表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第8章
107/214

第105話 アンプの街

 朝早く、センチュリーボーイの汽笛が鳴り響いた。

 それに呼応するようにブレーキが掛かり、アークティク・ターン号は速度を落としていく。

 前方には、町が見えていた。




 アークティク・ターン号が速度を落とし始めたことに気づき、オレとライラは窓を開けて前方を見た。

 列車が向かう先に、町が見える。


「あれが次の町ね」

「アンプっていう町だ」


 オレが、車内に張られている地図を見て確かめる。


「あの町で、昨日の酔っぱらいの男は騎士団に引き渡されるはずだ」

「これでもう、心配いらないわね。また夜のお茶会も、できるわね」


 ライラが嬉しそうに云うが、オレは夜のお茶会をする気が無かった。


「あぁ。でも、しばらく夜のお茶会は控えようか。またトラブルに巻き込まれるとイヤだし」

「そうですね。それがいいかもしれません」


 オレの言葉に、レイラも頷く。

 ライラはガッカリして、耳と尻尾を力なく垂らした。




 インダスト領モトオル地方アンプ。

 アンプは東大陸の中でも、あまり機械っぽさがない街だ。そのため、街並みは西大陸のような石造りが多く、観光客もそこそこいる。しかし、地下には工場区域が作られていて、地下での製造業が盛んに行われている。地下に工場がある理由は、隣にある最大の工業都市、ギアボックスと地下通路で繋がっているためだ。地下鉄で結ばれ、天候に左右されず輸送ができることから、重宝されている。


 そしてアンプの名物は、地下工場で働く労働者たちを支えるために、増量に増量を繰り返していく中で生まれた「食事の大盛りサービス」だ。


 アークティク・ターン号が駅に到着すると、駅員がプラカードを掲げた。

 プラカードには『24時間停車』の文字が並んでいる。


「よし、降りようか」

「レイラちゃんも、一緒に行こうよ!」


 ライラが誘うが、レイラは首を横に振った。


「お気持ちありがとうございます。でも、私は一緒には行けないんです」

「えっ、どうして?」

「実は――」


 驚いたライラに、レイラが何かレイラの耳元で囁いた。

 それを聞いたライラが、目を丸くして、レイラを見る。レイラは、ライラに向かってウインクした。


「ありがとう! レイラちゃん!」


 えっ、なんだろう?

 レイラはライラに、何を話したんだ!?


 オレはレイラが話した内容が気になって、声を掛けようとする。

 そのとき、聞き覚えのある声が聞こえた。


「おうっ、レイラちゃん!」


 声の主は、ハッターだった。


「あっ、ハッターさん!」

「すまんな! アンプでは、レイラちゃんと一緒に仕入れをする約束があるんだ」

「――そういうわけなんです」


 レイラはそう云って、オレたちに頭を下げる。

 これもアルバイトの1つか。

 先約があるのなら、それは仕方のないことだ。


 しかし……。


「レイラは確か、経理補助のアルバイトでしたよね? 仕入れにも同行するんですか?」

「あぁ。普段は俺だけで仕入れをしているんだが、もしかしたら安物買いの銭失いになっていたり、経費にできないものを買っていたりすることが、あるかもしれないからな。それでお願いして、1度俺の仕入れをチェックしてもらうことにしたんだ。もちろん、バイト代は出すってことで」

「私も、勉強を兼ねてみておきたかったので……」

「それじゃ、悪いけどそろそろ仕入れに行きたいから、またな」


 ハッターはそう云うと、レイラを連れて改札を抜けて行った。

 オレたちはそのまま、列車に残される。


「……ちょっと、残念だったな」

「ううん、そんなことないよ!」


 ライラはそう云うと、オレの左腕に抱きついてくる。


「ビートくんと一緒に居られるなら、わたしはそれで十分だから!」

「こいつぅ~」


 オレは右手でライラの頭を撫でる。


「えへへ~」


 ライラは尻尾を振りながら笑顔を向けてくる。


 オレたちは駅を出て、アンプの街を歩き出した。




 アンプの街を観光したオレたちは、安い宿屋に入った。

 ライラが選んだ宿屋で、部屋の中にキッチンがあった。

 どうやら、宿屋にレストランが無い代わりに、部屋に食材を持ち込んで、自分で調理をして食事を食べるようになっているみたいだ。それを裏付けるように、調理器具や食器は十分な数が備え付けられている。


 ライラはどうして、こんな宿を選んだんだ?


「ライラ、どうしてここを選んだの?」

「えっ、どうしてって?」


 オレは気になって、ライラに訊いた。


「この宿、確かに安いけど、食事は自分で作るみたいだ。食材を買ってこないといけないし、大変じゃないか?」

「いいじゃない。たまには」


 ライラがそう云うなら、まぁいいか。

 旅の途中でも、たまには自炊するのも大事だ。

 料理ができることで、得をすることはあっても、困ることはまずない。


 さっそくだが、昼食の食材を買い出しに行くのもいいだろう。


「ライラ、これから――」


 食材を買いに行かない?

 そう云おうとしたオレだったが、ライラはそれを許してくれなかった。


「ビートくん、この街のレストラン、大盛りサービスをしているんだって! せっかくだからグリルチキンを大盛りにしてもらおうよ! お昼時だから、きっとすぐに混んじゃうよ! 早く行こう!」


 ライラが手を取って、オレをグイグイと引っ張っていく。


「……はぁ」


 ライラに気づかれないように、オレはそっとため息をついた。

 そしてライラと共に、オレたちはレストランに向かった。




「はい、お待たせしました」


 オレたちの目の前に、大盛りにされたグリルチキンが置かれる。

 大きな鶏肉を焼いたものが来るのかと思っていたら、標準的な大きさのグリルチキンがいくつも盛られて出てきた。大盛りとは、こういうことか。


「すっごーい!」


 ライラの目が、キラキラと輝いている。


「お嬢さん、大盛りサービスは初めてかい?」

「はい! こんなにたくさんで、料金は同じなんですか?」

「そうだよ。たくさん食べていきな!」


 オバちゃんの給仕が行ってしまうと、オレたちはフォークとナイフを手にして、グリルチキンを食べ始めた。


「そういえば、レイラは?」

「レイラちゃんは、今日は1日ハッターさんの仕入れに付き合うことになっているから、食事もハッターさんと食べるみたいよ」


 ライラがそう云って、グリルチキンを食べ始める。

 レイラはこのまま、ハッターの弟子にでもなるつもりなのだろうか?


「ビートくん、早くしないとなくなっちゃうよ?」

「えっ?」


 ライラの言葉に、オレは目の前に置かれていた皿を見る。

 グリルチキンが盛られていた皿には、もうあと少ししかグリルチキンが残っていない。ほとんど、ライラが自分の皿に取り分けていた。


「ライラ、そんなに食べられるの?」

「ビートくん、わたしはグリルチキンが大好物だってこと、忘れてないよね?」


 ライラはそう云って、次々にグリルチキンをパクパクと食べ進めていく。




 ライラはあっという間にグリルチキンを完食してしまい、オレの考えていたことは杞憂に終わる結果となった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、8月7日21時更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ