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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第9章
120/214

第118話 スパナからの情報

 ギアボックスに来てから、10日目。




 オレたちは、スパナの家に向かっていた。


「ねぇ、それって本当なの!?」

「とにかく、スパナに訊いてみないと何とも云えないよ!」


 オレは隣を歩くライラにそう云いながら、早足でスパナの家に向かう。

 今日は工場もエンジン鉱山も休みらしく、大通りには労働者の姿は見えない。

 歩いているのは、買い物をしている人と観光客ぐらいだ。


 オレたちは大通りを抜けると、労働者たちの住宅がある方角に向かっていく。

 その先に、スパナが暮らしている借家がある。


 どうしてスパナの家に向かっているのか。

 それはちょうど昨日の夜にまでさかのぼる――。




「……よし、これでOK」


 オレは夜中に、個室の机でハズク先生に宛てた手紙を書いていた。部屋はすでに暗くなっていて、明かりは机の上に置いた小さなランプだけだ。

 手紙を書き終えたオレは、インクが乾いたことを確認すると、便箋を封筒に入れて封筒にのりを塗りつけ、封を施す。

 宛先がグレーザー孤児院のハズク先生宛てであることを再確認し、切手を貼りつけた。後はこれをポストに入れたら完了だ。郵便物として貨物列車で運ばれ、1週間後にはハズク先生の手元に届くはずだ。ギアボックスからだと、グレーザーまではだいたいそれくらいだろう。


「さて……と」


 オレは筆記具を片付け、ベッドを見る。

 ライラはすでに、ベッドで眠っていた。

 眠る直前にライラは「眠くなったら、すぐにベッドに横になってね。わたしがいつでも、抱き枕になるから」と云っていた。


「……へへへ」


 オレは思わず頬を紅くし、笑みをこぼす。

 ベッドに横になっている抱き枕は、ライラという名前で抱き心地は最高だ。おまけに落ち着くいい匂いがするし、モフモフまである。

 オレ専用の抱き枕だ。

 遠慮なく、思いっきり抱き枕での安眠をとらせてもらおう。


「それじゃ、オレもそろそろ――」


 オレはランプの灯りを消そうと、ランプに手を伸ばした。

 そのとき、ドアが数回ノックされた。


「誰だ? こんな時間に……」


 オレは念のため、ソードオフを手にする。RPKは貨物車に預けてあるため、取りに行けない。今度、個室まで移動させておいたほうがいいかもしれないな。

 ソードオフを手にしたまま、オレはそっと鍵を外し、ドアを開けた。


「どなた――?」

「夜遅くに悪いな。オレだ」


 小声で、聞き覚えのある声がする。

 廊下に、スパナが立っていた。


「スパナ――!?」


 思わず声が大きくなり、オレは慌てて口を紡ぐ。

 すぐにベッドを振り返ったが、ライラは寝返りを打っただけで、目を覚ますことは無かった。


 そっとため息をつくと、オレはスパナに向き直る。

 ゆっくりと個室の外に出て、音を立てないように後ろ手にドアを閉めた。


「どうしたんだよ、こんな時間に?」

「夜遅くに悪いとは思っているぜ。残業したらこの時間になっちまったんだ。だけど、どうしても伝えておきたいことがあるんだ」

「手短に頼むよ」


 オレは早く寝たかった。

 ライラを抱きしめながら、いい匂いとモフモフの中で眠りたい。


「わかった。実は――」


 スパナが小声で話し出す。

 オレはこの後、手短にといったことを後悔した。


「銀狼族に関する情報が、オレに入ったんだ」

「――えっ!?」


 オレの眠気は飛んだ。


「じゃ、オレはこれにて――」

「ま、待ってくれ! もう少し詳しく!」


 手短にとは云ったが、それは話の内容が重要でないことが前提だ。

 だが、銀狼族が関わって来るのなら、話は別だ。


「ビート、もう夜も遅い。明日、オレの家に来てくれ。明日は休みだから、そこで詳しく話すから。じゃ、おやすみ」


 スパナはそう云うと、2等車を抜けて、ホームを改札に向かって進んで行く。


「ま、待ってよ――!」


 オレは呼び止めたが、スパナはすでに改札を抜けて駅を出て行った。

 スパナの姿が見えなくなると、オレは肩を落として個室に戻った。


「……しくったなぁ」


 オレはランプの灯りを消すと、ベッドに横になった。

 そして起こさないように、ライラに身体を密着させる。


 オレは若干の後悔を抱きながら、ライラの匂いに包まれて眠った。




 そしてオレたちは今、労働者の町を進んでいる。


「あのとき、手短になんて云わなければよかった……」

「ビートくん、大丈夫。これからそれを訊きに行くんだから」


 ライラはそう云って、オレを励ましてくれる。


「それに夜遅かったから、仕方ないよ」

「……ありがとう、ライラ」


 オレがそう云うと、ライラは尻尾を振った。




「ごめんくださーい」

「おう、待ってたぜ!」


 借家のドアが開き、スパナが姿を現す。


「昨夜は遅くに悪かったな。上がってくれよ!」

「ありがとう、お邪魔します」


 オレたちはスパナに促されて、部屋へと入って行く。

 部屋には相変わらずダイナマイトの箱が置かれている。

 イスに腰掛けると、すぐにスパナが紅茶を出してくれた。


「今日が休みで本当に良かったぜ。オレも昨日聞いたばっかりだから、早く伝えられてラッキーだ」

「早速だけど、銀狼族についての情報を教えてほしいんだ!」


 オレはスパナに云う。ライラも同意するように、頷いた。


「いいぜ。全て話そう」


 スパナがそう云って語ったことは、次の通りだった。




 昨日、スパナはいつものようにエンジン鉱山に働きに出ていた。

 エンジン鉱山に降りていく工事用エレベーターに乗りながら、地下へと降りていくスパナ。

 地下の坑道に到着すると、エレベーターから降りて坑道の奥へと進んで行く。


「……ん?」


 いつもと違うメンバーが、いた。

 リザードマンだ。


「珍しいな……日雇いの奴隷か?」


 エンジン鉱山では、日雇いで奴隷が働きに来ることも珍しくは無い。

 よくあることであり、その理由は様々だ。たいていはご主人様からの命令で一定の期間、ある程度のおカネを稼ぐためであることが多い。中には鉱山の所有者や現場監督に当たる者が奴隷を持っていて、労働者の雇用を抑えるために奴隷を使うこともある。その方が、得られる利益は多い。

 スパナたちはいつものように、掘り進めている坑道の最深部までやってきた。


「ようし、今日はここの続きだ! この先には、大規模な鉱脈があると予測されている。当たればかなりの儲けが期待できるぞ。みんな気合を入れろォ!」

「へーい」


 現場監督が声を上げ、労働者たちが生返事をする。いつもの光景だ。

 スパナも生返事をした後、ツルハシを手にして坑道を掘り進めていく。


 ふと見ると、リザードマンも同じように掘り進めていた。

 どうやら、仕事ぶりに問題は無さそうだ。



 昼の休憩になると、ほとんどの労働者は地上へ戻り、食堂へと向かっていく。

 スパナもいつもと同じように、昼の休憩は地上へと戻って食事をする。

 エンジン鉱山の中でも食事はできるが、こんな暗闇の中では死ぬほど腹が減っていないと食事はできそうにない。


「……あれ?」


 スパナは首をかしげた。

 ほとんどの労働者が地上に向かう中、リザードマンはその場から動かない。


 どうして動かないのか。

 気になったスパナは声を掛けた。


「おい、昼休憩だぞ?」

「ん……ああ、そうか。すまんな」


 リザードマンは云った。


「ちょっと、考え事をしていたんだ」

「考え事って、なんだ?」

「大したことじゃない。少し前に、銀狼族の男女を見たことを思い出してな……」


 スパナは目を見開き、リザードマンに近づいた。


「銀狼族の男女を見たのか!?」

「え、ああ……見たけど……?」


 戸惑うリザードマンに、スパナはさらにグイッと近づく。


「教えてくれ! 昼飯奢るからさ!!」

「わ……わかった」




「……それで、そのリザードマンに聞いたところによると、確かに銀狼族の男女を見たことがあるらしいんだ。東大陸の、どこかの街でだ。だけど、それ以上は聞けなかった。昼休憩が終っちまったんだ」

「スパナ、そのリザードマンの奴隷は、今どこに居るんだ?」


 オレはリザードマンの奴隷を探そうと思っていた。

 スパナが聞けなかった情報が、まだあるかもしれない。今度はオレが、銀狼族の情報を集める番だ。


「すまん。それも分からないんだ」


 スパナは残念そうに云う。


「あの奴隷は日雇いだったこともあって、その後どこに行ったのかまでは分からないんだ。現場監督なら知っているかもしれないけど、オレに他人が所有している奴隷のことを詳しく訊ける権限はない」

「そんな……」


 ライラがガッカリした声を出した。


「オレが提供できる情報は、これまでなんだ」

「……わかった。ありがとう、スパナ」


 オレはスパナにお礼を云うと、紅茶を飲み干した。




「ビートくん、どうしよう?」


 列車に戻って来てから、ライラが訊いてきた。


 銀狼族の男女を見たという、リザードマンの奴隷。

 実に気になる情報だ。

 もしもその銀狼族の男女がライラの両親なら、かなり大きな手掛かりになる。


 だが、肝心の情報が少なすぎる。

 銀狼族の男女を見たというリザードマンの奴隷が、どこにいるのかさえ分からない。


「うーん……」


 リザードマンの奴隷を探すことは、現段階ではあまりにも困難だ。

 それ以外で、オレたちにできることは……。


 そのとき、机の上に置かれた1冊の本に目が留まった。

 そういえば、西大陸のミーヤミーヤにいたダイスとジムシィも、本で銀狼族の事を調べていた。


「……図書館だ!」


 そうだ、この方法があった。


「ライラ、ギアボックスにも図書館があるはずだ。図書館に行ってみよう」

「図書館に?」

「リザードマンの奴隷を探すことは、正直云うと不可能に近い。だけど、図書館なら別だ。図書館は移動しないし、銀狼族に関する情報だって、きっと何かあるはずだ」


 オレがそう云うと、ライラはイスから立ち上がった。

 尻尾をピンと立てていて、今すぐにでも動き出したそうだ。


「ビートくん、すぐに図書館に行こう!」

「よし、行ってみよう!」




 オレはライラと共に、個室を飛び出した。

 駅を出たオレたちは、ギアボックスの図書館へと向かって進み出した。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、8月20日21時更新予定です!

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