現実での自分
ミーヤを異世界に帰したあと、俺は興奮冷めやらぬまま自室の中をせわしなく歩き回っていた。
「え、まじで異世界なのか」
猫耳少女ミーヤのことが頭から離れない。とりあえずミーヤには明日もまた、今日と同じくらいの時間にきてくれるように言ってかえした。
俺はこの扉の事を他の誰にも伝える気はもうさらさらなかった。だってそんなことをしては、最悪この扉を取り上げられる可能性もある。もちろん異世界の住人に伝えるなど論外である。
そしてなにより、
(この扉を使えば、お金も稼げるんじゃないか)
異世界には猫耳だけではなく、エルフにドワーフ、それに魔法まで存在するという。それも面白そうだけれど、それ以上に、ミーヤの様子や話を聞く分には、地球に比べて技術の発展は遅れていそうだった。
すなわち日本から色々持ち込めば、ネット小説の展開よろしく、大儲けができてしまうのではないだろうか。
とらぬ狸の皮算用でほくそ笑んでいた俺だったが、そこで一つ気付いてしまった。
(あれ、でも、それだと向こうの金は稼げても、こっちの金は稼げないような……)
俺は今のところ、日本を捨てて異世界に生活拠点を置くつもりは毛頭ない。ミーヤの姿を見るに、日本ほど過ごしやすい場所とは到底思えないし、怖い。そして何より……。
俺は髪をかきむしった。とにかく日本で稼ぐ必要がある。
(それと、誰かが部屋に来たときはどうしよう……)
不幸中の幸いと言うか、俺はぼっちなので大学の友達が一人もいない。
しかしそれでも両親がやってきた時どうするかなど、悩みは尽きない。
俺はそこでまだ昼食をとっていなかったことを思い出し、外に食べに出かけた。歩きならが、これからの事について色々思いをはせる。
近くの餃子の王○までいき、カウンターに座った。チャーハンと海老チリをオーダーした。
(そもそもなんで日本語が通じるんだろう)
よくよく考えてみると、異世界人に日本語が通じるというのは非常に奇妙である。
理由を考えてみても、全く思い浮かばなかった。
(とりあえず、なんにしても向こうの事についてもう少し詳しくしる必要があるな……)
何か現代日本から持ち込むにしても、異世界から何かを持ち込むにしても、とりあえずは向こうを知らなければ話にならない。
(ミーヤにもっと話を聞いておけば……、いや、俺が猫耳少女を前に冷静でいられたわけがないか)
自分の女性免疫のなさから、悲しいけれどそれは不可能だと思った。
しかしミーヤにはまた明日、今日と同じくらいの時間にくるように言ってある。その時に色々と尋ねればよいのである。
(ミーヤか……)
猫耳少女ミーヤ。彼女は食べ物を恵んでもらうために、体を売ろうとしていた。服はぼろぼろで、足は裸足だった。それに両親は共にいないという。もしかして異世界にはスラムのような場所があり、彼女はそこに住む孤児なのかもしれない。
(あのとき、ミーヤの誘いを受けていれば俺は童貞を捨てれたのか……)
コンプレックスである息子の小ささも、相手がミーヤくらいの子ならちょうどいいかもしれない。それに小さいのを見られるのが嫌ならば、四つん這いにしてやればいい。
俺はできもしないことを考え、そんな世界を想像してみた。
童貞を捨てて、ミーヤと恋人になる俺。
色々とミーヤのためにつくそうと、日本で就職して働く俺。
ミーヤとは住む世界が違うので、やがてすれ違いも増える。
そしてあるとき、仕事から帰ってくると部屋の中からミーヤの嬌声がする。
おそるおそる扉を開くと中には、俺の二倍以上のサイズのあれを持った男に貫かれて、とろけきった顔をしたミーヤの姿が……。
(あ、駄目だ、駄目だ。そういう動画ばっかり見過ぎた。というか、こんな外で考えることじゃない)
俺は下半身に集まりかけた血液を必死に散らした。
冷静になった頭で、もう一度ミーヤの事について考えてみる。
(……まあでも、昼食代だけで、異世界の人を雇うことができるとは、俺もついてるよな)
俺はほくそ笑んだ。
(というか、異世界に帰しちゃったけれど、ミーヤは家はあるのかな……)
食べ物ほしさに体を売るほどである、家もないのかもしれない。そうだとすると非常に申し訳ないことをしたと思った。
(でも、俺の部屋に住まわせるというのもな……)
正直それは気が進まなかった。家くらい一人でくつろぎたいし、そもそもミーヤが部屋の外の現代世界にでてしまったら、大変なことになる恐れが出てくる。
(まあ、とりあえず、食事はだすんだし、それで……あれ、食事?)
仮にミーヤが毎日やってくるとする。そして毎日俺はミーヤに昼食代を払ったとする。一日五百円、それが一カ月続けば、約一万五千円ほど。
親の仕送りで生活している俺に、そんな余裕はない。
(やべえ! そうだよ、思わず食事をあげるからなんて軽くいっちゃったけど、俺、一円も金を稼いでないじゃん!)
俺は今、バイトをしていない。
バイトをした経験も、学部ニ、三回生の時に一度だけであった。
(どうする……、またバイトを始めるか? もうすぐ就職活動とか始まるこの時期に? 絶対親に怒られる。というかやりたくない。でもとりあえず、ミーヤの食事代くらいはなんとか、稼げるようにしないと)
そこで、気付いた。
(いや、待てよ……。別にミーヤの昼食は日本で買わなくても異世界の方で買えばいい、ということは異世界の方で稼げれば問題はないのか……)
だとすれば、先ほど考えたように何か日本の商品を売ればよい。
(それに、異世界のものを日本に持ち込んだら、日本で稼ぐことができることができるかも……)
色々考えた結果、現地商売を行うには異世界のことをもっとよく知るよりほかに近道はないだろうという結論に至った。
注文したチャーハンと海老チリを食べながら俺は、商売の他に日本で稼げる手段は何かないかと俺は考え始めた。
そして、上手くいけばおこずかい程度なら日本で稼げるかもしれない方法を思いついた。あくまで上手くいけば将来的に稼げるかも、という程度なのだけれど。
家に帰った俺は、ベッドの下から段ボール箱をひっぱり出してきて、その中からあるものを探した。
そしてお目当てのものは、すぐに見つかった。
ビデオカメラ。
高校生の時に父から譲り受けたもので、非常に状態はいい。父の話では画質も音声も中々のものらしいけれど、使ったことはないのでよくは知らない。またとった動画はパソコンに送ることもできるらし。
次に俺は、ノートパソコンを立ち上げ、ネットでYoutu○eやニコ○コ動画で動画をアップロードし、それにより広告収入を得る方法について調べだした。
これなら元手はかからない。しかし普通の一般人が適当な動画をアップロードしたところで、稼ぎがでるほどの再整数を稼ぐのは難しいだろう。
しかし、俺にはミーヤという、他の人にはない強みがあった。
(ミーヤを撮影して、動画をアップすれば、それなりに稼げるんじゃないのか……)
初回は猫耳少女の動画をアップする。これなら勝算はあるような気がする。
(とりあえず、今月はあと少しだから、来月からは動画の広告収入ががっぽがっぽ……)
俺はぐふぐふと、いやらしい笑みを浮かべていた。