第11話 告白
「いったい、どういうことだ?」
ボディタッチの回数は数え切れず、これまで口には出さなくとも、行動で好意がかなりあることは分かっていた。
そして今、ライラはオレに100%の好意を告白してくれた。
それなのに、一緒に居ることはダメ。
まるで訳が分からない。
「いったい、どういうことだ?」
オレは納得できなかった。
どうしてお互い好きなのに、一緒にいることがダメなのか。
両親に反対されているとかなら、まだ分かる。
でも、共に同じ孤児院育ちのオレとライラに、両親はいない。
ライラの悲しげな表情からは『本当は嫌だけど、こうしないといけない』という気持ちしか読み取れない。
「わたしも、本当はビートくんと一緒にいたいの」
「それなら問題ないじゃないか! それなのに、どうして!?」
「この先、わたしがビートくんと一緒にいると、ビートくんに迷惑がかかっちゃうの」
「意味が分からないよ! なんでオレに迷惑が!?」
オレは興奮気味に、ライラに問う。
ライラがオレと一緒に居ることで、どうしてオレに迷惑がかかるのか。
「だってわたし……銀狼族だから」
「ぎんろうぞく……?」
聞き慣れない単語に、オレは首をかしげる。
どこかで聞いたことがあるような、無いような言葉だった。
「銀狼族って……?」
「わたしのような獣人族のこと。銀色の髪を持っていて、同じ色の狼耳と尻尾を持つ獣人族のことなの」
ライラがそう説明する。
確かに、獣人族は人族と違って、いくつかの種族に細かく分けられると、授業で習ったことがある。
「でも、それが何の問題なんだ?」
「ビートくん、ここからのことは、内緒にしてくれる?」
「どうして?」
「内緒にしてくれるなら、話すから……」
「わかった。誰にも話さない」
つまり、口外するつもりなら、話さないということ。
ライラからの申し出を、オレは受けた。
「ありがとう。……わたしのような銀狼族は、少数民族でとっても珍しいの。それに、奴隷としてすごく人気があるの」
「ど、どれいとして……!?」
「うん。銀狼族は、美しい白銀の髪を持っていて、美男美女がいっぱいで、本能として好きになった相手には一生を捧げるほど尽くす。そんな種族なの」
ライラの声が、少しずつ震えはじめた。
「銀狼族の持つ特徴は、奴隷として欲しがる人がとても多いの。過去に何度も、銀狼族の子どもが奴隷として売買された話を聞いたことがあるって、ハズク先生から聞いたの」
「で、でも、ライラは奴隷じゃあ――」
「今は大丈夫でも、この先も大丈夫だっていえるの!?」
ライラは震える声で、訴える。
オレはどんな言葉をかけたらいいのか分からず、押し黙る。
「もしもビートくんと一緒に居られるなら、わたしだって嬉しい。でも、もしわたしが奴隷として売買されるようなことがあったら、ビートくんとは永遠に会えなくなっちゃう。わたしは、ビートくんに悲しい思いをしてほしくないの」
「だから、一緒にいることはダメだと……?」
「わたしだけが傷つくだけならいいの。でも、ビートくんと一緒だと、ビートくんまで傷ついちゃう。そんなこと、わたしは耐えられない!」
ライラの目から、涙が零れ落ちる。
今まで必死で耐えていたものが、溢れ出ている。
「だから……わたしはビートくんのことが好きだけど、一緒にはいられないの」
涙を次々に落としながら、ライラは云う。
そうか、ライラがそんなことを考えていたなんて、全く知らなかった。
オレに傷ついてほしくなくて、一緒にいられないと云ったのか。
確かに、もしもライラが奴隷にされそうになったら、オレはライラを助けるだろう。
そのとき、戦いになることは避けられない。
場合によっては、傷つくどころか、命を落とすこともあるかもしれない。
しかし、オレの答えは最初から1つしかない。
「……そんなの関係ねぇよ!」
思わず、オレは大声で怒鳴った。
ライラは大声に驚き、オレに顔を向ける。
「ライラを奴隷になんか、させるものか! どんなことがあっても、オレがライラを守る!」
「ビートくん、本気なの?」
「本気じゃなかったら、両親を探したいという夢に対して『手伝う』なんて云うか!?」
オレはライラが奴隷として売買されたり、性奴隷となった姿を想像した。
正直、吐き気が込み上げてくる。
ライラだけなら、そうなるのも時間の問題かもしれない。
だけど、そうはオレが許さん!
「何があっても、オレがライラのすぐそばにいる! 奴隷になんかさせない。だからライラ、俺と……」
「ビートくん……まるでプロポーズじゃない」
「あ……」
ライラから指摘されて、自分の放った言葉を思い出し、オレは顔を真っ赤にする。
つい熱くなって気がつかなかったが、確かにその通りだ。
側から見れば、プロポーズと何ら変わりない。
「……でも、強盗のときに助けてくれたから、ビートくんはウソを云ってないね」
ライラはそう云うと、涙を拭った。
やっぱり、ライラに悲しみの涙は似合わない。
そのとき、オレはポケットの中に入れていたものの事を思い出した。
ライラからの衝撃の一言で、すっかり忘れていた。
オレはポケットから箱を取り出し、ライラの前に差し出す。
プロポーズみたいじゃなくて、オレは本当のプロポーズをしようと思っていたんだ!
「ビートくん、これは……?」
「実は、ライラに受け取って欲しいものがあって……」
オレはそっと、箱を開ける。
中に入っていたものを見たライラは、驚いて口元に手を当てる。
「ビートくん、これって――」
「あぁ、そうだ。いちばん安いやつで申し訳ないけど、婚約のネックレスだ」
オレの説明に、ライラの目が再び潤み始める。
今度は、悲しみの涙ではない。
「ライラっ!」
「はっ、はいっ!」
「オレは、ライラのことが大好きで、愛している! だからっ、オレと結婚してください!!」
オレはそう云って、箱から取り出した婚約のネックレスを、ライラに差し出す。
「……はい、喜んで。わたしも、ビートくんのことを愛しています」
ライラは目元をぬぐいながら、オレの思いを受け止める。
オレはそっと、ライラの首に婚約のネックレスをつけた。
ライラの胸と首の間で、婚約のネックレスが光った。
ライラは婚約のネックレスに、そっと手を当てる。
「ビートくん、わたしが銀狼族のせいで迷惑かけるかもしれないけど、これからもよろしくね」
「ライラ……」
幼馴染みが、オレの気持ちを受け入れてくれた。
そのことにオレは、飛び上がりたくなる。
オレはそんな気持ちを抑え、そっとライラを引き寄せる。
ライラもオレの意図が分かったのか、身体を預けるように、目を閉じ、オレの背中へと手を回す。
ゆっくりと、オレとライラの距離が近づいていき、やがて零距離になった。
そしてオレとライラは、初めての口づけを交わした。
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