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ネットアイドルミーヤ爆誕 and 初めての異世界訪問 その1

 俺の部屋に異世界の扉が現れた翌日、俺は部屋でそわそわしながら、新たなる野望に夢をはせていた。

 その野望の名は、ネットアイドルミーヤ爆誕。

 猫耳少女ミーヤのかわいらしい姿をネットにアップすることによって、広告費などでがっぽがっぽという、素晴らしい俺の目標である。

 昨日のうちにビデオカメラの操作方法や、動画投稿サイトやアドセンスとの結びつけは完ぺきにしてある。



 よって残るハードルは一つ、なんとかして、ミーヤに動画撮影およびネット上への投稿を許可してもらうことである。

 普通の女の子だったらネットに顔をさらされたあげく、おまけに収入は自分の手元に入ってこないなど、許せることではないだろう。しかし、相手はネットなどおそらく存在しないであろう異世界の住人である。

 動画のアップなんてわかりっこないので、それとなく漠然とした説明で押し通してみせよう。あとミーヤに上げる昼食の費用のためだといえば、反対はきっとされないであろう。

 俺が今か今かとミーヤを待ちかまえていると、こんこんと異世界の扉をたたく音がした。



「あの……、タナカさん、ミーヤです」

「はーい、今開けるのでちょっと待って下さい」



 鍵を外して扉をあけると、猫耳少女ミーヤが俺を見上げていた。



「こんにちは、今日はその、よろしくお願いします」



 深々と頭を下げるミーヤ。今日もその猫耳としっぽはすばらしい。

 ミーヤは今日も裸足だったので、俺は用意していた足をふきタオルを手渡した。

 鍵をかけ、足をふいたミーヤを部屋に招き入れる。タオルは返してもらい、椅子に座るように勧めた。



「あの、今日はミーヤさんにやってほしいことがあるんです」



 机を挟んでミーヤと向き合うように座った俺は、早速切り出した。

 神妙な顔で頷くミーヤ。



「まあ、とりあえずこれ、今日の昼食です」



 机の上に置いてあったビニール袋の中からコンビニ弁当とわり箸をとりだし、それをミーヤの前に並べた。

 すると、弁当も異世界では珍しいのか、それともミーヤがとても律儀な子なのか、すごく丁寧なお礼を述べられた。

 お礼なんて、あとで少しビデオカメラで撮らしてもらって、それをネット上にアップさせてくれれば十分です。



「とりあえず、食べながらでも聞いてください」

「はい……、あの、この袋に入った棒はなんですか」



 ミーヤが割り箸を指さしてそう言った。



「割り箸ですけど……あ、もしかして箸って知らないですか?」

「箸? すみません、見たことがないです……」



 異世界には箸はないらしい。西洋風の街並みだったし、当然かもしれない。



「ごめんごめん、えっと……フォークでいいですか?」

「あ、はい、お願いします」



 俺は引き出しからフォークを取り出し、それをミーヤに手渡した。

 フォークを受け取ったミーヤは、それでお弁当を食べ始めた。



「おいしい……」



 よくわからないがミーヤは何か感動しているようで、猫耳が反応していた。異世界の食事はそんなにまずいのだろうか。

 まあ、そんなに日本の食事が気に入ったのなら、俺の懐に余裕のあるうちは日本の飯をおごってあげることにしよう。



「それでなんですけど」

「はい」



 ミーヤはフォークをおいて、居住まいを正した。



「えっと今日はミーヤさんに街を案内してもらおうと思います」



 いずれ異世界で商売をしたいのだから、今のうちに異世界の事についてもっとよく知っておかなければならない。しかし一人では怖いので、なのでミーヤに案内してもらおうという寸法である。



「案内ですか?」

「はい、実は私は最近街にこしてきたので、あんまり街のことをよくしらないのです」

「なるほど……、それで案内ですか」



 ミーヤはうなづいていた。フォークは机においたままである。



「はい、それで街の事がある程度わかれば、なにかこの街で商売でもできればなぁと……」

「商売をするんですか?」



 ミーヤは少し驚いた顔をしていた。



「あ、いや、予定であり未定です。上手くいくかわからないので、たぶんです」



 やると豪語しておいて、結局できませんでしたでは格好がつかなさすぎる。

 まあなんにせよ、商売は今日の異世界散策の結果しだいで、あす以降に決めてゆけばよい。



「それと、街の案内もしてもらいたいのですが、本日はその前に、あることをしてもらいたいです」

「あること、ですか……」



 本日のメインディッシュである。



「……いやぁ、実を言うと、そのミーヤさんにあげている、昼食代っていうのも、その、毎日だと安くないんですよね……」



 嘘は言っていない。けれど顔色を変えたミーヤを見て、胸が痛んだ。



「いや、大丈夫なんですよ、全然。でもその、ちょっと手伝ってほしいことがあるんですけど」

「はい、なんでもします!」



 力強く答えてくれるミーヤ。



「そう? いやあの簡単なことですよ、ちょっとミーヤさんの姿を動画でとらしてもらうだけ」

「動画?」



 やはりというか、動画はミーヤに伝わらなかった。



「動画っていうのは、まあようするになんていうか、動く絵みたいなものです」

「動く絵? 絵が動くんですが?」

「そう。動く絵を描く道具を私は持っているので、それを使ってミーヤさんの動く絵を書かしてもらって、たくさんの人に見せたいんです」

「そんな魔道具があるんですね……、でもそれでどうやってお金を稼ぐんですか?」



 魔道具とは何だろう。まあ、おそらく魔法の道具のことであろう。



「まあそこは私に任せてください、いいですかね?」



 俺が尋ねると、ミーヤは大きくうなづいた。

 計画通りである。



「動画の撮影をとるためにはまず、ミーヤさんには身をきれいにしてもらい、ある服に着替えてもらう必要があります」



 食後机の上を片付けたのち、俺は早速行動に移した。まずミーヤには身をきれいにするために、シャワーを浴びてもらうことにした。

 シャワーの使い方が分からないミーヤのために、俺が実践してみると、ミーヤは流れるお湯を見て、魔道具ですか、驚いていた。

 俺は適当に頷いておいた。説明できない現代テクノロジーは全て魔道具ということにしてしまおう。

 俺は頭や体を洗うシャンプーの使い方も説明して、ミーヤにこれらで髪や体を洗ってほしいと頼んだ。



 緊張した面持ちで俺を見上げるミーヤ。きっと男の家でシャワーを浴びることに、抵抗を感じているのだろう。

 俺は外にタオルと着替えをおいたことと、ミーヤが着替え終わるまでトイレにこもって絶対に出ないことを約束した。

 俺の熱意に負けた感じで、頷くミーヤ。勝った。



 俺は浴室を出て、隣のトイレにこもった。隣の浴室からシャワーの流れる音が聞こえ出す。相手はまだ少女だというのに、このシチュエーションに変な気持が湧いてきそうだった。

 これはビジネスだ、仕事だ、と自分に言い聞かせる。そうでなければ俺みたいなやつが、あんな子に相手にされるわけも、話しかけられるわけもない、と自分を戒めた。



 少しして、浴室の扉が開く音が聞こえた。なんとなくだけれど、扉の向こうでミーヤが困惑しているのが分かる。

 さもありなん、なぜなら俺がミーヤのためにおいておいた服は、男ものの黒いTシャツ一枚のみ(さすがに白はアウトだと判断した)。普通の女性だったら、ぶち切れ必至だろう。

 しかしミーヤは異世界の食べ物にも困っている孤児。断れまい。それにもし、異世界にも児童保護みたいな法がものがあったとしても、黒Tシャツならまだセーフ、きっとセーフだろう。



 こんこん、とトイレの戸がノックされた。



「あ、あの、着替えました。でも、これ……」



 案の定ミーヤの声は戸惑いに満ちている。



「大丈夫、大丈夫」



 俺は適当に口走りながら、トイレの扉をあけた。

 すると扉の前には、だぼだぼの黒のTシャツをワンピースのように着こなした猫耳少女が、戸惑い気味に立っていた。その頬は血色が良くなり、桜色にゆであがっている。下のズボンは与えていないので、生足としっぽがワイシャツの裾のしたからのぞいている。

 男の妄想の集合体みたいな存在が、俺を見上げていた。



「完璧です」

「でも、これ、大きいです。それに……」

「いえ、完璧です。それでいいんです。それでは早速撮影に移りましょう」



 何か言われる前に、俺は撮影を始めることにした。ベッドの横にあらかじめ置いてあったビデオカメラと、三脚を手に取る。三脚をベッドのほうにむけて、そこにビデオカメラを設置する。俺も椅子をベッドのほうを向けて腰かけた。



「ミーヤさんはとりあえずベッドのこのへんに腰掛けてください」

「はい」



 言われた通り、ベッドに腰掛けるミーヤ。



「とりあえず一度練習をしてみましょう」

「えっと、私は何をすればいいんですか?」

「私の質問に答えてくれれば大丈夫です」



 そこで、俺はこのままでは動画に自分の声が入ってしまうということに気付いた。それはまずい、個人を特定されてしまう可能性がある。

 俺は本棚からノートを一冊取り出し、ペンたてからボールペンをとった。これでカンペのようにしようという作戦である。



「えっと、私がここにミーヤさんへの質問を書くので、ミーヤさんはそれにこたえてください」

「あ、あの、すみません、私文字は読めないです……」



 申し訳なさそうに、ミーヤはそう言った。

 それは完全に失念していた。たしかに、というかそもそもひらがなや漢字は異世界人のミーヤに伝わるのだろうか。



「では、普通に私が声を出して読みます。本番では声は出さないので、なるべく覚えてください」

「は、はい、頑張ります」



 やる気を見せるミーヤ。本当にいい子である。



「ではいきます。お名前を、教えてください」

「えっと、ミーヤと言います」

「趣味はなんですか」

「お料理が得意です」

「とっても、かわいいですね」

「あ、ありがとうございます」

「それに、その猫耳としっぽ素敵ですね」

「あ、ありがとう、ございます?」



 戸惑いの感情を表してか、ミーヤの猫耳としっぽが揺れる。完ぺきである。



「その猫耳としっぽ、近くで見てみてもいいですか」

「あ、はい、いいですよ」



 俺は一応、本番の通りにビデオカメラを三脚から外して、それを手に、ミーヤを間近で観察する。さすがに猫耳にこれだけ注目されると、ミーヤも恥ずかしいようで、ちょっとうつむきがちになってしまった。その感情に呼応するように揺れる猫耳が、すばらしい。

 俺は一度ミーヤから離れた。



「次は尻尾が見たいので、たって後ろを向いてもらってもいいですか」

「は、はい」



 おずおずと、後ろを向くミーヤ。俺はビデオカメラを手に、ミーヤのお尻へと近づいてゆく。Tシャツの裾からのぞく尻尾。



「ミーヤさん、このときは、両手で服の裾をつかんで、あと尻尾は少し揺らせたりできますか」

「はい」



 けなげなまでに、言いつけを守り、尻尾を揺らすミーヤ。すばらしい。



「ありがとうございます、もうこちらを向いて座ってもらっても大丈夫です」



 俺はビデオカメラを再び三脚にセットし、椅子に座った。



「この動画を見てくれている人にむかって、「みんな、よろしくお願いしますにゃ」と可愛く言って下さい」

「え……、えっと、み、みんな、よろしくお願いします、に、にゃ?」

「もう少しスムーズに、あと表情も柔らかくお願いします」

「よろしくお願いします、にゃ」

「よろしくお願いしますと、にゃの間に一拍置かないでください」

「よろしくおねがいしますにゃ」

「にゃの部分は気持ち、声を上げる感じで」

「よろしくおねがいしますにゃ」

「素晴らしいです、これで完成です」



 最初は猫耳少女ミーヤのプロモーションビデオのような感じでいくつもりである。もうちょっと長い動画のほうがいいのかもしれないけれど、まあ仕方ない。猫耳とか尻尾のアップをとっていれば、十分くらいの動画にはなるだろう。

 後は本番である。



「では、本番をいきましょう。口パクで先ほどと同じ質問をするので、同じように答えてください」



 俺はそう言って、ビデオカメラのスイッチをいれた。

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