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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第8章
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第102話 向かう場所

 アークティク・ターン号は、再び東大陸を疾走していく。

 そんな中、3等車ではブルカニロ車掌が首をかしげていた。


「おかしいですね……」


 ブルカニロ車掌は云う。


「ミラー駅から新たに1人、レイラという方がご乗車になっているはずなのですが……どちらへ?」


 姿が見えない乗客を探して、ブルカニロ車掌は3等車を歩き回っていた。




 オレたちは久々に、ミッシェル・クラウド家が使用している特等車にやってきた。

 お茶会に、誘われたのだ。


「こ、この先に……あの……有名な、茶豪のクラウド家の方々が……?」


 レイラが特等車の扉を見て、声を震わせている。

 お茶会には、レイラも参加することになっていた。誘われた時にレイラも連れて行っていいかどうか訊き、ナッツ氏から許可を得たのだ。

 すでにレイラの分のお茶菓子も、用意されているという。


「そうよ。そんなに緊張しなくても大丈夫。ココさんもナッツさんも、すっごくいい人たちだから!」

「ライラの云う通りだ。さ、入ろう」


 オレがノックすると、メイヤが出迎えてきた。


「お待ちしておりました。どうぞ中へ」


 メイヤはライラを見ても、もう土下座をすることは無くなっていた。

 成長したメイヤに、オレたちは安心と少しの寂しさを覚える。


「メイドさんが……!」

「そうよ。メイヤちゃんっていうの。わたしたちが、クラウド家に紹介して、今はクラウド家に仕えているのよ」

「ライラ様、立ち話も何ですから、どうぞ中へ」

「そうだな。まずは中に入ろう。ココ夫人やナッツ氏を待たせるわけにもいかないし」


 メイヤの言葉に従い、オレたちは特等車の中へと足を踏み入れていく。




「ははははっ!! ビート氏にライラ夫人よ、待っておったぞ!!」


 相変わらず豪快にナッツ氏が笑う。

 レイラを見たナッツ氏は、ココ夫人と共に目を丸くしていた。明らかに、驚いている。


「そなたがレイラ女史か。ライラ夫人から話は聞いているぞ! 本当にライラ夫人とそっくりだな! まるで姉妹か双子に見えるぞ!」

「本当ね。可愛い獣人族の少女が2人なんて……ビートくん、ライラちゃんとレイラちゃんを間違えちゃダメよ?」

「き、気をつけます」


 確かにそっくりだが、首元を見れば一目瞭然だ。ライラは婚姻のネックレスをつけているが、レイラはつけていない。

 ライラは銀狼族だが、レイラは白狼族だ。血のつながりも、もちろんない。

 それによく見ると、ライラとレイラは似ているようで実は少し違う。微かにではあるが、決定的な違いがあるのだ。これはライラと産まれた頃から一緒に過ごしてきたオレだからこそ、分かることなのかもしれない。オレ以外で分かる人といえば、どこにいるか分からないライラの両親だけだろう。

 そのためオレは、今のところたったの1度もライラとレイラを間違えたことは無い。


 だが、そう云ってココ夫人の面子を潰すのはマナー違反だろう。

 オレは何も云わず、ココ夫人の忠告を受け止める。


「あの……本当にこのお2人が、あのクラウド茶会のオーナーと、そのご婦人なのですか?」

「そうよ。そんなに緊張しなくても大丈夫。すっごくいい人たちだから!」


 ライラがそう云うが、レイラはガチガチに緊張していた。

 無理もない。相手はクラウド茶会のオーナー一族だ。オレたちだって最初は、ココ夫人とナッツ氏を見て、かなり緊張していたのだから。


「ところで、ビート氏とライラ夫人は、どうしてレイラ女史と出会ったのだ?」

「話すとと長くなりますが……」

「構わない。聞かせてくれないか?」


 興味津々なナッツ氏とココ夫人。


(レイラ、話してもいいか?)

(ど……どうぞ……)


 レイラが小声で云うと、オレは頷いて語りだした。




 オレがレイラのことを話し終えると、ナッツ氏は腕を組んで何かを考えていた。

 いったい、どうしたというのだろう?

 オレは変な事を云ってしまったのかと、少し不安になる。


 しかし、話した内容を思い返しても、それらしいものは思いつかない。

 レイラを助けたこと、経理の仕事を探していること、ミラーから一緒に旅をしていることぐらいしか話していないのだ。


 オレが首をかしげていたときだった。


「レイラ女史よ、経理ができるといったな? 経理は何年続けてきた?」

「はい、5年です。貸借対照表と損益計算書も難なく作れますし、読めます」

「そうか。ならば是非、ギアボックスまで行きなさい」


 ナッツ氏が云う。


「ギアボックスには、我がクラウド茶会の支店がある。ギアボックス支店だ。今、ギアボックス支店は売上が伸びていて、経理ができる人を募集しているはずだ。私の方からも電報を打って、連絡しておく。そこで面接を受けなさい。見事採用になったら、そこで働くといい。私は大いに歓迎する」

「ほ、本当ですか!?」


 次の就職先は、クラウド茶会になるかもしれない。

 有名なクラウド茶会で働くチャンスを得られたことに、レイラは大喜びする。


「あ、ありがとうございます!」


 レイラはテーブルに額をつけそうな勢いで、頭を下げた。


「まあまあ、落ち着いて。まだ採用と決まったわけじゃない。それに――」


 ナッツ氏は、そっとティーカップを持ち上げる。


「今は、美味しいお茶を、みんなで楽しもうではないか」


 それに賛成だ。

 オレとライラも、ティーカップを手にした。

 それに続くように、レイラもティーカップを手にし、紅茶を飲んだ。


 メイヤとラーニャは、そんなオレたちを見て、目を細めていた。




 お茶会が終了すると、オレたちはミッシェル・クラウド家にお礼の言葉を述べ、特等車を後にした。


「紅茶、とっても美味しかったです!」

「でしょ? クラウド茶会の紅茶って、本当に美味しいの! それにお茶菓子も美味しくて、ついつい食べ過ぎるの」

「わかります! 私もあのワッフル、やみつきになっちゃいそうでした!」


 2等車に向かって歩いていく中、ライラとレイラは、並んでお茶会の間奏を交換し合う。

 こうして見ると、確かに姉妹か双子のようだ。


 そのとき、オレたちの前に1人の男が現れた。


「レイラさんですね?」


 現れたのは、ブルカニロ車掌だった。


「は、はい……」

「切符を拝見いたします」


 ブルカニロ車掌が、白手袋をはめた手を出し、レイラはそれに応じてポケットから切符を取り出す。切符は身分証明書と一緒になっていたため、レイラは途中で身分証明書をポケットに戻した。


 切符を受け取ったブルカニロ車掌は、レイラに目を向ける。


「お客様、3等車にご乗車されているようですが、昨日の夜に切符を拝見しに伺った時は、3等車には居なかったようなんですが?」


 どうやらブルカニロ車掌は、レイラが不正乗車をしたのではないかと疑っているようだ。

 しかし、レイラにはアリバイがある!


「実は、わたしたちと話しこんじゃって、ずっと2等車の個室でわたしたちと一緒だったんですよ!」


 ライラが、昨夜のレイラの行動を話した。

 いいぞ、さすがはオレの妻だ。


「そうなんですよ! それで、昨夜はずっとオレたちと一緒だったんです! それにほら、2等車個室の切符を持っている人が、3等車の切符を持っている人を連れ込んでも悪くは無いでしょ?」


 オレもアリバイを補強すると共に、2等車の切符を見せる。

 原則として個室を使うことができるのは、その個室に応じた切符を持っている人だけだ。しかし例外として、2等車の切符を持っている人から誘われたりした場合に限り、3等車などランクが下の切符を持っている人も、個室に入ることができる。それが許されているからこそ、オレたちもクラウド家の特等車でお茶会に参加できる。

 他にも、そうやって乗車している人は大勢いる。交流するためには、欠かせないことだ。


 オレたちの発言を信用したのか、ブルカニロ車掌は頷いてレイラの切符にハサミを入れると、それをレイラに返した。

 レイラは恐る恐る、ハサミが入った切符を受け取る。


「仲が良いのは、良いことですね。ただ、切符を拝見するときは、できれば切符に対応した車両に居るように努めて下さいね」


 ブルカニロ車掌はそう云うと、オレたちが先ほどまでいた特等車に向かって歩いていく。

 ブルカニロ車掌の姿が見えなくなると、レイラは大きく息を吐いた。


 レイラの切符を見ると、ちゃんとハサミが入っていた。


「レイラちゃん、これでもうどこで過ごしても大丈夫よ」

「は、はい……ありがとうございます」


 レイラは微笑むと、切符をポケットにしまった。


「よし。じゃあ、個室に戻ろう!」

「うん! ビートくんの匂いをフガフガしたーい!」

「ライラ、レイラが居るんだから自重してくれ」




 オレたちを乗せたアークティク・ターン号は、まだまだ平野を走り続けていく。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、8月4日21時更新予定です!

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