表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第1章
1/214

プロローグ

 暗いなぁ――。


 目を覚ましたオレは、即座(そくざ)にそう思う。まだ夜なのかと思うほど、暗い。

 しかし、夜にしては暗すぎる。星や月の明かりさえ見えないのは、どういうことだろう。

 それに、先ほどから自分のいる場所が揺れている。

 地震(じしん)が来ているのかと思ったが、そうではなさそうだ。

 地震なら突発的(とつぱつてき)で長いこと揺れるはずだ。しかし今の揺れは、規則正しくかつ一瞬だ。地震などではない。


 それにしても、ここはどこだろう?

 さっきまで、こんな場所にはいなかったはずだ。

 確か、さっきまでは――。


 あれ、どういうわけだ?

 思い出せないぞ?


 先程(さきほど)までここではない、別の場所にいたことは確かだ。

 しかし、さっきまでいたはずの場所が全く思い出せない。

 まるで記憶がスッポリと抜けてしまったようだ。


 いったい、何がどうなっているんだ?


 混乱しかけていると、どこからか金属と金属がすれ合う音が聞こえてくる。

 どこかで聞いたことのある音だ。

 しかし、それも思い出せない。


 金属音が鳴り止むと同時に、揺れも収まった。

 本当に、オレはどこにいるんだ?


 ガラガラッ。

 何かが動く音だ!


「―――」

「―――!」

「―――?」


 人の声も聞こえてくる!

 オレは人の声に嬉しくなり、自分の存在に気づいてもらおうと、声を出した。


「おーい、誰かいるのか!?」


 そう云ったはずだ。

 しかし、オレの口から言葉は出てこなかった。


 おかしいな。どうしてだろう?

 ちゃんと声を出したはずなのに。


「―――!?」

「―――!!」

「―――!」


 外が騒がしくなった。

 もしかして、気づいてくれたのか?


 そのとき、オレの目の前が急に明るくなる。

 目が()れてから見えたのは、外の景色だった。

 どうやらオレは、箱か何かに入れられていたらしい。


 ありがとう!

 助かったよ!


 そう()おうとして、オレは絶句した。


 オレの目に入ったのは、1人のオッサンだった。

 無精(ぶしよう)ひげを生やし、ゴツゴツした顔つきでいかにも肉体(にくたい)労働者(ろうどうしや)らしい。

 オレを見たオッサンは、目を見開いた。

 さらに口をまるで金魚のようにパクパクさせている。

 明らかに、驚いている。見ている分には面白(おもしろ)いが。


「おい、誰か来てくれ! 大変だ!!」


 オッサンが叫ぶと、次々にオッサンがやってきた。

 全員、肉体労働者で(うで)の筋肉がムキムキである。こいつら、肉体労働やっている上にジムにでも通っているのか、と思うほどすごい筋肉だ。

 しかし、オッサンはオッサンを呼び寄せるのか?

 いくらなんでも集まり過ぎだろう。

 オッサン方には申し訳ないが、オッサンに囲まれるのはあまり気分のいいものではない。


「おい、マジかよ」

「どうして、こんなところに赤ん坊が?」

「荷物の中に、入っていたんだ! 赤ん坊の泣き声がして、おかしいと思って開けてみたら――」

「しかし、こいつは厄介(やつかい)なことになったな」


 ……おい、オッサン。

 さっきからオレを無視して、赤ん坊だとか、何訳の分からないことを云っているんだ?

 そうすか、シカトっすか。


「本当に困ったな。まさか荷物から、人の赤ん坊が出てくるなんてなぁ」


 ……え?

 オッサン、今、なんて云った?


「とにかく、駅長(えきちよう)を呼ぶんだ! 問題が起きたときは、まず駅長に報告するのが規則だろう!」

「そ、そうだったな」

「俺、駅長を呼んでくる!」


 何人かのオッサンが、慌ただしく駆けて行った。


「どうしてまた、荷物から赤ん坊が――?」


 オッサンが、オレを不思議な顔で覗きこむ。


 オレは赤ん坊じゃないぞ!

 そう云おうと、オレは口を開いた。


「オギャア! オギャア!!」


 オレの口から出てきたのは、予想外の言葉だった。

 この瞬間(しゆんかん)、オレは悟った。


 赤ん坊っていうのは、オレのことだったんだ!!


「オギャア! オギャア!!」

「おぉ、よしよし。もうちょっと我慢してね」


 オッサンにあやされる。

 そのとき、汽車(きしや)汽笛(きてき)駅構内(えきこうない)に鳴り響いた。


 オレがいる場所は、駅だった――。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ