは意外と整った顔立ちをしていた。正直、顔だけならあのオールといい勝負だ。もしライラがオレと出会う前にスパナと出会っていたりしたら、ライラはスパナと結婚していたのかもしれない。

 オレは男だというのに、スパナに見とれてしまう。


「ビートにライラ、これでオレとはお別れになっちまうな」

「あぁ、そうだな……」


 オレはそう云うと、スパナに頭を下げた。


「スパナ、ゴメン!!」

「えっ、えっ? な、何? 何なの?」


 スパナが不思議そうに云うが、オレはそのまま続けた。


「スパナには、これから旅立つことを真っ先に伝えないといけなかったのに、オレは挨拶を忘れていたんだ! 本当にゴメン!!」

「スパナ君、ごめんなさい!!」


 オレがそう云って、再び頭を下げると、ライラも一緒に頭を下げてきた。

 どうしてもそれだけは、スパナに伝えておかないといけないと、オレは思っていた。


「ビートにライラ、顔を上げてくれよ」


 スパナがそう云い、オレはライラと共に顔を上げる。

 そこには笑顔を見せるスパナがいた。とても怒っているようには見えない。


「オレは、そんなことこれっぽっちも気にしていないぜ? ビートとライラは旅人なんだ。突如として現れて、突如としていなくなる。旅人って、そういうものだろ? オレは最初から、いついなくなってもおかしくないと思って、接してきたんだ。それに、オレたちはそんな畏まって接しなくちゃいけないような仲じゃないだろ? 歳も近いし、それにオレたちは同じ食事を何度も口にした、仲間じゃないか!」


 スパナはそう云うと、オレたちに1つの木箱を差し出してきた。


「これは……?」

「オレからの餞別だ。この先、もしもビートとライラに何かあったときに、きっと力になってくれるはずだ」

「開けても、いい?」

「もちろん!」


 オレの問いにスパナが頷くと、オレはそっと木箱を開けた。


「!?」

「ひっ……!?」


 オレが驚いて目を見張り、ライラが小さく悲鳴を挙げる。

 木箱の中には、10本のダイナマイトが入っていた。赤い防水紙で包まれ、導火線が出ている。この導火線に火が着けば、爆発する。

 オレは冷や汗を流しながら、スパナに訊いた。


「これ、役に立つかな……?」

「もちろんだぜ! なんといっても、オレの手製だからな!」

「あ……ありがとう」


 オレはそれを受け取るしかなかった。

 もし爆発してもこの2等車が吹き飛ばないように、後で貨物車に移動させておこう。


「スパナ君、いろいろとありがとう。わたしたちのこと、忘れないでね」


 ライラが笑顔でお礼を云うと、スパナは顔を紅くした。


「おっ、オレは大したことしてないぜ!? ただ、ビートとライラのことが気に入ったから、色々と厄介になっちまっただけだ!!」


 さすがのスパナも、ライラから笑顔を向けられると動揺を隠せないらしいな。

 オレは思わず、口元が緩んだ。


「それよりも……オレはいつでも、ライラの両親が見つかることを、ギアボックスから祈っているぜ! さーて、仕事に行かなくちゃ! ま、またな!!」


 スパナはそう云うと、ホームをまっすぐ改札へと向かって駆けて行った。

 改札を抜け出たスパナは駅の外に出て、エンジン鉱山の方角へと消えて行った。


「……ビートくん」

「最後にスパナに挨拶ができた。もうこれで、何も思い残すこと無く、ギアボックスを出発できる」

「良かったわね。ビートくん!」


 ライラがそう云うと、オレは笑顔で頷いた。

 その後、オレはスパナから受け取った木箱を、貨物車へと持って行った。




 夜の10時になる少し前。

 ホームに発車時刻を告げるベルが鳴り響き、ホームに居た乗客たちが次々に、停車中のアークティク・ターン号へと乗り込んで行く。あっという間に、ホームに居た人はいなくなり、ホームにはギアボックス駅の駅員だけが残される。


「まもなく、アークティク・ターン号が出発いたします! 出発時刻は、10時ちょうどです!」


 駅員が懐中時計を見ながら叫ぶ。

 そして懐中時計の針が10時を指した時、センチュリーボーイのヘッドライトが点灯して、闇を切り裂いた。さらにセンチュリーボーイは、復活を高々と宣言するかの如く、汽笛を鳴り響かせる。大地を揺るがすような大きな車輪が空転するが、すぐにレールをがっちりと掴み、前へと進み出す。


「さぁて、久しぶりの出発だ! ちゃんと動いてくれよぉ!」


 機関士が運転台から云い、機関助士が燃料をボイラーへと送り込んでいく。

 ホームに残った駅員たちは、帽子を振りながらアークティク・ターン号の出発を見送った。




 アークティク・ターン号の出発の汽笛は、ギアボックスの街全体に響き渡った。

 街の人々ほぼ全てがその汽笛を聞き、アークティク・ターン号の復活を知る。



「……出発したのね」


 レイラが、アパートの一室で計算しながら呟いた。



「どうやら、無事に出れたみたいだ」

「次に会えるのは、いつでしょうか……オール様」

「きっと、そう遠くないうちに会えるさ」


 ギアボックス・インダストリアル・ホテルの部屋から、オールとミアが一列に並んで進む光の行列を眺めていた。



「頑張れよ、ビートにライラ……」


 借家の一室で、スパナがダイナマイトを作る手を休めて、窓から空を見上げる。

 空には、五芒星が輝いていた。




「ねぇ、ビートくん」

「ん? どうかした?」


 ライラが窓の外を見ながら、オレに声を掛けた。

 オレは読んでいた本から顔を上げる。


「今、声が聞こえなかった?」

「いや、オレは何も聞いていないけど……?」

「気のせいかな? なんだか、ギアボックスの方角から聞こえたような気がするの」


 ライラが首をかしげる。

 オレは本を閉じて立ち上がり、ライラの肩に手を置いた。


「きっと、レイラやスパナ、オールとミアが、オレたちにエールを送ってくれたんじゃないかな」

「エール?」

「応援の事だ。オレは、そう信じている」


 オレがそう云うと、ライラは白い歯を見せて笑った。

 うん、やっぱりライラには笑顔が一番だ。




 アークティク・ターン号は夜の闇を切り裂きながら、東大陸を北へと向かって進み始めた。

 この先には、何が待ち受けているのだろう。

 オレは期待と不安を胸に抱いていた。




第9章 ギアボックス編~完~




第10章へつづく

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、8月28日21時更新予定です!


5800PVを達成いたしました!

読んでいただいた皆様、本当にありがとうございます!!

ここまでPVが伸びるとは思っていなかったため、ルトくん感激しております!


次回からはいよいよ、第10章へと突入いたしますが、プロットが完全に無くなってしまいました。

全て書ききってしまったためです。


現時点では今後も同じように毎日更新ができるかどうか、不明瞭な状況です。

なるべく毎日更新をしようと思っております。


今後とも、ビートとライラの旅をお楽しみにしていてください!

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