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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第9章
122/214

第120話 銀狼族は全滅した?

 銀狼族ぎんろうぞく


 北大陸の奥地に暮らす少数民族。白銀の獣耳と尻尾を持つ。男女ともに美男美女が多い。民族の特徴として、男女ともに好きになった相手には生涯を捧げるほど尽くそうとする傾向にある。過去には自らの命を差し出しても相手を救おうとしたこともあった。奴隷としての需要が高く、特に子どもは調教次第で従順な奴隷になることが多いため、子どもが奴隷市場では高く取引される傾向にあった。

 近年、絶滅が確認された。




「そんな……バカな……!」


 オレは本の記述が信じられず、目を見張った。

 隣に居るライラを見ると、ライラは口元を押さえている。衝撃のあまり、言葉が出てこなくなっているみたいだ。


 近年、絶滅が確認された。


 銀狼族が、絶滅していた。

 つまり、もう地上には1人も銀狼族は生き残っていない。


「銀狼族が……絶滅していたなんて……」

「お父さん……お母さん……」


 ライラは絞り出すように云う。


 しばらくして、オレは本を閉じてベルを鳴らした。

 すぐに司書がやってきて、本を回収していった。


 それからのことは、あまりよく覚えていない。

 気がついたらオレたちは、これまで過ごしてきたアークティク・ターン号の個室に戻っていた。




 個室に戻っても、オレたちの頭の中は銀狼族の事に支配されていた。

 銀狼族は絶滅した。

 オレたちにとって、それは認めたくないことだった。


 絶滅したということは、ライラの両親もすでにこの世に居ないということになる。

 オレたちが今日までしてきたことは、全て無駄だったということになる。


 オレたちが受けたショックは、あまりにも大きすぎた。

 食事も喉を通らない。

 食堂車に行く気にもなれない。


「全滅した……お父さんとお母さんにも……もう会えない……」


 ライラが呟くように云う。


「お父さん……お母さん……」


 ライラの膝の上に、一粒の雫が零れ落ちる。

 涙だった。

 ライラの目からは、次から次へと涙が零れて行き、それは止まることを知らない。


「お父さん……お母さん……もう会えない……!!」


 ついにライラは、堰を切ったように泣き出した。

 ライラの耳と尻尾は力なく垂れ、涙は滝のように溢れてくる。


「ライラ……」


 オレはかける言葉が見つからなかった。

 両親とはもう会えない。仲間もいなくなった。

 こういうときに、どういう言葉をかければ、悲しみを慰めることができるのか?

 それを知るためなら、いくらでもおカネを出してもいい。


 どうして、ライラがこんな思いをしなくてはならないのだろう?

 どうして、愛する嫁の悲しみを肩代わりすることができないのだろう?

 オレは残酷すぎる現実と、自分の無力さを呪った。


 そのとき、ドアがノックされた。


「誰だろう……?」


 オレはソードオフを手に、個室のドアを開ける。

 そこに立っていたのは、スパナだった。


「ビートにライラ……って、なんか変じゃないか? まるでお通夜じゃないか」

「スパナか。実はな……」


 オレはこれまでにあったことを、全て話した。




 全てを話し終えると、スパナは首をかしげた。


「それは、おかしいぞ」


 スパナの言葉に、オレは首をかしげた。


「どうしてだ?」

「銀狼族が絶滅したなんて、本当か? 何かの間違いじゃないのか?」


 どうやらスパナは、銀狼族が絶滅したとは思っていないみたいだ。

 しかし、オレたちは確かにそう記述された本を確認した。活字になる情報は、活字になるまでの間に何度もチェックが入っている。だからこそ、活字になった情報は真実とされている。

 そんな当たり前のことを、スパナは知らないらしい。


「おい、活字になったことは真実だろう! そんなことも知らないのか!?」

「ビート、それならお前の嫁はどうして生きているんだ!? 本当に銀狼族が絶滅したというのなら、ライラが生きているのはおかしいだろう!?」


 スパナの指摘で、オレは当たり前すぎて意識していなかったことを思い出した。

 ライラは、銀狼族だ。

 スパナの云う通り、本当に銀狼族が絶滅しているのなら、ライラだってこの世にはいないことになる。だが、ライラは今もそこにいる。


「それにビート、お前は大事な事を知らない!」


 続けざまに、スパナは云った。


「活字になったことは真実だと云ったな? それは嘘だ! 活字になっていることは、ただの情報だ! お前は全ての事を、活字になった情報だけから真実かどうかを判断できるのか? 自分の目で銀狼族が絶滅したことを確かめたわけじゃないだろう!?」

「確かに、そうだ……」


 確かに、スパナの云う通りだった。

 自分の目で、銀狼族が絶滅したかどうかを確認したわけではない。

 オレは何も反論することができない。

 スパナの云っていることは、正しいからだ。


 ふと、オレの背後に流れていた空気が変わった。

 オレはライラが泣き止み、オレとスパナのやり取りに耳を澄ませていることを感じ取る。どうやら、スパナの云っていることを聞いていたようだ。


「それに、重要な情報を持って来たんだ。銀狼族の男女を見たという、リザードマンの奴隷の居場所が分かったんだ!」

「なっ!? それは、本当か!?」


 オレの声に、背後で立ち上がる音がする。ライラが駆け寄ってきて、オレの隣に立った。ひとしきり泣きはらした目が、真っ赤になっていた。


「あぁ。あの後、オレも別で色々と調べていたんだ。そしたら、リザードマンの奴隷はまだギアボックスに居ることが分かった。今は奴隷商館で、カエール族のゲロンという男が管理しているんだ」

「じゃあ、そこに行けば……!」


 オレがそこまで云うと、スパナは頷いた。

 ライラの目にも、光が戻っていた。


「ビート、リザードマンの奴隷の事も、銀狼族の事も、実際に現地に足を運んで、自分の五感全てを使って確かめた方がいい。オレも本当かどうか判断がつかないときは、実際に自分で現地に行って、自分の目で見て確かめるようにしている。それが1番いい方法だと、オレは思うぞ」


 スパナの言葉に、オレは頷いた。

 確かに、間接的に伝わってきた情報よりも、自分で直接確認した情報のほうが、信用できるものだ。


「……わかった。明日にでも、奴隷商館に行ってみる」

「いい報告が聞けること、楽しみにしているぜ」

「ありがとう、スパナ」


 オレはスパナに頭を下げる。

 スパナは同じように頭を下げて答えると、駅を出て行った。




「ビートくん……!」

「ライラ、まだ銀狼族が絶滅したと完全に決まったわけじゃない。ライラの両親は、きっとどこかで生きているはずだ。まずは明日、銀狼族の男女を見たという、リザードマンの男に話を聞きに行こう!」


 オレの言葉に、ライラは目元をぬぐって、頷いた。


「うん!」

「よし、明日は奴隷商館に行こう。それに備えて、何か食べて今日は早めに寝よう!」

「うん!」


 やることは、決まった。



 オレとライラは、食事をしてからシャワーを浴び、まだ他の乗客が眠っていない時間だが、ベッドに入ると明かりを消した。


 明日、奴隷商館で絶対にリザードマンの奴隷から情報を聞き出そう。

 オレはそう決意した。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、8月22日21時更新予定です!

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