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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第8章
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第106話 ライラからのお礼

 オレとライラは、食事を終えて宿屋の部屋に戻って来た。

 アンプの大盛りサービスは、オレが思ったよりも量が多かった。メインディッシュのグリルチキンだけでなく、パンもサラダも量が多い。大食い大会が開かれているかと錯覚するほどの量だった。これで料金は変わらないのだから、採算が取れるのかどうか少し気になってしまう。


 しかし、今のオレにはそんな取らぬ狸の皮算用をしている余裕はなかった。


「うあー……苦しい」


 オレはそう云いながら、ベッドに寝転がる。

 お腹が苦しい。食べ過ぎた。普段の2~3倍の量を食べたのだから、苦しいのは当たり前かもしれない。

 食べ過ぎたときは、横になっているのが一番だ。

 グレーザー孤児院でも、食べ過ぎて苦しくなった後は、横になってゆっくりしているのが一番の対処法だった。それは今になっても変わっていない。


「ビートくん、大丈夫?」


 ライラが、オレに声をかけてくれる。

 ライラはオレと同じかそれ以上の量を食べたというのに、全く苦しそうにしていない。いったいあの細い体の、どこに入ったのか。


「しばらく横になっていたら、きっとよくなるよ」

「そう、じゃあ大丈夫かしら……」

「このまま、昼寝でもしようか。列車の出発は明日の朝9時だから、朝に出発すれば大丈夫。ライラ、一緒に寝る?」


 オレはライラを安心させようと、そう冗談を云ってみる。

 すると、ライラの目がキラーンと光ったように見えた。


「うん! じゃあ、添い寝するね!」

「えっ?」


 オレがライラに顔を向けると、ライラは靴を脱ぎ、ベッドに上がってきた。そのままオレの隣で横になり、オレに身体を寄せてくる。

 ライラはウキウキしながら、オレに身体を密着させてきた。


「らっ、ライラッ!?」

「ビートくんと一緒にお昼寝するの、久しぶり~」


 むにゅん。

 オレの身体に、ライラの胸が食い込んでくる。それと同時に漂ってくる、ライラのいい匂いが、オレの鼻孔をくすぐった。


「あふんっ……」


 オレは興奮してしまい、昼寝どころではなくなってしまう。

 それに気づいているのかいないのか、ライラはオレと1つになろうとする勢いで身体を押し付けてくる。


「えへへ、ビートくん……ビートくん……」


 なんだか、いつも以上にライラが積極的になっているような気がする。

 グリルチキンをたくさん食べたから、ご機嫌になっているのだろうか?


「な、なんだか積極的だな……」

「ビートくんへの、お礼よ」


 ライラの答えに、オレは首をかしげる。

 何かお返しをされるほど、ライラに特別な事をしただろうか?

 思い当たる出来事が、これといって思いつかない。


「ど、どういうこと……?」

「昨日の夜、ビートくんはわたしとレイラちゃんを守ろうとして、戦ってくれたじゃない」


 そう云われて、オレは昨夜のことを思い出す。


 確かに昨夜、オレは酔っぱらいの中年男と戦った。

 ライラとレイラが酔っぱらいの中年男に絡まれて、それが我慢ならなかった。

 ソードオフを持って来ていなかったから、取っ組み合いになってそのままレスリング状態になった。だが、オレは木樽ジョッキで殴られてそのままダウンした。

 あの後、もしライラがリボルバーを持っていなくて、車掌と鉄道騎士団も来なかったら、どうなっていたのだろう?

 あまり想像したくない。


「……結局、オレは負けちゃったけどね。ライラと車掌と鉄道騎士団が居なかったらと思うと――」

「ビートくんは負けていないよ。あの男は、もう逮捕されたんだから。それに、ビートくんが居なかったら、きっとわたしたちは無事じゃ済まなかったはず」


 ライラは、オレをそっと包み込み、尻尾まで使ってきた。


「ビートくん、ありがとう……大好き」

「あうう……」


 耳元で囁くように告げられたお礼の言葉に、オレは耳まで真っ赤になる。

 気持ちが高ぶって来て、興奮状態になってしまう。

 こんな状態では、お昼寝どころじゃない。


 しかし、ライラが寝息を立て始めると、オレの高ぶっていた気持ちも落ちついてきた。

 そしてライラのぬくもりを感じていると、眠気がやってきた。



 いつしかオレは、ライラに抱きつかれながら深い眠りへと落ちて行った。




「……んっ」


 目を覚ました時、オレはライラがいなくなっていることにすぐ気がついた。


「……ライラ?」


 確かに寝る時は、隣にライラがいた。ライラは添い寝してくれて、そのまま一緒に寝ていたはずだ。

 だが、今はベッドに居るのはオレだけだ。


 オレはベッドから起き上がると、大きく伸びをした。お腹の苦しさは、すっかり去っている。窓から外を見ると、夕方になっていた。夕陽がアンプの街に降り注ぐ中、下の道路は家路を急ぐ労働者たちが行き交っている。


 ライラは、どこに行ってしまったんだろう?


 いつも隣に居たライラがいない。

 それだけで、オレは寂しくなってきた。


「ただいまっ!」


 その時、オレの背後でドアが開く音がして、聞き覚えのある声がした。

 振り返ると、そこにはライラがいた。


「ライラ!」

「あっ、ビートくん! 起きたんだ!」


 ライラは手に、大きな紙袋を持っていた。

 紙袋には、食材が詰まっている。


 それを見て、オレはライラがどこに行っていたか悟った。


「起きたらいなかったから、どこに行ったのかと……」

「ごめんね。材料を買いに行ってたの」


 ライラは紙袋を机の上に置く。

 中からは、肉や野菜などの食材が出てきた。


「けっこう買ったね」

「今日の夕食と、明日の朝食の分よ」


 ライラは自慢げに云うと、肉と卵を手にする。


「今日の夕食は、わたしが作るわ! 楽しみにしててね!」

「じゃあ、オレも手伝うよ!」

「ううん、いいの。ビートくんは、座って待ってて!」


 ライラはそう云うと、食材を手にしたまま、微笑んだ。


「ビートくんには、わたしの手料理を食べてほしいから。ね?」

「そうか……わかった!」


 ライラがやる気になっているのなら、無理に協力を申し出る必要はない。

 オレは大人しく、ライラが夕食を完成させるのを待つことにした。


 すぐにライラは食材を手に、備え付けのキッチンで調理を始める。

 オレはイスに座って、夕食が出来上がるのを待つ。調理をするライラを見ていると、自然と視線でライラの身体の線を追っていることに気づき、オレは慌てて目を逸らした。




 ライラは調理を終えると、夕食をテーブルの上に並べた。

 半熟の目玉焼きを乗せたステーキとつけ合わせの野菜、コーンスープ、サラダが並んでいく。そして最後に、パンが入ったカゴをテーブルの真ん中に置いた。


「御馳走だぁ……」


 オレが目の前に並んだ料理の数々を見て呟く。

 その言葉に、ライラは嬉しそうに目を細めた。


「ビートくんがそう云ってくれて、嬉しい!」

「……あれ?」


 オレは料理の数を数えて、首をかしげる。

 何度数えても、2人分の料理しかない。


 レイラの分は、どこにあるのだろう?

 後で作るのだろうか?


 いや、待て!

 そういえば、レイラは帰って来てないぞ?


「レイラの分は?」

「レイラちゃんは、今日は列車で寝るって朝に云ってたわ」

「どうしてまた?」

「ビートくん、にぶいのねぇ」


 ライラはそう云うと、オレと向かい合うように座る。


「わたしたちが2人でゆっくり過ごせるように、気を遣ってくれたのよ」


 そうか、そういうことだったのか。

 列車から降りた後、レイラがライラの耳元で囁いていたこと。

 オレはその内容が、なんとなく分かった。


「……なんだか、レイラに悪いな」

「ビートくん、違うわよ。レイラちゃんに感謝しなくちゃ」

「……そうだな。食べるか!」


 オレがフォークとナイフを手にすると、ライラもフォークとナイフを手にした。


 その日の夕食は、とにかく美味しかったことだけ覚えている。

 久しぶりのライラの手料理だったことも、関係していたのかもしれない。

 半熟の目玉焼きが、レアに焼かれたステーキと絡み合い、美味しさを引き立ててオレは夢中になって食べ進めた。

 オレが「美味しい」と口に出すたびに、ライラは満面の笑みで喜んでくれた。


 あっという間に、オレはライラの手料理を平らげてしまった。




「はぁ……満足」


 オレは食後の紅茶を楽しみながら、休憩していた。

 久々に、ライラの手料理を食べられた。

 アークティク・ターン号で食べていたのは、レストランの料理や携帯食料などだ。もちろんこれらも美味しいのだが、やっぱりライラが作った手料理は一味違う。


 すると、ライラが洗い物を終えてやってきた。


「ビートくん、そろそろお風呂に入る?」

「そうだなぁ……そろそろいい時間だし、入るか」


 オレは紅茶を飲み干すと、イスから立ち上がる。

 先にお風呂に入って、汗を流そう。


「じゃあ、先に入るね」

「もうっ、ビートくんってば、何を云ってるの?」

「えっ?」


 オレが首をかしげていると、ライラがオレの手を取った。


「一緒に入るに、決まっているじゃない」


 ライラは当たり前のことのように云い、オレを脱衣所まで連れてきた。

 脱衣所で、ライラはすぐに衣服を脱いでいく。

 あっという間に、ライラは一糸まとわぬ姿になった。

 オレも服を脱ぎ、ライラと一緒に風呂に入った。



 風呂の中は、1畳ほどの広さがあった。

 ここで体を洗うようだ。

 木でできたイスと、風呂桶が置かれている。


「久しぶりだな。一緒にお風呂に入るの」

「そうね。西大陸で温泉に入った時以来かな?」

「さて、まずは身体を洗うか……」


 オレが石鹸と身体を洗うタオルを手にしようと、手を伸ばす。

 すると、ライラがその2つをオレよりも先に掴んだ。


「えっ?」

「ビートくん、今日はわたしが、ビートくんの身体を洗ってあげるね」

「んなっ!?」


 ライラが、オレの身体を洗うだと!?

 結婚して依頼、初めてのことだ!


 オレは、ライラに体を洗われている自分を想像する。

 もしかして、背中を流してくれると云うことなのか?

 それなら、かなりありがたいが……。


「ビートくん、座って?」

「え、うん……」


 オレは云われた通りに、座った。


「じゃあ、お願いします」

「まかせて!」


 ライラはそう云うと、石鹸を泡立てはじめた。

 人に背中を流してもらえる。こんな日が来るなんて、思ってもみなかったなぁ。

 オレがそうしみじみ思っていると、急に柔らかいものが背中に押し付けられた。


「!?」


 それがライラの胸であることは、すぐに分かった。


「えっ!?」

「ビートくん、じっとしててね?」


 ライラは、背中を流しているのではなかった。

 全身に石鹸の泡をつけ、その身体をオレの身体にこすり付けていた。


「あ、あうう……」


 まさか、ライラがこんなことをしてくるなんて……。

 オレの頭に熱が上っていき、思考回路がショートする。


「まさか、これもお礼なのか……?」

「もちろんよ」


 オレの理性、どこまで持つだろうか?

 若干の不安を覚えながら、オレはライラによるサービスを受けた。




 風呂から出てベッドに腰掛けていると、ライラも風呂から出てきた。


「!?」


 オレはライラを見て、目を見張る。

 ライラはネグリジェに身を包んでいた。ネグリジェは透けていて、ライラの火照った肌がよく見える。ほのかに赤みを帯びた身体が、やけに色っぽい。


「ビートくぅん……」


 ライラがトロンとした目で、オレに近づいてくる。

 そして部屋の灯りを消し、ベッドの枕元にあった小さな灯りだけをつけた。

 部屋の中が、薄暗くなる。


 ライラはベッドに腰掛けたオレに、そのまま抱きついてきた。


「ビートくぅん……好きっ……大好きぃ……!!」

「うわっ!?」


 そしてオレは、ライラからキスを受ける。ライラのキスは唇だけにとどまらず、オレの全身に及んだ。

 キスをする間、ライラは尻尾を振り続けていた。


 こうして見ていると、ライラはただの淫乱な獣人女にしか見えない。

 だが、ライラがここまで乱れた姿を見せる相手は、オレだけだ。

 大好きな相手にしか見せない姿。

 まさに好きになった相手には一生を捧げるほど尽くす、銀狼族の本能が出ている。


 レイラと一緒に旅をし始めてから、ライラとは一緒のベッドで寝ることが1回も無かった。キスなんて論外だ。きっとライラは今、これまで溜まってきた気持ちを、全て出そうとしているのだろう。


 どうしてそんなことが分かるのか?

 なぜならオレも、ライラのことを求めていたからだ!


 ライラはオレの本能を刺激してくる。

 そしてオレは、それまで保っていた理性が一気に崩壊した。


「ライラッ!」

「きゃんっ!」


 オレはライラを抱きしめ、そのままベッドに押し倒した。




 オレとライラは、遅くまでお互いを求め合った。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、8月8日21時更新予定です!


大変ありがたいことに、アクセスや評価がここ数日で急増しています!

読んでいただいた皆様、本当にありがとうございます!

大変励みになっておりまして、感激しています!


ビートとライラの旅はまだまだ続きます。

ルトくんも続きを頑張って執筆していく所存でございますので、

どうぞよろしくお願いいたします!!

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