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リトルウィッチ・ブラックパレード  作者: たかろう
第一章 監視装置
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遭遇


 ムーンライトシティから出てはならない。

 

 この陰気な呪われた街に生まれた者は、言葉も分からない赤ん坊の時から両親から――いなければ周りの誰かから――皆、そう言い聞かされる。

 

 ここで生まれ、ここで生き、ここで死ぬ。

 

 身の丈に合った生き方をしろ。夢は見るな。欲を出したものは破滅する。

 

 それがこの街の掟だ。

 この街に住む者は皆知っている。

 今、物陰に隠れている少女でさえも。




「い、行き止まり……!?」

 第四コロニーのとある路地裏。

 一人が死に怯え逃げまどい、もう一人がそれを追いかける。この街では珍しくない光景だ。

「ま、待て! 本気か!? 俺は――」

 響く銃声。一発、二発、三発…………

「お前の相棒、か? 欲を出す者は死ぬ、それがここの掟だ。お前も承知のはずだ……悪く思うなよ」

 言葉と裏腹に哀れみや悲しみなど微塵も感じさせない、むしろ嘲りを思わせる声色。

 やがて遠ざかっていく足音。それが聞こえなくなってしばらく後、ようやく少女は――フォルトゥナは物陰から出てきた。

 壁にもたれかかるように放置された男の死体が目に入る。近付いて物色する。血の匂いや感触の不快さには、もう慣れて久しい。

「……チッ、ハズレか」

 全く、今日はツいていない。出てきたのは数本残っているだけの煙草の箱と、小さくて硬い筒状の黒い物。

 財布はおろか、金になる売却できそうな物も死体の男は持っていない。

「しけてるわね」

 長居は無用。ここの住人ならまだしも、部外者や警察に見付かれば面倒だ。

 いつものように速足で立ち去ろうとし――


「こんにちは……いや、おはようかな?」

 本当に、今日はツいていない。

「……誰?」

 気配が全く感じられなかった。行く手を塞ぐように立ちはだかるフードの人影にフォルトゥナは尋ねる。

 人影が顔を上げる。フードの下から、長く尖った嘴のような飾りを囲うように六つの穴が開けられた奇怪な仮面が覗く。

 先程の殺し屋が口を塞ぎにきた? いや、殺し屋の男はでっぷりとした体型だった。

 警察――でもないだろう。イカレた連中だが、さすがにあんなイカレた仮面を付けているやつは見たことがない。

 ならば、たまにいる物好きな観光者か。

「そう構えないでください。ただの通りすがりですよ」

 そう言って男が仮面を外す。顔面ピアスだらけで、舌を出してるイカレた殺人鬼の顔――ということもなく、仮面に反しただの優男といった風貌に少し拍子抜けする。笑顔の胡散臭さに変わりはないが。


「何の用よ? 道なら観光案内所にでも尋ねなさいよ。二ブロック先にあるから」

「お気遣いありがたいですが、道なら知っていますよ。この辺りも全く変わっていないようですし」

「ここの出身なの?」

 青年の言葉にフォルトゥナが少し警戒を緩める。

「いえ、幼い頃は第五コロニーに住んでいました。大きくなってから色々とムーンライトシティ内をあちこち転々としていたので、ここにも土地勘はあるというわけです」

「ふぅん……じゃあ迷子でないなら何の用なのよ?」

「これ」

 青年が笑顔のまま、死体を一瞥する。

「盗みましたね? 感心しないなぁ」

「死んでたら持ってても意味ないでしょ。だから私が使ってあげるのよ」

「なるほど」

 青年は笑みを崩さない。フォルトゥナの中で警戒心よりも苛立ちが募ってきた。

「分かったらそこどいてよ。早くしないと――」

 青年の脇を通り抜けようとする。だが腕を強く掴まれ、無理矢理引き留められる。

「いたっ!? 何する――」

「えぇ、目の前にいますよ」

 青年がフォルトゥナをゾッとするような目で見下ろす。

「手足削いでそっちに持っていきましょうか?」


 瞬間、フォルトゥナは青年の腹に蹴りを入れた。思わぬ反撃に青年が掴んでいた手を離す。

「――『ネクロの魔導書』起動!」

 距離を保ちながら魔導書を起動させる。

 右手首の腕輪から魔力を帯びた細い鎖が出現、右腕に絡み付いていく。

「……あぁ、聞こえちゃいましたか」

 距離を離し、臨戦態勢を取るフォルトゥナを見て、青年が頭をかく。

「やっぱり思念術まじめに練習しとけばよかったかな――っと!?」

 青年の頬を刃が掠める。

「チッ、避けるんじゃないわよ」

 フォルトゥナが後ろに跳躍、再び距離を取る。

「いや、思いっきり当たりましたけど」

 青年が頬に手をやり、血を見せる。

「こんな貧困外の人間が鎖型の魔導書を持っていることにも驚きましたが」

 青年の目がフォルトゥナの手に握られた剣に向けられる。

 剣の輪郭が全体的に朧げに揺れている。炎のように揺らめく紫色のフォルトゥナの魔力が剣の形を為したのだ。

「それ、いい魔力を発してるね。冷たくて暗い……非常に心地良さを見ていて感じるよ」

「そう。じゃあ根暗好きのあんたにもっとあげるわ」

 次の瞬間、青年の周囲に無数の紫炎の剣が姿を現す。

「っ!?」

「間抜けね。さっき剣を振るったときに周囲に仕込ませてもらったわ」

 魔導書を起動させる暇も与えない。フォルトゥナが指を鳴らす。

「くそっ……がはっ!?」

 青年の体に紫炎の剣が突き刺さる。それを皮切りに次々と青年の体を串刺しにしていく。

 噴き上がった紫炎が青年の断末魔さえ飲み込んでいく。

 フォルトゥナは燃え尽きていく青年に目をくれることもなく、その場を立ち去る。

 

 弱い者は強い者に蹂躙され、殺される。

 それもここの掟だ。



――――……



 少女が立ち去るのを、シェインは体を無数の剣に串刺しにされた挙句、燃やし尽くされながら見ていた。

『…………何をやっているのですか』

 脳内で失望と怒気を孕む声が響き渡る。

『戦闘が苦手というのは軽口かと思っていましたが、まさか本当だとは。情けない』

「心まで傷付いちゃうんで止めてもらえます?」

 シェインの体から剣が次々に地面に落ち音を立てていく。どれも肉体に刺さっていた箇所だけが綺麗になくなっている。

「やっぱり剣が抜けると炎も消えるか。いやぁ、錬度の低い魔術で助かりました」

『愚か者! だったらさっさと追いかけなさい!』

「イタタタ! 思念術使ってるのに喚かないでもらえます? 頭に響きますって」

 思念術は魔術の一種だ。いわゆるテレパシーのようなもので、思念花と呼ばれる魔術で作られた花弁を媒体に、それを所持する対象者の脳内に直接声を届けることが出来る。

 シェインは心得がないので、口を動かさずに会話することは無理だが。

「それに追いかけるも何も、もう見失っちゃいましたけど。今から追いかけても――」

『行先の見当は付きます。ハバール孤児院、彼女はそこで暮らしています』

「孤児院?」

『彼女は10歳の時に家族を失っていて、孤児院に引き取られてからずっとそこで生活をしています』

「個人情報丸わかりですか。死ぬ者の名前と言い、一体どこから情報を得ているんです?」

 無言。

 シェインはわざとらしく溜息を吐いた。

「……まぁいいです。保釈金の借りの分はちゃんと働きますよ。それが死ぬかも分からない人間をストーカー行為であってもね」




――――……

 

〝脅威〟『特定』『認識』

  『不正なアクセスを検知』

         《エラー》《エラー》《エラー》……〝脅威〟『取り消し』

    〝ウィルス〟『検索中――……』

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