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事件のくくりに その2

「お初にお目にかかります、タナカ様。私はシューベルト家現当主、ミルフォード・ライカ・フォン・ダクス・シューベルトと申します」



 重量感のある、ハスキーボイスだった。

 アンナさんのお母さんであるらしいライカさんは、玄関前で跪きそう名乗りをあげた。こちらを見上げるその目は大きく見開かれ、瞳は力強い光を放っている。口元はきつく結ばれ、口角は大きく吊り上っていた。

 俺はその存在に、初めてあった時のアンナさん以上の威圧感を感じていた。



 そのライカさんの後ろには、彼女の部下達がずらりと並んで跪き、更にその後ろには数台の魔亀車が停まっている。

 また玄関の扉のすぐ横には、知った顔であるアンナさんの部下の女性が二人佇んでいた。

 それらが自分の部屋に帰ってきた俺とアンナさんを、玄関前で出迎えたのだった。



「初めまして。えっと……商人の田中と申します」



 俺は自己紹介に少し悩み、そして無難に答えた。

 先ほどアンナさんから聞いた話によれば、彼女達は俺と精霊がつながっていることを知りこの街にやってきたらしい。



「タナカ様、日頃より我が娘がお世話になっているようでして、遅れましたが心よりお礼を申し上げます。そのお礼と言ってはなんですが、本日はタナカ様のために土産を持ってまいりました」



 そう言ってライカさんが声で合図を送ると、背後の魔亀車の扉が開き、額から血を流した男性が、ダークエルフの女性に連れられてでてきた。

 その男性は非常にふくよかで、よろけそうになっているのを後ろから突き飛ばされるようにして歩いてくる。顔色は真っ青で、目の周りだけが真赤に充血していた。



「タナカ様に冤罪をなすりつけようとした、この街の商人ギルド長です」



 俺はライカさんに言われて、ようやくそれがギルド長であるということに気付いた。かつての不遜な態度とあまりにも違いすぎて、一瞬分からなかった。



 そのギルド長は後ろから突き飛ばされて、ライカさんの隣に顔から崩れ落ちた。その手は縄で後ろに縛られていた。

 見て分かるほどに、震えているギルド長。

 俺がライカさんの方に目をやると、彼女は目を細めた。



「よろしければ、剣をお貸しいたしましょうか?」

「あ、いや……いいです。ありがとうございます」



 俺はとりあえず、ギルド長を捕まえてくれたことにお礼を言った。

 しかし俺に直接身柄を渡されても、どうすればよいのか分からない。だから剣なんてよしてほしい。



「た、助けて……」



 その時、声が聞こえてきた。それは横たわる商人ギルド長の声であった。

 俺が目を向けると、ギルド長の横腹に、ライカさんの部下の蹴りがめり込んだ。



 口をぱくぱくして嗚咽をもらすギルド長。蹴った張本人である女性は、何事もなかったように一歩下がって姿勢を正した。



「次にしゃべったら、殺す」



 ライカさんはギルド長の方に目を向けて、そう吐き捨てた。

 そして再び俺の方を見るライカさん。こちらを見る顔は笑顔であった。



「失礼いたしました。屑が分不相応にも言葉を発しようとしましたので、しつけをさせていただきました。ですが、安心してください。まだ致命傷を与えてはおりません」



 俺はそんなライカさんの表情を見て、改めて思った。

 この人は間違いなく、アンナさんのお母さんである、と。



 その時、俺の後ろにいたアンナさんが横に並んで、話しかけていた。



「タナカ様、このような者のためにタナカ様がお手を煩わせることもありません。ですのでこやつの処分はシューベルト家に任せてはいただけないでしょうか」

「あ、はい。お願いします」



 俺は頷いた。



「……そうですか。ではこのものは私達の方で処分させていただきます」



 ライカさんがそう言うと、部下の人達が横たわったギルド長の腕や体をつかんで、運び始めた。



「い、嫌だ。死にたくない、た、助けて!」



 すると途端に叫び、暴れ出すギルド長。

 しかしそれを部下の人達は数人がかりで押さえつけて、そのまま魔亀車へと引きずってゆく。

 叫ぶギルド長と目が合った。

 俺はうすら寒いものを感じつつも、目をそらした。



(か、考えるな。何も考えるな……)



 ギルド長の断末魔は、後方の魔亀車に放り込まれるまで続いた。



「……そういえば、タナカ様は新たな調味料を広める計画がおありだそうで。弟の元に援助を求められたそうで」



 急に、ライカさんがそのような話題を振ってきた。



「え、ええ、そうです」



 俺は急な話題変更に戸惑いつつも答えた。



「我がシューベルト家は、全面的に協力させていただきます。何なりとお申し付けください」

「あ、ありがとうございます」

「細かい調整などはまた後日に……。今日はこの辺りで失礼させていただきます」



 ライカさんはそう言ってから、肩越しに後ろを振り向いた。するとそれを合図として部下の人達が立ちあがり、そして後方へと下がっていった。



 部下達が魔亀車の周りで整列したのを見て、続いてライカさんが立ちあがった。

 俺を優に超える長身のライカさんはにこりと微笑んで、そして踵を返して魔亀車へと下がってゆく。



 ライカさんが乗り込んだ魔亀車の列が遠ざかってゆくのを、俺とアンナさんは立ちつくして見送った。



「……わざわざ、商人ギルドの件を解決してくれたんですね」



 俺は小さくなった魔亀車の後ろ姿を眺めながら、呟いた。



「……おそらくは、汚名返上といいますか、少しでもタナカ様の心象を良くしたいのでしょう」



 それに対して、アンナさんは厳しい目をしながらそう言った。

 言葉の意味が良く分からなかった俺に、アンナさんは「そのことは、人の目が無い所でお伝えさせていただきます」と答えた。



 それから俺は、玄関の扉を開けて、数日ぶりの自室に戻ってきた。

 灰色の冷蔵庫やラックなどを目にした瞬間、戻ってきたのだと言う実感が染みわたる。

 それと同時に、戻って来てしまったという諦観がずしりと体にのしかかった。

 俺は大きく息を吐きつつ、扉の方を振り向いた。



「アンナ様、よくぞ御無事で」

「とても心配しておりました」

「うむ、お前たちにも迷惑をかけてしまったな」



 開いた扉の外では、アンナさんが部下の女性二人と言葉を交わしている。特に部下の人達は感極まった様子であった。



「一体何があったのですか!?」

「それは……」



 部下の人達の問いに、アンナさんが一瞬言葉に詰まる。



「すまない、今は外してくれないか」



 申し訳なさそうに言うアンナさん。

 すると部下の人達も、それ以上何も言わなかった。

 

 

 部下の人達を遠ざけ、アンナさんが俺の元へとやってきた。

 「お待たせして申し訳ございません」、「いえ」という言葉を交えながら、俺とアンナさんは続いて玄関から部屋にあがる。

 とりあえず椅子をすすめてみたけれど、アンナさんには遠慮されてしまった。



「それで先ほど帰り道で言っていた、お伝えしなければならないことって何なんですか?」



 しかたないので俺は一人で椅子に座り、傍に立つアンナさんにそのように尋ねた。



「はい、タナカ様は我が領地にて、大精霊様が私の命を救ってくださったことを御存じなのですよね?」

「ええ、まあ……」



 実際には、救ったというより復活させたというべきかもしれないけれど。



「その際に、大精霊様の御姿を母を含めて少なくない者に見られております。故に事情を知る者達は、タナカ様と大精霊様の何らかの結びつきに気付いております」

「なるほど、もしかして先ほどのライカさんの対応も」

「はい、タナカ様に助力することを申し出たのもそれが目的で間違いありません」



 俺はアンナさんの話を聞いて、非常に合点がいった。ほとんど見ず知らずの、おまけに年齢も身分も下であるはずの俺にあそこまでへりくだっていたのは、精霊との関係を見抜いていたからか。



「おそらく母はタナカ様がただならぬ存在であると、感付いているのでしょう。私がタナカ様にお伝えしたかったことは、このことに対する対処でございます」



「故に何らかの対処はする必要があると思われます。……大精霊様は私に、もしどうしてもタナカ様の身分を明かさなければならないと判断すればしてもよいとのお言葉を授けて下さいましたが、いかがいたしましょう?」



 俺は眉間にしわを寄せて、考えてみた。

 正直にいえば、これ以上貴族のおまけに精霊狂信者っぽい人達に頭を下げられたり、担がれたりするのは気が乗らない。大変な面倒事が指数増大しそうな気がする。



「一つの手として、タナカ様はただの商人で、考案した料理が精霊様に好評だっただけ、という嘘を貫き通すという手もありますが……」



 俺の表情を見てか、アンナさんがそのように進言してくれた。

 ……しかし、それではいけない。



「いや、アンナさんのお母さんには素直に伝えましょう。……それと弟さんにも」



 俺は決断して、そのように答えた。

 すると、少し驚いたような顔をするアンナさん。



「よろしいのですか?」

「はい。というかそもそも今回のアンナさんに関する騒動そのものが、私が正体を隠していたために発生してしまった悲劇ですよね」



 もし仮にライカさんや弟さんが俺の正体を知っていれば、アンナさんが命を落とす、なんて悲劇は避けられたと思うのである。

 ならばもう、少なくとも二人には隠すべきではなかろう。



「……そうだ、それとアンナさんの部下の人達にも、言った方が良いかもしれませんね」



 俺はふと先ほど玄関での、アンナさんと部下の人達とのやり取りを思い出した。

 あれも俺が事情を隠しているから、アンナさんにあんなつらい顔をさせてしまっているのであろう。



 俺の言葉に対して、目を大きくして何やら固まっているアンナさん。

 そのアンナさんが口を開いて、何か言葉を紡ごうとしたその時、異世界への扉がノックされた。



 アンナさんが振り向き、俺もそちらに目を向けた。



「タナカさん、ミーヤです」



 扉の向こうから聞こえてきたのは、ミーヤの声だった。

 俺は立ちあがり、扉の前に向かった。そして扉を開くと、玄関前にはミーヤの他に、三人の人が佇んでいた。

 一人は孤児院の院長であるエルダさん。

 あとの二人は料理人であるオリバーさんと、もう一人は見知らぬ女の子であった。



「タナカさん! 無事でよかったぜ」



 開口一番、オリバーさんがそう言って俺の手をとった。

 俺の両手を握りながら本当に良かったと呟くオリバーさんに戸惑いながらも、俺は頭を下げる。

 そして、何故かいるエルダさんに顔を向けた。



「お久しぶりです、タナカさん。本当にご無事で何よりです」

「はい、ありがとうございます。え、どうしてここに?」

「先ほど、ミーヤさん達と街ででくわしたのです。それで、無理を言って連れてきていただきました」



 なるほど。



「いやー、本当にミーヤちゃんから事態を聞いた時は……」



 俺の手を握ったままオリバーさんが再び始めたとき、横の女の子がオリバーさんの服の裾を引っ張った。

 そして振り向いたオリバーさんに対して、「お父さん」と呼びかけた。



 するとオリバーさんは俺の手を離し、そして笑顔で女の子の肩を抱いた。



「ああ、そうだった。タナカさん。紹介が遅れてしまったが、こちらはうちの娘のサキだ」

「は、初めましてタナカさん。サキって言います。えっと、父がお世話になっております」



 父の紹介にあずかり、サキちゃんは俺に対してぺこりと頭を下げた。

 ミーヤよりも少し身長があり、髪も長めのせいかとてもお姉さんっぽく見える。



「ご丁寧にどうも。商人のタナカと申します」

「それでタナカさん、商人ギルドのギルド長はどうなったんだ?」



 俺がサキちゃんに挨拶を返すと、オリバーさんが身を乗り出すようにして尋ねてきた。

 目をおよがせると、エルダさんもサキちゃんも、ミーヤさえも気になるといった感じである。



「えっと……とりあえず中でお話しします」



 俺はそう言って、彼らを中に迎え入れた。

 そして俺は中で、彼らに事の顛末を大まかに話した。



 と言っても、アンナさん絡みの件ははぶいて伝えたので、時間はほとんどかからなかった。

 話したことは、アンナさんが貴族の力を使ってギルド長の不正を暴いて捕まえた、ただそれだけである。



「そうだったのですか。ありがとうございます、アンナさん」

「いえ、私は当然のことをしたまでですので」



 椅子に座ったエルダさんが、横に立つアンナさんに対してお礼を言った。

 椅子の個数の関係上、アンナさんとオリバーさんには立ってもらい、ミーヤとサキちゃんにはベッドに座ってもらっている。

 机を囲んだ皆のお茶は俺の代わりにミーヤが出してくれた。

 


「アンナさんが貴族だってことは聞いていたが、確か商人ギルドのギルド長も爵位を継げなかったとはいえ、貴族の家の出身なんだろ? それを捕まえるって、アンナさんの爵位は一体何なんだ?」



 オリバーさんが隣のアンナさんに尋ねた。



「……侯爵です」



 アンナさんがぼそりと呟くと、俺とアンナさんとミーヤを除く三人の目が大きく見開かれた。

 俺としては全く分からないのだけれど、侯爵とはすごい高い位なのだろうか。



「て、てっきり、名ばかり貴族かと思っていたぜ……」

「し、失敬な!」



 思わずと言って感じで声を漏らしたオリバーさんに対して、アンナさんが声をとばす。

 慌てて平謝りするオリバーさんであるけれど、雰囲気からして他の二人もアンナさんが思っていたよりも高い位の貴族で驚いているみたいである。



「で、でも、そんな侯爵様がこんなところで一体何を?」

「それは……タナカ様の志に心をうたれ、ぜひともお手伝いさせていただきたいと思った故にここにいるのです!」



 そう言って、誇らしげに胸を張るアンナさん。

その言葉でミーヤだけは「さすがはタナカさんです」と誇らしげにしてくれていたけれど、他の三名の目は懐疑的なままであった。



「でも、お偉い貴族の令嬢様は普通、婚約者を決めるために社交界に出たりと、とても忙しいと聞きますけれど」



 声を上げたのは、サキちゃんだった。

 彼女はアンナさんを見て、そう呟いた。



「ご心配なく。我が家系は代々、成人してから五年間は都で騎士として研さんをつむことを伝統としておりますゆえ」



 アンナさんが答える。



「騎士ですか?」

「はい。私はタナカ様の騎士となったのです」



 サキちゃんの言葉に、澄まし顔のアンナさん。

 しかしアンナさんの頬は、どこか緩んでいるように見える。

 その騎士と言う言葉に、一番反応したのはミーヤだった。



「え、アンナさんタナカ様の騎士となったのですか!?」



 ミーヤが驚いた表情で声を上げる。

 そう言えばミーヤは、アンナさんが俺の騎士になりたがっていたことを知っていたのであった。



「はい。今日私はタナカ様に騎士の誓いをたてさせていただきました。これで私は、この身の全てを生涯タナカ様に捧げます」



 アンナさんがミーヤに向かって鼻高々と紡いだその言葉。

 それにより、場の空気が一瞬凍った。



 愛の告白のような言葉に、気まずさを感じる俺。

 信じられないと言った表情のオリバーさんやサキちゃんやエルダさん。

 ミーヤは完全に固まっている。

 そしてアンナさんはそんなミーヤに対して、自慢げな顔を向けていた。

 


「え、えっと……」

「タナカさん!」



 変な空気を変えようと俺が考えなしのまま口を開いたその時、ミーヤが俺に向かって叫んだ。

 そしてミーヤはすがるような目で、たどたどしくも話し始めた。



「あ、あの、私も、タナカさんとずっと、ずっと一緒にいます。……その、前に貰ったネックレスにこたえます!」



 ミーヤは切迫した表情で言い切った。

 そして言いきった後は、顔を赤くして俯いてしまった。



 また、時がとまった。



「あ、ありがとうございます」



 俺は伏し目がちに軽く頭を下げた。

 だから、そんな愛の告白のような言葉は照れる。

 俺が顔を上げると、今度はアンナさんの驚いた顔が目に入った。



「タ、タナカ様、ネックレスとは何のことなのですか?」



 アンナさんが俺に尋ねてきた。その顔には、先ほどのミーヤ以上に狼狽の色がでている。

 更に、驚いているのはアンナさんだけでなかった。その前に座るエルダさんや、その横にいるオリバーさんも。ミーヤを除く全員の視線が俺に集中していた。



「あ、えっと。前にミーヤさんにネックレスをプレゼントしたんです」



 俺はそう答えた。



 三度目、の沈黙が訪れる。



 周りの反応が理解できずに、戸惑う俺。

 一体何故このような空気になっているのだろう。



 俺が言葉を探していたその時、事は起こった。



「う、うあぁぁぁぁぁぁぁ!」



 何とアンナさんが急に絶叫し始めたのである。

 そしてアンナさんは走りだし、扉を開けて外へと消えていってしまった。



 驚く俺。

 一体、何がどうなっている。



「い、いや、何が……」

「あのタナカさん。ごめんなさい、私のせいです。だから私、アンナさんを探してきます!」



 俺が疑問を口にしようとすると、ミーヤが立ちあがってそう言った。その顔はとても申し訳なさそうであった。

 それから返事を待たずして、ミーヤも扉から外へと駆けだしていった。



「ま、待って。ミーヤちゃん」



 更にそれを追いかけて、外に飛び出そうとするサキちゃん。

 それをオリバーさんが腕に抱いて引きとめた。



「お、おちつきなさい、サキ」

「でも、お父さん。ミーヤちゃんが……」



 娘の懇願を受けて、オリバーさんは少し悩んでから俺の方に顔を向けた。

 


「すまないが、ミーヤちゃんを探しに行ってきてもいいか? 見つけたら必ず戻るから」

「え、ええ。よろしくお願いします」



 俺は戸惑いつつも、頷いた。

 それを受けて、オリバーさんはサキちゃんと一緒に扉から外へと飛び出していった。



 部屋に残されたのは、俺とエルダさんの二人。

 非常に静かになった部屋で、俺はエルダさんの顔を見やった。



 エルダさんは、困惑気味の笑顔を俺に向ける。



「あの、この騒ぎはいったい何が原因なのですか?」

「それは……タナカ様がミーヤさんに差し上げたネックレスが問題でしょうね」



 俺の問いに対して、エルダさんが答える。

 しかし、やはり俺には意味が良く分からない。



「なんで、ネックレスが?」

「まあ皆さんの心の内は分かりませんが、きっと驚いてしまったのでしょう」

 


 だから、何に驚いたというのか。

 俺はそう尋ねようとして、止めた。あまりしつこく聞くのも悪いと思ったのと、そこに何か異世界特有の事情を感じたからである。

 あとでアンナさんから直接聞いてみようと、俺は決めた。



 そらから俺はエルダさんと孤児院の話をし始めた。

 内職の仕事が今後どうなるか分からない。故に色々考えた結果、とりあえず日曜日の夜に孤児院の人をよこしてくれるようにエルダさんにお願いをした。



 それからしばらく俺がエルダさんと話をしていると、すぐにサキちゃんが一人で帰ってきた。

 戻ってきた彼女に聞いてみると、ミーヤは見つかったらしい。そしてミーヤは今、オリバーさんと一緒にアンナさんの行方を探しているらしい。



 俺はそれをきいて、ほっとした。大人のオリバーさんがついていれば、ミーヤも大丈夫であろう。

 その後またしばらく経ち、ミーヤとオリバーさんがアンナさんを連れて戻ってきた。 



 お見苦しいところをお見せいたしました、と恥ずかしそうにして謝るアンナさん。

 ミーヤも俺にごめんなさいと頭を下げた。



 その一方でオリバーさんが、俺に向かって次のように言った。



「ミーヤちゃんから、話は聞いた。ただし、娘は絶対にやらんからな」



 力のこもった、熱い言葉だった。

 俺の事を信じてくれていることも伝わった。

 ただし、いまいち意味はよく分からなかったけれど。



 そんなオリバーさんを、サキちゃんははらはらした表情で「お父さん、もう分かったから!」と止めている。

 俺は何やら壮絶な誤解をまた受けているような気がすると思いつつも、その場は頷いておいた。



 ちなみに俺が異世界でネックレスを異性に贈るという行為の意味をしったのは、この場がお開きになってすぐ後のことであった。

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