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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第1章
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第9話 変化

 強盗事件が解決した後、グレーザー孤児院で暮らすオレはお手伝いのオバちゃんや他の子どもたちから『単身(ひとり)で強盗4人を撃退(げきたい)したすごいやつ』と見られていた。

 小さい子どもは、オレの英雄譚(えいゆうたん)(?)を聞きたいとせがんできて、そのたびにオレは何度も同じ話を聞かせた。

 何度も話してきたことなのに、小さい子どもたちは目をキラキラさせて聞いている。

 どうやらオレはヒーロー級の扱いを受けているらしい。

 彼らからすれば、ヒーローから直接話を聞けるのであれば、同じ話でも()きないのかもしれない。



 小さい子どもたちが去っていくと、オレは読みかけだった本を開いた。

 やれやれ、やっとこれで本の続きが読める。


 そう思ったのも、(つか)()


「ビートくん!」

「んがっ!?」


 突然、背後(はいご)から抱きつかれる。

 ライラだった。


「ビートくん、やっと小さい子たちから解放(かいほう)されたのね!」

「今度はライラか……」


 オレは(あき)れた口調で答える。

 ライラの行動も、かなり変化していた。

 これまでは最も距離(きより)の近い幼馴染(おさななじ)みだったが、強盗事件後の今では近いどころかゼロ距離になっているのが普通だ。

 ボディタッチが当たり前だ。

 授業や食事の時は必ず隣に(すわ)るし、1人でいると、こうしてほぼ必ず抱きつかれる。

 おかげでゆっくりと本を読む時間は、今のオレにはほとんどないといってもいい。


 しかし、ライラに抱き着かれるのが嫌なのかというと、そんなことはない。

 ライラは美少女だし、身体(からだ)は女性らしく成長中だ。いい匂いもするし、()で心地も最高。なにより、オレと一番(なか)の良い幼馴染みだ。

 そんな幼馴染みが好意をむき出しにしてべったりなのだから、嫌なわけがない。


「ねぇ、今日も頭()でて」

「昨日も……というか数時間前も同じようなこと云ってなかった?」

「忘れちゃった。でも、頭撫でてほしいの」

「仕方ないなぁ……」


 オレは本を閉じ、ライラの頭を撫でる。

 いつもと変わらず、撫で心地は最高だ。

 オレが撫でるたびに、ライラは嬉しそうに尻尾(しつぽ)を振り、笑顔を見せてくれる。


「あぁ……いい気持ち」

「よく飽きないな」

「飽きることなんて考えられないよ。こんなに、いい気持ちになるのに」


 これじゃまんま犬だ。

 オレは(なか)(あき)れながらも、確かに感じ取るものがあった。


 ライラのオレに対する好意は――。


 そのとき、夕食の時間を告げるベルが鳴った。


「あっ、もう夕ご飯の時間!?」

「そうらしいな」

「ね、早く食堂に行こうよ!」

「そうするか」


 オレは撫でる手を()めると、本を本棚に戻し、ライラと共に食堂に向かう。

 もちろん、ライラはオレの左手を(つか)んで離さない。

 そしてオレと手を繋いでいる間、ずっと尻尾を振り続けていた。



 オレは夜のベッドで1人、眠れずに天井(てんじよう)を見つめていた。


(……ライラ)


 オレは(なや)んでいた。

 ライラのオレに対する好意は、(まぎ)れもなく本物だ。

 こういうものは、中途半端にやると途端(とたん)に嘘くさくなる。 

 しかし、さすがにあそこまであからさまな好意だと、誰だってまず疑うことはない。


 ライラは気づいていないのかもしれないが、美少女にあそこまで好意を向けられて、落ちない男はいない。

 さらにオレにとってライラは、小さい頃からずっと一緒だった。

 一緒にいると、気を(つか)う必要が無いし、何より安心できる。

 それに考えていることだって、手に取るようにわかる。

 距離が近い幼馴染みとしての特権だ。


(オレも、変わったのかもしれない)


 オレは最初、ライラのことは『単なる幼馴染み』としてしか見ていなかった。

 勉強が思うように進まず、居残りになるライラの勉強を見ていたのは、ほぼ毎回オレだった。

 当初は『迷惑な役回(やくまわ)りを押し付けられた』と思っていたが、ライラができるようになっていくのが、オレは純粋(じゆんすい)に嬉しかった。

 そして、子どもをあやすような感じで、ライラの頭を撫でた。

 オレはライラの頭を撫でるのが楽しみになり、ライラも撫でられることを喜んでいた。

 いつしか、オレとライラは『単なる幼馴染み』から『最も仲の良い幼馴染み』へと変化していった。


 ライラのことを考えると、胸が苦しくなる。

 この気持ちがなんなのか、オレの中では答えは出ていた。


(ライラ――好きだっ!)


 オレは布団(ふとん)で声を押し殺して、自分の素直な気持ちを口に出す。

 自分の気持ちに、ウソはつけない。

 オレはライラのことが好きで、愛している。


 しかし同時に、オレはさらに胸を()め付けられるような苦しみに襲われる。


 ライラと一緒にいられる残された時間は、あと2年しかない――。


 グレーザー孤児院では、12歳になると、就職(しゆうしよく)するか進学するかで孤児院を出ることになっている。

 そこに例外は無い。


 そのため12歳になる1年ほど前から、進学する子ども以外は職業(しよくぎよう)訓練(くんれん)を受けるようになる。

 職業訓練とはいっても、実際は単なるアルバイトのようなものだ。

 興味がある仕事場に行って、アルバイトを行い、わずかばかりだがおカネを貰いながら自分に合っている仕事かどうかを見極(みきわ)めていく。

 そして12歳になる頃に、就職先を決める。

 就職とはいっても、商人や職人の弟子になったり、飲食店に雇入れられたりしない限りは、ほとんどは各種協同組合(ギルド)から請け負う形で仕事をすることになる。そのため、休日などは自分である程度決めることができる。

 進学する子どもは、自分で選んだ分野の学校へと進学していく。

 進学した学校で3年ほど学び、卒業した後は就職するのだ。

 そして15歳になると、一人前として認められるようになる。


 オレとライラは卒業したら、きっと離れて暮らすようになるだろう。

 そしてそのうちライラは、自分の両親を探す旅に出るはずだ。

 できれば、オレもそのとき一緒に行きたいが……。

 難しいだろうなぁ。


(なるべく……ライラと一緒にいられる時間を大切にできたらいいな)


 オレはそう思いながら、眠りに就いた。


 そして平和な月日が、走り去るように過ぎて行った。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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