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帰ってきて、アンナさん その1

 一昨日、うちにやってきたミーヤは首に俺があげたネックレスをしてくれていた。首もとでかわいらしく主張するハートのネックレスは、少し照れた表情で玄関先に佇むミーヤにとてもよく似合っていた。



 それから家にミーヤを招き入れた後、俺がネックレスのことを褒めると、ミーヤはますます顔を赤くしていた。それを見て、俺も少し小恥ずかしい気持ちになった。しかしそれ以上に俺は、えも言われぬ充実感に満たされていた。

 少女とはいえ女性が、俺が送ったネックレスレスを嬉しそうに身につけてくれている。そして照れながらも、すごく嬉しかったですと感謝の気持ちを述べてくれる。それらのことが、この上なく嬉しかった。なので今月分の給料にちょっと上乗せしてしまったほどである。

 いやぁ、もしかしてアイドルやホステスに貢ぐおっさんも、俺と同じような喜びを感じているのだろうか。



 ……なんてことを、俺は本屋からの帰り道でふと思ったわけであるけれど。



「どう思います?」



 部屋に戻った俺は鞄を床に下ろした後、机の上に座っていた精霊達にそう尋ねた。



「知るか、です」

「激しくどうでもいいです」



 精霊達はぞんざいにそう答えた。



「帰ってきていきなり語りだしたか思えば、なんですかその微妙なのろけ話は」

「あと、話の着地地点が間違っているです」



 そのように言う精霊達。

 別に話の着地地点は間違っていないと俺は思うけれど……。



「まあ、私の話は九割九分九厘中身なんてないですよ」



 だって適当だし。



「というか、タナカはあの亜人間の少女にネックレスとやらを渡したですよね?」

「え、ああ、はい。渡しましたよ」



 精霊に聞かれて、俺は頷いた。



「それで亜人間の少女は、受け取ったです?」

「ええ」



 再度頷く俺。



「なら、もうその亜人間の少女はタナカの愛人になったです?」

「は?」



 精霊の突拍子もない言葉に、俺は思わず声を上げた。



「いやいやいやいや、そんなわけないじゃないですか。前に貰ったブレスレッドのお返しですよ」

「そうなんです? でもケンイチはネックレスをあげた女を皆愛人にしていたですよ?」



 ケンイチさん、またお前か。



「……それはたぶん、ケンイチさんが特殊なだけだと思いますよ?」



 そのように答えたその時、何故か脳裏に一瞬、ベッドを横目でちらちらと確認する一昨日のミーヤの姿が浮かんだ。



「なんだそうだったですか。ケンイチ以外の人間に興味が無かった故、てっきり人間は誰かを愛人にしたい時はネックレスを渡す決まりでもあるのかと思っていたです」

「そんなわけないじゃないですか」



 俺は精霊の言葉と、脳裏に一瞬浮かんだ映像を一緒に笑いとばした。



「それより、約束の漫画は買ってきてくれたですか」

「ああ、はい。まあ正確にはレンタルですけれど」



 精霊に言われて、俺は床に下ろしたカバンの中からレンタルしてきたハンター○ンターの蟻編の漫画をとりだし、どさっと机の上に置いた。

 これらはクロエとの決闘の時に、精霊達と約束した品である。



「「「おー!」」」



 歓声を上げる精霊達。



「レンタルなので一週間後にはまた本屋に返さないといけないので、それまでに読んでください」

「「「了解ですー」」」



 そう言って精霊達はさっそく、風の魔法でコミックを宙に浮かせて器用に読み始めた。



 俺は壁にかかっている時計を見た。

 針は一時の少し前をさしている。



「あ、でも精霊さん。今日はもうすぐミーヤさんが来ますよ」

「なんですと?」



 俺がそう言うと、精霊達は顔をあげて俺の方を見た。



「今日は二度も来てたではないですか」



 精霊達が言う。



「それは両方内職の道具を受け取りに来たんです」



 今朝と昼前に、ミーヤと孤児院の子供達が内職の道具を運びにやってきた。



 俺はそこでふと、その時ミーヤがネックレスをつけていなかったことを思い出した。

 何故だろう、子供達の手前恥ずかしかったのだろうか。



「それとは別件で。実は前にあげた動画も結構評判が良くて、それで『次の動画待っています!』というコメントもたくさん来ていましてね」



 動画のコメントを思い出して、密かにテンションが上がる俺。最新の動画の再生数も四桁を超えた。



「それでちょっとミーヤさんに休日出勤をお願いして、動画を上げようと思いまして」



 今のうちに早く次の動画をあげて、再生数の多い動画を更に作る。そうすればいずれは、有名ユー〇ューバ-のように、年商億超えも夢ではないかもしれない。



 妄想される薔薇色の未来。

 その妄想の狭間に一瞬だけ脳裏をよぎった今週末の就活を、俺は彼方へと追いやった。



「……再整数とか何を言っているのかよく分からないですけれど、その時は隠れて密かに読むです」



 精霊はそう言った。



 それから少しして一時をまわった頃、異世界の扉がノックされた。

 もうすでに、部屋の中に精霊達の姿はない。



 俺は異世界の扉の前に行き、扉を開いた。

 玄関前に佇んでいたのは、ミーヤだった。そしてその首もとに、ネックレスが。

 俺はそれを見て、少し嬉しくなった。



「こんにちはタナカさん」

「こんにちはミーヤさん」



 ミーヤが挨拶をしてくれたので、俺も挨拶を返した。



「あ、えっと……とりあえずあがってください」



 動画の撮影は孤児院で行うつもりなのであるけれど、それも含めて色々とミーヤに説明したいことがあったので、とりあえず家にあがってもらうことにした。

 ミーヤを椅子に座らせて、飲み物をだした。

 お礼を言ってくれるミーヤ。しかしその表情はちょっと堅いような気がした。


 

 俺はそれから、ミーヤの向かいに座った。



「休日なのに来てもらってすみません。それで、今日の予定なんですけれど」

「えっと、動画の撮影ですよね」



 俺が切り出すと、ミーヤはそう言った。

 頷く俺。



「その動画の撮影なんですけれど、一応プランは考えていまして、また前みたいに孤児院の方で撮ろうかと思っています」



 孤児院で動画の撮影に協力してくれそうな子を探すつもりである。俺としては孤児院で見た犬耳の少女とかが協力してくれると嬉しいなと思っている。

 そして次から次へと新たな美少女を売り出していくことで、動画の再生数もうなぎ登りに違いない。



「え、では動画の撮影は外で行うのですか?」



 何故か少し驚いた表情をするミーヤ。



「はい、そのつもりなんですけれど……何かまずいですか?」



 前回も孤児院だったのに、驚くようなことだろうか。



「い、いえ、何も。大丈夫です」



 ミーヤが慌てて手を振る。



「そうですか」



 大丈夫ならよかったと、俺は安心した。



「それで孤児院に行くつもりなんですけれど、その前に商人ギルドに寄りたいんですよ。今月の孤児院の運営費を払わないといけないので」

「商人ギルドにですか。分かりました」



 ミーヤはそう言って頷いた。

 その後俺達はカメラなどを用意をしてから、家を出た。ちなみに外に出る際、ミーヤは首のネックレスを外して、ポケットにしまっていた。



 家を出た俺達は、アンナさんの部下であるダークエルフの女性三名に前後を守られながら、商人ギルドに向かった。

 俺はミーヤと横に並び、雑談をしながら歩いていた。



「そういえば、今月は私の勤務の日程が不定期ですが、タナカさんに何かご用事があるんですか?」



 ミーヤが俺の方を見上げて尋ねてきた。



「え、ああ、そうですね。ちょっと、今月からはこんな感じで不定期に予定が入ると思います」



 俺は曖昧な笑みを浮かべながらそう答えた。

 予定というのは、そろそろ本格に選考が始まる就職活動である。



 それからしばらくし歩いて、俺達は商人ギルドにたどり着いた。

 中に入ると、受付にはマヤさんの姿があった。彼女は前に胡椒を売りに来た時も受付に立っていた、エルフの女性である。



 受付に向かう途中、マヤさんと目があった。

 俺達に気付いたマヤさんは何故か一瞬、慌てたような顔をした。



「こんにちはマヤさん」

「こ、こんにちはタナカ様」



 前に立って話しかけた俺に対して、何故かたどたどしいマヤさん。



「えっと、今月の孤児院の運営費を払いにきました」



 俺はそう言ってバッグの中から麻袋を取り出し、カウンターの上に置いた。麻袋の中には、運営費のための胡椒が入っている。



「タ、タナカ様、運営費を払いに来ていただいたのはありがたいのですけれど、今はちょっとまずいと申しますか……」



 マヤさんは麻袋を受けとらず、何故か後ろを振り向いてそう言った。

 マヤさんの目線の先を追うと、奥の扉の中に丁度男の人が入ってくところが見えた。



「どうかしたんですか?」

「その、今はちょっと色々たてこんでおりまして、説明しずらいと申しますか、とりあえずタナカ様は今すぐにここから離れたほうがいいと思います」



 マヤさんはこちらの方を向いたかと思うと、真剣な表情でそう言った。

 驚く俺。周りを見ると、ミーヤも護衛の女性達も怪訝な顔をしていた。



「あ、なら、これは今月分の運営費なので、よろしくお願いします」



 俺は、よく分からないけれどとりあえず胡椒だけ支払ってしまおう、と考えた。



「いえ、本来なら支払いの際は、ギルドカードに支払い証明の上書きをする必要があるのです。だから今はこちらはお預かりできません。なので一度持って帰っていただいてまた今度……」

「ほほう、お前がタナカか」



 マヤさんの言葉を聞いていた途中、その後ろから男性の声で名前を呼ばれた。

 マヤさんの後ろに目をやると、そこにいたのはにやにやとした顔でこちらを見る肥満体形の中年男と、その後方に控える小柄な男だった。



 マヤさんが中年男の方を見て、一瞬苦虫をかみつぶしたような表情をしたのを俺は見逃さなかった。

 中年男がマヤさんの隣に並んだのと同時に、マヤさんはその男との距離をとった。



「お前が孤児院を運営費を出しているとかいう、商人のタナカだな」



 中年男は俺を見てそう言った。

 その横で、マヤさんがそろそろと後ろへ下がってゆくのがみえる。



「はい、そうですけれど」



 俺が答えると、中年男は鼻で笑った。

 一体誰なのだろう、この人は。一瞬、前に胡椒を売りに来た時に会った副ギルド長かと思ったけれど、そんなはずはない。前に会った副ギルド長はもっと筋肉質で、こんなに太ってはいなかった。



「孤児院なんぞを引き受けるとは、それにダークエルフなんぞを引き連れて貴様は……ん?」



 俺達の顔を確認しながら話していた中年男は、その目線をミーヤにやった時、固まった。中年男はミーヤをじろじろと見て、そんな喜色を浮かべた。



「ふひっ」



 中年男はそんな声を出した。

 見られて怖かったのか、俺の服の裾をつかむミーヤ。

 というか俺も一歩引いてしまいそうなほど、その中年男は気持ち悪かった。



「……なんだ、もしかして貴様もわしと同じ理由で孤児院を引き受けたのだな。おまけに人モドキとは、業が深いの」



 中年男は俺を見て、何やら納得している。

 何を言っているのだろう。



「え、あの、一体何のことを……」

「ふひひ、隠さずともよい。同好の士として仲良くしようではないか」



 俺の言葉をさえぎり、笑いだす中年男。



「貴様も、孤児達の体が目当てで孤児院の運営を引き受けたのであろう」



 そして中年男は、そんなとんでもない一言を放った。

 俺は中年男の言わんとしていることを理解し、驚くと同時に焦った。

 このメタボはあらぬ濡れ衣を俺に着せようとしている。



「え、いや、違います!」



 俺は慌てて否定した。

 ミーヤさんや護衛の方々、そして遠くから野次馬根性で覗いている人にそう思われてはたまらない。



 その時、今まで黙っていた護衛の女性のうちの一人が、一歩前に出た。



「貴様、名を名乗りもせず、なんだその言いがかりは。我が主の大切な御客人であられるタナカ様に対して無礼であるぞ」



 そのダークエルフの女性はそう言った。

 するとそのメタボな中年男の横に控えていた、小柄な男がその場で叫んだ。



「なんだ貴様は! どこの馬の骨とも知らぬダークエルフごときが、貴様の方が無礼であるぞ! このお方をどなたと心得る。このお方は、エルゴード子爵の弟ぎみにてこの商人ギルドのギルド長でもあらせられる、ボーラ・アイゼン様であるぞ」



 その小柄な男性は子爵であるらしい中年男の横で、ふんぞり返りながらそう言った。その様子は権力者にこびへつらう小者、そのものだった。

 それと、このメタボな中年男は、この商人ギルドのギルド長だったらしい。おまけに子爵の弟でもあるらしい。俺はそれらの事実に驚いた。



「子爵の弟ぎみだと。それが……」

「ギルド長」



 護衛の女性が言葉を発しようとしたその時、ギルド長であるメタボの後ろから男性の声がかかった。

 奥の扉からマヤさんを引き連れて現れたのは、俺も前に胡椒の取引でお世話になった、副ギルド長だった。



 どうやらマヤさんは副ギルド長を呼びに行ってくれていたようである。

 副ギルド長は口を一の字に結んで、ギルド長に詰め寄った。



「なんだ、わしに何か用か。ダンテ」



 ギルド長はその大きなお腹を副ギルド長のダンテさんの方に向け、にやにや笑っている。



「……ギルド長。商人ギルドのギルド長が、商人の活動を妨害するようなことだけはなさらないで下さいよ」



 副ギルド長は低い声でそれだけ述べた。



「ダンテ、貴様、ボーラ・アイゼン様に向かってその口のきき方はなんだ! 平民の分際で貴様は……」

「ふひっ、まあまあ、その辺にしておけドビ―」



 副ギルド長にかみつこうとした小柄な男。それを、メタボなギルド長が肩を叩いて止めた。



「はっ! なんという御心の広さでございましょう。このドビ―め、非常に感服いたしました!」

「ふひひひ、そうであろう。……それでダンテよ」



 ドビ―と言うらし従者に煽てられて機嫌を良くするギルド長。彼は嫌らしい笑みを浮かべて、またダンテさんの方に目をやった。



「なあに、安心せよ。わしも商人ギルドに不利益を被らせるようなことは考えておらぬ。……わしはただ、このタナカと商売の話をしようと思っておっただけだ」

「……本当ですか?」



 ギルド長の言葉に対して、訝しげな表情を浮かべるダンテさん。



「ふひっ、本当だとも。のうタナカ、わしと取引をしないか」



 ギルド長はそう言って俺の方を向き、少し身を前にのりだした。それによりお腹のぜい肉がカウンターの上にのった。



「もし取引をしてくれたなら、お前に便宜を図ってもらえるように、父上や兄上に掛け合ってやってもよいぞ」

「取引ですか?」



 俺はギルド長の申し出に、そこはかとなく嫌な予感を覚えた。

 


「そうだ。なに難しいことではない。貴様が経営を行っている孤児院。そこにいる孤児を時々、見目の麗し女子を見つくろって、わしの館に届けてほしいのだ」



 そう言って男は、口角を持ち上げて不気味に笑った。

 俺はその瞬間、身の毛がよだった。初めて感じたのではないかと思うほどの、強烈な生理的な嫌悪感を覚えた。



 そしてそのような嫌悪感を覚えたのは、俺だけではなかったようである。

 特に女性陣の表情が大きく歪んだ。



「わしもお前と同じように、まだ未発達の女子の体をだな……」

「あの、お断りします」



 ギルド長がまた何かとんでもないことを言いかけ、俺はとっさに断っていた。

 皆に守られているとはいえ、こんな風に誰かの要求にNoときちんと答えられたことが、自分でもちょっとびっくりした。



「……なに?」



 表情から徐々に笑顔が消えてゆくギルド長。その瞳に、明確な怒りの色がともり始めた。



「……貴様、ただの商人の分際で、このわしの申し出を断ると言うのか」

「あ、いや、だって、私別に孤児院でそんなことしてませんし」



 俺は、あんたが思っているようなことを、孤児達に強いてはいない。そこだけは強調しておきたかった。



 そのとき、護衛の女性が口を開いた。



「……これ以上、その汚い口を開くようでしたら、タナカ様への侮辱とみなし、我が主であり、シューベルト家の御長女であらせれる、ミルフォード・アンナ・フォン・ダクス・シューベルト様に、お伝えせばなりませんが?」



 護衛の女性は、ギルド長への嫌悪感を隠そうともせず、睨みつけるようにそう言った。



「シューベルト家?」



 ギルド長が目を丸くして、護衛の女性の方を見た。

 横の副ギルド長やマヤさん、そしてギルド長の従者までもが驚いた顔をしている。



「シューベルト家というと、あの賢者の子孫の一族である、あのシューベルト家か?」



 確認するギルド長に対して、護衛の女性は無言のまま肯定の意を示した。

 するとギルド長は、一瞬思案顔になり、それから噴き出した。



「……っふ、ふひひひいひ! すると何か、お主らはそのシューベルト家のものだとでもいうのか」



 大笑いするギルド長。



「わしをそんな幼稚な嘘で騙そうとは、片腹痛いわ。ではなぜシューベルト家のものが、こんなただの商人の男につき従っているのだ。何か、実はこの男はダークエルフだったのか? ふひひひひひ、変な顔をしたダークエルフもいたものだな!」

「は、ははははははは、全くその通りですな、ボーラ様。まったく、程度の低い嘘にございます」



 追随して、笑う従者のドビ―。

 護衛の女性の目がすっと細くなった。

 空気がぴりっと張り詰めたのを、俺は感じ取った。



「……吐いた唾はのませませんよ」



 護衛の女性はそう言って、カウンターの上に置いた胡椒の袋を手に取った。そして俺の方に振りかえり、袋を手渡してきた。

 袋を受け取る俺。



「……タナカ様、あの受付嬢の言っていたように、一先ずここは出直しましょう。このような下種がいては、話も進みませんでしょう」



 護衛の女性に言われて、俺はこくこくと頷いた。

 対して、護衛の女性の後ろで、ギルド長の顔色が怒気に染まった。



「私の父君は教会に多額の寄付をしているのだぞ! だから私が一声かければ、貴様らなど罪人として……」



 喚き散らそうとした次の瞬間、ギルド長は後ろによろめいて、大きな音を立てて尻もちをついた。



「……黙りなさい」



 拳を宙に構えたまま、ギルド長を見下ろす護衛の女性。彼女は目にもとまらぬ速さでカウンターの方を振り向き、拳をギルド長の面前につきだしていたのである。



「な、な……」



 信じられないような表情で、護衛の女性を見上げるギルド長。




「……それでは参りましょう、タナカ様」



 護衛の女性はそう言った。

 そして周りのギャラリーを含めて皆が茫然とする中、俺達は商人ギルドを後にした。

 背後から、ギルド長のわめき声が聞こえていた。

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