1章-Ⅰ メルヘンな百合の園
私の名前は乃木命。
乃木というのは女流の一族で、国内でもかなり力を持っている家だ。
私は、その家に作られた。
遺伝子はきちんと母と父から受け継いでおり、両親共に実の子供のように可愛がってくれる。
けれど、私は作られた子供だ。
女性だけが権力を持ちえるこの世界を変えるために。
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「ここが鷺白寮か。」
西洋を感じるレンガ造りの屋敷…今日から私が住む鷺白寮だ。
とりあえず中に入るため、チャイムを鳴らす。
「すみませーん!今日からお世話になる乃木命です。」
不安を悟られないようにしているが声は震えている。
しばらく待っているとガチャリとドアが開いた。
そして、ぬるりとドアの隙間から顔が飛び出してきて目が合う。
「………………西洋、人形?」
ドアから顔を出していた少女が、僕の顔を見ながらそう呟く。
「えーと、そういう貴女は日本人形の様に可愛らしいですね?」
「………………照れる。」
ワンテンポ遅れて返答が返ってくる。
そしてどうやら先ほどのやり取りで照れてしまったようで、顔を半分隠してしまった。
「今日から一緒に住むことになる寮生の方ですか?」
隠れてしまって出てきてくれなくなってしまった。けれど打ち解けようと話を振ってみる。
「…私、寮母さん。」
「それは…失礼しました。今日からお世話になります。」
寮母と言われ驚く。何せドアから顔を出している高さからでも、相当小柄であることが伺える。
「……信じるの?」
「え、嘘なんですか?」
「本当。……えへへ、いい子。」
寮生と言われても違和感ない顔立ち、いやむしろもっと幼く見える。
きっと初対面では誰も信じてくれないのだろう。
「……もしかして、"メルヘン"?」
メルヘン、それは現在の世界の仕組みを担っている才能、能力のことだ。
何故か思春期の女性に多く発現し、彼女らのメルヘンチックな妄想を具現化したようなものであるため"メルヘン"と言われる。
そして女性だけが権力を持ち得るのも、このメルヘンがあるためである。
女性にも全員が発現するわけではないが、男性にはメルヘンが発現しないのである。
因みに、この学園の生徒は大なり小なり必ずメルヘンを持っている。
彼女は恐らく、私の持つ何からのメルヘンでを読むなりして寮母であることを知ったと考えたのだ。
それくらい、普段は信じてもらえないだろう。
「ふふ、違いますよ。」
メルヘンはメルヘンチックな妄想が具現化した物と考えられている。
そして、事実として妄想を具現化したような自己完結型の能力というのはものすごく多い。
相手の情報を読み取ったり、相手に干渉したり・・・といった能力は極めて稀で強力なのだ。
発見され次第、すぐに国に雇われることが多い。
しかしここはメルヘンを鍛える特別な学園であるため、国から送られてきた人も多い。
「…そう。」
どうやら私の言うことが嘘ではないと分かってくれたらしい。
むしろ彼女こそ心を読むメルヘンを持っていそうだ。
「……ばれた?」
「えっ。」
どうやら本当にそうだったらしい。
それはマズイことになった。
私には知られるととても困る秘密がある。
そう、私は実は
「男の子……なんて言わないから大丈夫。」
冷や汗が止まらない。
足が震える。
メルヘンは女性しかいない学園。
つまり女学園であり、寮は女子寮だ。
そう、私はこの学園に女装して通わなければならなかった。
見た目と声に関しては、母様が太鼓判を押してくれた。
けれどまさか、心が読まれるとは思っていなかった。
「……大丈夫。」
「は、ははは。大丈夫じゃないんですが。」
「………約束。」
と抱き着いてきた。
「気に入った……。」