現実の自分 その2
初めての異世界訪問を成し遂げた翌日の朝、俺は目覚まし時計で目を覚ました。
非常に眠い。珍しく午前中に起きたせいもあるのだけれど、主な理由は、俺が昨日手に握りしめながら眠った三枚の金貨にある。
昨日は色々とネットで金の相場など色々調べていたせいで、寝るのが非常に遅くなってしまった。……いや、金の相場などはすぐに調べられたのだけれど、金を売った場合に生じる色々な面倒事の把握のせいで寝るのが遅くなってしまった。まあ、それとは別にもう一つ、ミーヤのプロモーションビデオの編集とアップに時間がかかってしまったというのもあるのだけれど……。
ビデオはさておき、特に調べるのに苦労したのが、税金関連である。ネットで調べて分かったことはどうやら所得がある程度を越えると両親の扶養から外れることになり、自分で確定申告を書く必要があるということである。そうなれば収入の細かな内訳を書く必要があり、出所不明の金があれば税務省に問いただされるであろう。
つまるところ、金は年間に少量しか売れないということである。これを知ったときはとてもショックで落ち込んだ。
だが法律で決まっている事は仕方ないので、俺はその範囲ないで金を売ることを決めた。
俺は身支度を整え、金貨を財布の中に閉まってから、家を出た。向かうは金銀プラチナなどを買い取ってくれるらしいリサイクルショップで、家から徒歩で四十分ほどの場所にある。
俺はネットで調べた地図をもとに、目的の場所にむかった。
ほぼ大学と下宿先の往復しかここ数年してこなかった身としては、きちんとたどりづけるか不安だったものの、目的の店は案外簡単に見つかった。
普通にそのお店はコンビニの横にあった。前面がガラス張りで、想像していたよりもずっとおしゃれな雰囲気の店だった。
どきどきしながらも、俺はその店の自動ドアをくぐった。店内は白を基調としており、ついたてで仕切られたカウンターが横一列に並んでいた。
「いらっしゃいませ、どうぞ」
目の前のカウンターの奥に座っていた店員さんが立ち上がり、椅子をすすめてくれた。非常にさわやかなお兄さんである。
俺はぺこりと頭を下げ、椅子に座った。女性の店員さんがおしぼりとお茶を持ってきてくれる。
恐縮して頭を下げる俺。こういうお店って、もっと薄暗くて狭いのかと思っていた。
「本日は、お買い取りでよろしいでしょうか?」
「あ、はい」
俺は頷いた。
「それではこちらのほうに商品をお願いしてもよろしいでしょうか」
俺は金貨二枚を財布から取り出し、指定された黒いトレーの上においた。もう一枚は換金せずにおいておこうと決めていた。
「それでは調べさせていただきますので、少々お待ち下さい」
そう言って目の前で査定を始めるお兄さん。じっくりとルーペのようで調べていたかと思うと、今度はパソコンで何やら調べ始めた。そしてふいに、俺のほうを向いた。
「お客様、こちらはどちらで手にいられたのでしょうか」
俺の心拍数が跳ね上がった。
「……えっと、祖父の形見です。なんかどこかの外国で昔に手に入れたそうなんですけれど、詳しいことはよく分からないです」
俺はあらかじめ考えていた嘘をついた。
「なるほど、そうなんですね」
頷くお兄さん。よかった、怪しまれなかった。
それからお兄さんは、金の判別のために比重計とやらを用いて、それから質量計に金貨をのせた。
「えっとこちらは全て純金ですね。また重は60.3グラムになります。本日の金の買い取り価格四千五百円をかけさせていただきまして、二十七万千三百五十円になります。よろしいでしょうか」
さわやかな笑顔で丁寧に説明してくれるお兄さん。対して俺のテンションは爆上がりだった。
なんとまさか純金だったとは、最高である。大卒の初任給としては十分すぎるほどにある。
俺は当然頷いた。その後名前や住所の登録や身分証明書の提示などを求められたのち、現金二十七万千三百五十円がトレーの上に置かれた。
俺はその大金を財布にしまい、ふわふわとした気持ちでその店を出た。