表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第8章
103/214

第101話 ライラのそっくりさん

 オレたちは、アークティク・ターン号で東大陸のミラーという町に到着した。


 ミラーは、その名を表すかの如く、鏡の製作が盛んに行われている。そのため鏡を取り扱う会社の企業城下町として発展してきた。郊外にはガラスの原料を採掘する鉱山があり、ミラーの街中はガラス工房や鏡に使う金属を加工する工房が立ち並んでいる。

 まさに街そのものが、巨大な鏡製造工場だ。




 オレとライラはアークティク・ターン号から下車すると、すぐに駅を出てメインストリートを散策する。

 その途中で、オレはライラを連れて、日用雑貨の店に入った。


「いらっしゃいませ~」


 店員さんの声が、店内に響く。


「ビートくん、何か買うの?」

「1つだけ、あるんだ」


 オレはそう云うと、コンパクトな折りたたみ式の手鏡を置いてあるスペースに移動する。


「おっ、さすがはミラーだな。鏡ならなんでも揃ってる」

「ビートくん、手鏡が必要なの?」


 ライラが首をかしげるが、オレは首を横に振った。


「違うよ。ライラは、使うならどれがいいと思う?」

「えっ、どうしてそんなことを?」

「いいから、聞かせてよ」


 オレが促すと、ライラはいくつかの手鏡を手に取って見比べ始める。

 いいぞ。そのままどんどん見比べてくれ。


 しばらくしてライラは、1つの手鏡で手が止まった。


「わたしなら……これかしら?」


 ライラが選んだのは、折りたたみ式のコンパクトな手鏡だった。

 大きさも十分で、デザインも女性向といった感じがする。

 値段も、それほど高くは無い。


 よし、これか!


「ありがとう。ちょっと、借りるよ」


 オレはそう云うと、ライラから手鏡を取り上げた。

 そしてそれをそのままレジに持って行き、会計を済ませてから店を出る。


 ライラも、そこまで来ると俺の考えに気づいたようだ。


「ビートくん、まさか!」

「はい、これ」


 オレはつい先ほど購入した手鏡を、ライラに差し出した。


「前から手鏡、欲しがっていただろ? いい機会かなと思ってさ」

「嬉しい!」


 ライラは満面の笑みで、オレの手から手鏡を受け取る。


「ありがとう! 大切にするね!」


 ライラは手鏡をしまうと、オレの頬にキスをした。


「うをっ!?」


 まさか、キスまでされるとは思っていなかった。

 ていうか、ここでは止めて欲しかった。


 オレたちは通行人から、生暖かい目で見られてしまった。




 手鏡でご機嫌になったライラは、オレの左手を抱きしめながら尻尾をブンブン降ってオレの隣を歩く。夫婦なのだからいいとは思うが、やっぱり人前でやると少し恥ずかしい。

 対するライラは恥ずかしさなど、微塵も感じていないようだ。

 ライラのその大胆さが、今のオレには羨ましかった。


「……ん?」


 街を進んでいたオレたちは、前方で何かもめごとが起きていることに気づいた。


「来いっ!」

「やめて!」


 獣人族の女性が、2人組の男に馬車に乗せられようとしている。

 どこからどう見ても、連れ去りの現行犯にしか見えない。


 オレたちは視線を交わした。

 助けるしかない。


「オレはあの男を撃つ。ライラは獣人族の女性を保護するんだ!」

「了解、ビートくん!」


 オレはすぐにソードオフを取り出し、男たちに銃口を向けた。


「食らえっ!」


 そしてそのまま、オレはソードオフで男たちを強襲した。

 ソードオフから放たれた非致死性の弾丸が、男たちに命中すぐ。


「ぎゃあっ!?」


 突然銃で襲われて、連れ去ろうとしていた男たちは獣人族の女性を放す。

 獣人族の女性は解放され、その場に倒れた。


「邪魔が入った!」

「逃げろっ!」


 男たちは馬車に飛び乗ると、慌ててその場から走り去っていく。

 オレは馬車に向けて、残っていた弾丸を撃つ。命中はしなかったが、後ろから狙われたという印象は与えられただろう。これで、少ししてから戻って来る可能性は低くなった。


 オレはすぐに、ライラに駆け寄る。

 ライラはすでに、倒れた獣人族の女性を抱きかかえていた。

 どうやら、獣人族の女性は気絶しているようだ。


「大丈夫かライラ……!?」


 駆け寄ったオレは目を見張った。

 獣人族の女性は、ライラと瓜2つだった。


「ライラが2人も……!?」

「ビートくん、何を云ってるの……?」

「ライラ、さっきの手鏡を見て!」


 ライラはすぐに、オレが渡した手鏡を取り出すと、それで自分の顔と獣人族の女性の顔を確認する。

 それでようやく、ライラも獣人族の女性が自分と瓜2つなことに気づいた。


「ライラ、ひとまず駅に連れて行こう!」

「了解だよ、ビートくん!」


 オレとライラは、両側から抱きかかえると、獣人族の女性を連れてミラー駅に向かった。




 オレたちは獣人族の女性を駅に連れて行き、駅員にこれまでのことを話した。

 駅員はすぐに駅員室に案内してくれ、その奥にある救護室で、傷の手当てもしてくれた。


 その頃には、獣人族の女性も意識を取り戻していた。


「助けていただき、ありがとうございます。私は白狼族のレイラと申します」


 レイラと名乗った女性は、手当てを受けながらオレたちにお礼の言葉を述べた。

 よく見ると、レイラとオレたちは年が近いようだ。


「是非、あなたたちの名前を聞かせて下さい」

「オレはビート」

「わたしはライラよ」


 オレたちは自己紹介をする。

 ライラは先ほどからずっと、手鏡で自分とレイラの顔を確認していた。


「本当に、そっくりだな……!」

「まるで、わたしがもう1人いるみたい……!」


 オレとライラの言葉に、レイラは困惑したように顔に手を当てる。


「そ、そんなに似ていますか?」

「ほら、これ見て!」


 レイラに、ライラが手鏡を差し出す。手鏡で自分の顔を見た後、レイラはライラの顔を見る。レイラの表情が、驚きの色を鮮明にしていく。どうやらようやく、レイラもライラと自分が似ていることに気づいたようだ。


「あなたも、白狼族なんですか?」


 レイラの問いに、ライラは首を振った。


「ううん、わたしは銀狼族なの」

「そうなんですか。実は……」


 レイラは、これまでのことを話してくれた。


 少し前まで、レイラは小さな鏡の工房で住み込みで働いていた。

 物心ついた時には両親は居らず、学校で読み書きと計算を学んだ後は、鏡の工房で経理事務をしていた。おカネの計算が得意だったことから、鏡の工房では重宝されていて、親方や女将さんから経理はほとんど任されていたという。

 しかし、勤めていた鏡の工房が大きな鏡の製造会社に吸収合併されてしまうことになった。そのときに、レイラは解雇されてしまった。

 他の鏡の工房で経理の仕事を求めたが、他の工房では事務員がやっていることが多く、どこもレイラを雇おうとはしなかったという。

 そんな中、あっという間に住み込んでいた工房を追い出され、自分にはもう需要が無いのかと途方に暮れていた所を、通りかかったあの男たちに襲われたという。


「あの時、あなたたちがいなかったら、私はきっと奴隷として売り飛ばされていたでしょう。本当に、ありがとうございました」


 身体につけられた傷口を撫でながら、レイラは悲しげに云う。


 オレたちは胸が痛んだ。

 レイラは真面目に生きてきた。

 どうしてそんな人が、こんな辛い現実を味合わないといけないんだ!?


 こんな世の中、間違っている!!


 それは、ライラも同じようだった。

 他人とは思えないくらいに似ているレイラに、親近感を抱いていたのかもしれない。


「ビートくん」

「うん。なんとかしよう」


 レイラに手を貸そうと、オレたちはこの瞬間に決めた。




 少なくとも、レイラはずっとおカネの計算をしてきたんだ。

 需要が無いなんてことは、絶対にないはずだ!

 おカネの計算をずっとしてきたのだから、商人なら欲しがる人も多いはず!


 ……ん? おカネ?


 オレはふと気になって、レイラに訊いた。


「ところで、おカネは持ってるの?」

「ずっと貯めていたので、いくらかありますが……」

「今は、どこに?」

「他の荷物と一緒に、ロッカーに預けてあります」

「そうだわ!」


 ライラが、ポンと手を叩いた。


「レイラちゃん、このアークティク・ターン号で一緒に旅をしようよ! もしかしたら、もっといい所に辿り着くかもしれないわ!」

「お気づかい、ありがとうございます。でも、アークティク・ターン号の切符は高いですよね?」

「3等車を使えば大丈夫よ! それに、いざというときは、わたしたちが使っている個室にこっそり忍び込めば……!」


 ライラの発言に、オレは慌てて手を出した。


「ライラ、それはダメだ。キセル乗車になる!」


 オレが指摘すると、ライラは残念そうに獣耳を垂らした。

 そんなオレたちを見て、レイラが十分だと手でジェスチャーする。


「私のために……ありがとうございます。そのお気持ちだけで、十分です。私はもう1度、この街で経理の仕事を探します」


 しかし、本当にこれでいいのだろうか?

 なんだか、まだできることがオレたちにはあるような気がした。


「……そうだ! もっといい方法があった!」


 ライラが、再び手を叩いた。


「キセル乗車以外で頼むぞ?」

「今度は絶対大丈夫よ! ちゃんとした乗り方だから!」


 ライラはそう云うと、レイラに近づいた。


「レイラちゃん、ちょっと耳を貸して」

「えっ? なんですか?」


 ライラがレイラの耳元で、何かを話し始める。




「おまたせいたしました!」


 救護室から出ると、レイラはロッカーに預けていた荷物を持って戻って来た。トランク1つだけの荷物で、レイラの置かれていた環境を察する。

 これだけの私物しか、持つことを許されなかったのか……。


「3等車の切符も、手に入れました!」


 レイラは正真正銘の、アークティク・ターン号の3等車の切符を持っていた。


「切符、高かったか?」

「お値段は張りましたが、これで新しい環境に行けるなら、安いですよ!」


 レイラは切符を、落とさないように身分証明書と一緒にトランクに入れた。




 やがて、アークティク・ターン号の出発時刻がやってくる。

 オレたちははレイラと共に、アークティク・ターン号に乗り込む。



 そしてそのまま、オレたちはレイラを連れ、2等車の個室に入って行った。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、8月3日21時更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ