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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第9章
117/214

第115話 AK47

 ギアボックスに来てから7日目。




 オレはスパナと共に、エンジン鉱山の坑道を進んでいた。

 早朝に尋ねてきたスパナから「昨日、いいものを見つけたから見に来ないか?」と誘われ、何が見つかったのか興味が湧いてきたオレは、スパナに同行することにした。

 ライラはまだ眠っていたため、目を覚ました時にオレが居なくて取り乱したりしないように、枕元に置手紙を置いてきた。

 少し心配だが、まぁ大丈夫だろう。


「それで、どこにそのいいものっていうのはあるんだ?」

「もう少し奥なんだけど……正直、これはかなりヤバいものかもしれないんだ」


 スパナが神妙な面持ちで云う。


「自宅にダイナマイトを保管しているのに、なぜビビるんだ?」


 オレはそう云ってからかうが、スパナの目は真剣そのものだった。


「ダイナマイトはまだいい。これはダイナマイトよりもヤバいものかもしれないんだ!」

「ダイナマイトよりもヤバいって、巨人族でも現れたのか?」


 オレは西大陸で見た巨人族を思い出していた。

 列車が一時停車したり、群れからはぐれた巨人族に追い掛け回されたりして、列車を破壊されるのではないかと思ったほどだ。幸いにも、かつてグレーザー孤児院で共に育ったパピィという級友が偶然乗り合わせていた。パピィが巨人族の研究をしていて、巨人族をコントロールできたため、オレたちは難を逃れた。


「巨人族よりも、ヤバいかもしれないんだ!!」


 スパナが大声で云う。坑道にスパナの声が反響して、わんわんと響いた。


「どうして、そう云い切れるんだ?」

「いいから、来てみればわかる!」


 そこまでヤバいと思わせるものって、一体何だろう?

 ますます気になってきた。これはひと目見ずには帰れない!


 本当にヤバいものなのか、スパナが大げさな事を云っているだけなのか。


 このまま何も得られずに帰ってたまるか!

 せっかく早起きしてきたんだ!

 ライラへの土産話の1つでも持ち帰らないと、何も面白くない!



 オレはこの目でしっかりと、スパナが云う「ヤバいもの」を確かめてやろうと、鼻息を荒くした。




 スパナに案内されて連れてこられたのは、エンジン鉱山の中でもかなり奥地に当たる場所だった。

 ボロボロになるまで錆びついた有刺鉄線に囲まれ、頑丈そうな建物が立ち並ぶ場所を、オレはスパナに先導されながら進んで行く。

 街のように見えるが、エンジン鉱山の中にある他の街とは、少し様子が違う。

 建物は同じような作りのものが多く、巨大な芋虫のような建物まである。あれは一体何だろう?


「スパナ、どこまで進んで行くんだ?」


 気になったオレは、先を進むスパナに訊いた。


「もう少しだ。この先に、そのヤバいものが置かれている場所があるんだ」


 スパナはそう云って、さらに奥へと進んで行く。オレはそれ以上何も云わず、黙ってスパナの後に着いていった。


 そしてスパナが、足を止めた。


「ここだ!」


 スパナが足を止めたのは、レンガ造りの建物の前だった。建物は倉庫らしく、入り口には巨大な南京錠で鍵が掛けられていた。しかし南京錠は錆びついていて、触るとポロポロと破片が落ちていくほどに腐食していた。

 スパナは南京錠をモンキーレンチで破壊すると、扉を開けた。


 倉庫の中に入ると、かなり長い間人が立ち入っていないらしく、埃だらけでオレは思わず鼻と口を手で覆った。肺や気管支に入ったら、きっとむせ返ってしまいそうだ。


「見ろよ。すごいだろ?」


 懐中電灯で倉庫の中を照らしたスパナが、中を見て云う。

 視線を追って、オレは目を見張った。


 大量の武器が、倉庫の中に置かれていた。

 ほとんどが銃で、その数はざっと見ただけでも100は超えている。銃は全て同じもので、かなり長い間ここで動かされずに保管されていたのか、埃を被っていた。

 対照的に、槍や剣といった主要な武器は全く無い。


「こんなにたくさんの銃……初めて見た……」


 オレは呆気にとられ、言葉を失った。

 確かに、これはヤバいとしか云いようが無かった。


 まるで、銃だけで戦争ができそうだ。




「ビート、驚くのはまだ早いぞ」


 スパナがそう云って、保管されている銃の中から、1丁を手に取った。

 スパナはついていた埃を払い落すと、近くに置かれていた大きく湾曲した鉄製の部品のようなものを手に取り、銃とつなげた。

 いったい、何をするつもりだろう?


「こっちに来い」


 外に出るスパナを追って、オレも外に出た。


「これから、何をするんだ?」

「いいから、よく見ていろよ」


 スパナはそう云って、銃を構えて引き金を引いた。


「――!!」


 突如として鳴り響いた銃声に、オレは耳を塞ぐ。

 スパナは連続して引き金を引き、リボルバーのように次々に銃から弾丸を発射していく。発車された弾丸は、銃の直線状にあったレンガ造りの建物の壁に、大きめの穴をいくつか作った。作られた穴は大きく、スパナが撃った銃がかなりの威力を持っていることを証明している。

 オレが今まで見てきた銃とは、明らかに異なっている。


「スパナ、なんなんだこの銃は!?」

「驚くのはまだ早いぞ。驚くのは、これを見てからだ!」


 スパナはそう云って再び、その銃を構える。

 そして今度は、引き金を引ききった。


 その直後、オレは再び耳を塞いだ。

 先程の銃声が、連続して聞こえてきた。


 オレは信じられなかった。

 スパナが構えて撃つ銃からは、連続して弾丸が発射されていた。

 スパナは新しい弾丸を装填している様子はない。いったいどこに、何発もの弾丸を入れているというのか?


 オレが知っている銃の常識が、次々に崩壊していく。

 スパナが引いていた引き金から指を放すと、銃は静かになった。

 銃で撃たれた壁は、いくつもの穴をあけていて、穴あきチーズを思い起こさせる。


「……」


 オレが言葉を失っていると、スパナは口元を吊り上げた。


「これが、AK47だ」




 銃を撃ち終えると、スパナは撃っていた銃について教えてくれた。


「えーと、エーケー?」

「AK47だ」

「それが、この銃の名前なのか?」

「あぁ、どうやらそうらしいんだ」


 スパナはそう云って、銃と一緒に見つかったという一冊の本をオレに手渡してきた。

 全く読めない言語で書かれていたが、その本には挿絵があり、スパナが手にしている銃と同じ銃が描かれていた。どうやらこの本は、AK47の取扱いマニュアルらしい。


「どうやらこれは、ライフル銃にあたるものらしいんだ」

「ライフル銃にしては、かなり短いな」

「確かに短いな。でも、あの威力は普通のライフル銃よりも高いぞ? おまけに今使われているどんな銃よりも凶悪だ」


 その言葉に異論は無かった。

 引き金を引くだけで次々に弾丸が発射される銃なんて、存在しないはずのものだ。

 そんな銃があったとしたら、とっくの昔に騎士団や軍隊が使用しているはずだ。


 だが、目の前にあるAK47は違う。


「物語の中以外で、連射できる銃が、存在したなんて……!」

「いや、もしかしたらこれはロストテクノロジーかもしれない」


 また耳慣れない単語が、スパナの口から飛び出してきた。

 オレは首をかしげて、訊き返す。


「ろすとてくのろじー?」

「あぁ、失われた技術のことだ。実はエンジン鉱山から掘り出されているエンジンの中には、明らかに今の技術では製造不可能なものがあるんだ」


 スパナの言葉に、オレは耳を疑った。


「それって、本当なのか!?」

「あぁ。事実、アークティク・ターン号を牽引する機関車、センチュリーボーイはこのエンジン鉱山から産出されたんだ。だから、同じ型の機関車が作れないんだ」


 そういうことだったのか。

 オレが納得していると、突如として頭の中にある考えが浮かんできた。


「そうだ! このAK47、1丁だけもらってもいいか?」

「ダメだ!!」


 スパナが大声で拒否した。


「これは、永遠に眠らせてしまおうと思っている」

「どうしてだよ!? 売ったら、大金持ちになれるかもしれないんだぞ!?」

「ビート、さっきの射撃を見ていて、おかしいと思わなかったのか?」


 スパナから訊かれ、オレは先ほどスパナが行ったAK47の射撃を振り返る。

 連射していたことには驚いたが、それ以外でおかしいところは――。


 ――あれ?


「……そういえば、どうして埃まみれだったのに、まるで手入れが行き届いているようにちゃんと作動したんだ?」

「よく気づいた。そこだよ」


 スパナは、地面にAK47を置いた。


「AK47は、連射ができるだけじゃないんだ。恐ろしいほどの耐久性を持っている。何度か落としたりしたが、全くといっていいほど動作に影響しなかった。そして、これが弾だ」


 ライフル銃の弾丸を、小型にしたような弾丸。

 オレはそれをスパナから受け取り、眺める。

 思っていたほど重くは無い。むしろ、軽いと感じるほどだった。


「この弾丸を、短時間で何十発と撃てるんだ。そんな武器が出回ったりしたら、どうなると思う?」

「……」

「お前は、地上のパワーバランスを変えて、4つの大陸を滅ぼす気なのか?」

「……」


 オレは、何も答えられなかった。

 連射ができて、威力も高く、頑丈な銃。


 そんなものが地上に溢れたら、どうなるのかは目に見えている。


 強盗や悪人たちがこぞって買い求め、悪事に利用する。

 ソードオフでは、AK47に太刀打ちなどできそうにない。

 そうなってしまったら、オレはもうライラを守れない。


 それどころか、銀狼族がそれによって全滅などしたら――。


 オレはそこまで来て、考えるのを止めた。

 酷い光景ばかりが、頭の中に浮かんできてしまう。


「……オレが間違っていた。これは確かに、封印したほうがいい」

「わかってくれて、ありがとう」


 スパナは穏やかな表情で云った。




 倉庫の中にAK47を戻してから、スパナがオレに云った。


「じゃ、オレは地上に戻る準備をしてくるから、ちょっと待っててくれ」

「わかった、ここで待ってるよ」


 オレがそう云うと、スパナは坑道を進んで行き、やがて見えなくなった。

 スパナの姿が見えなくなると、オレは懐中電灯を手に、倉庫の中に入り込んだ。


「このまま、黙っていられるかってんだ……!」


 オレはすぐに、倉庫の中を漁り始めた。

 AK47を手に入れるのは諦めたが、オレは手ぶらで戻りたくは無かった。

 何かAK47に代わる武器を、入手しておきたかった。


 先日の酔っぱらいとの戦いで、オレは苦戦を強いられた。

 理屈の通じない相手に立ち向かうためには、もっと強力な武器が必要だ。

 ナイフを手に入れようかと考えたが、あいにくオレはナイフでの戦い方はよく知らない。使える武器は、ソードオフと自分の拳だけだ。


 この先もライラを守るために、もっと強力な武器が、オレには必要だ。


「……ん?」


 そのとき、オレの目に何かが止まった。

 AK47とよく似た銃だ。

 しかし、AK47よりも大きく、銃身を支えるための足がついている。


 オレはその銃を手に取り、刻印された銃の名前を見た。


「RPK……?」


 どうやら、これがこの銃の名前らしい。

 AK47よりも一回りほど大きいその銃は、ずっしりと重くて長時間持ち運ぶには向かない重さだが、なんとか1人でも持ち運べそうだ。


 気がついたら、オレはその銃を布で包み、弾丸と共にエンジン鉱山から運び出していた。




 昼前に戻って来たオレは、持ち帰ってきたRPKを、貨物車に預けることにした。もしもの時に備えて、いつでも取り出せるように貨物車の1号車に預けた。貨物車の1号車には、鉄道騎士団や車掌が使用する武器も一緒に預けられている。これで何かあった時は、すぐに取り出すことができる。


 個室に入ろうとドアを開けた直後、オレは個室の中に引きずり込まれた。


「ビートくん!!」


 オレを引きずり込んだ相手は、ライラだった。


「あぁ、ビートくん! ビートくんだ!!」


 ライラはオレに抱きつき、ふがふがとオレの匂いを嗅ぐ。


「ライラ、ストップストップ!!」

「もうちょっと、もうちょっとだけ!」


 ライラはふがふがを止めない。

 オレは諦め、ライラがふがふがを止めるまでじっとしていた。



 ふがふがを止めたライラは、落ち着いた様子でオレに訊いた。


「置手紙読んだよ。エンジン鉱山に行ってたんだって?」

「あぁ。スパナから早朝に、面白いものが見つかったとかで呼び出されたんだ」

「どうしてわたしも連れて行ってくれなかったの!?」

「ライラ、ぐっすり眠っていたから、起こすのは忍びなくって……」


 オレはその後、エンジン鉱山でのことを話した。

 しかし、AK47とRPKのことは伏せた。AK47については、スパナとの約束で話さないと決めている。RPKについては、勝手に持って来たものだ。ライラを守るためとはいえ、余計な心配をライラにさせたくはなかった。


 こうしてエンジン鉱山でのことは、スパナから聞いたセンチュリーボーイのことくらいしか、話すことが無くなってしまった。


「……ふぅん、そうだったんだ」


 オレの話を聞き終えたライラは、そう云って立ち上がった。


「じゃあ、そろそろお昼にしようよ」

「いいな。お昼はパスタにでもするか」


 ちょうど、オレはパスタが食べたい気分だった。


「ううん、サーロインステーキ!」


 しかし、ライラの食べたいものは違っていた。


「えっ、サーロインステーキ!?」

「うん! それじゃないとダメ」

「えっ、高いんだけど……」

「ダーメッ! 今日、はサーロインステーキ!」




 そしてオレはその後、ライラと食堂車でサーロインステーキを食べた。

 オレのお腹は膨れたが、財布は少し軽くなった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、8月17日21時更新予定です!

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