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精霊魔法を覚えよう とある日の精霊教会での読みきかせ

 魔王が討伐されるよりも前のある日曜日。その日、精霊教会ではいつものように子供や文字の読めない人のために、無料で聖なる書の読みきかせを行っていた。

 一人のシスターを中心として、たくさんの子供達が輪になって座り、その後ろに大人がぽつぽつと座っている。

 子供達の目的は主に読み聞かせの後に配られる一杯の野菜のスープであるけれど、彼等はシスターの言葉に熱心に耳を傾けていた。



「……ある時、一人の賢者が並行世界から時空のはざまを通ってこの世界に舞い降りた。賢者は幾千もの知識を持ち、言葉を自由に操った。賢者は精霊のもとを訪れ、友好の証として異世界の贈り物を精霊に渡した。精霊はその贈り物をとても気に入り、友として賢者を迎え入れた」



 聖なる書のある一章を、シスターはゆっくりとしたペースで読み進めてゆく。



「ある日、賢者は裸で生活していた女性をみて、とても心を痛められた。そして嘆き悲しむ賢者を見た精霊はユデンの園になる木の実をとって、それを人々に与えた。すると人々は恥じらいを覚え、そして自身の悪行を恥じるようになった」



 シスターは続ける。



「賢者は精霊に感謝をした。賢者は言った。「私が与えた言葉を、この世界に住む人々にも与えてほしい。私が与えた知識を、この世界に住む人々にも与えてほしい」。そして賢者は自分の持つ知識のいくつかを、精霊に伝えた。精霊は賢者の優しさに心を打たれ、人々に言葉や知識、そして精霊魔法を伝えた」



 一人の少女が手を挙げた。



「私達が話している言葉はもともと賢者様が話していたものなんですか?」

「ええ、そうですよ。話言葉だけでなく、書き言葉も同じです。更に曜日や一日を二十四時間とお定めになられたのもです」



 へー、すごーいと騒ぐ子供達。



「実は知識や言葉だけでなく、賢者様によって伝えられ物は他にもたくさんあるんですよ?」

「どんなのがあるんですかー!」



 シスターの言葉に、子供達は目を輝かせて尋ねてきた。



「そうですね……例えば、みんなは結婚指輪ってしっていますか?」



 尋ねるシスター。



「しらなーい」

「知ってる、知ってる!」

「僕知ってるよ! 結婚するときに、お父さんがお母さんにあげるものでしょ!」



 正解を言い当てた子供がいたので、シスターはにこやかに頷いた。



「そうですね。男性が女性に指輪を贈る、この行為は「僕と結婚してください」という男性の気持ちを意味します。実はこの風習も賢者様によって広められたのですよ」



 シスターがそう言うと、子供達はがやがやとしゃべり出した。



「そうなんだー!」

「知らなかったー!」

「僕知ってたよ!」

「本当にー?」

「本当だよ! 前にお父さんに聞いたんだもん! それに、好きな女の子とかにネックレスを贈るのも、賢者様が広めたって言ってたよ!」



 シスターは頷いた。



「そうですね。男性が女性にネックレスを贈る、この行為は「あなたのことが好きですよ。だから僕とおつきあいしてください」ということを意味します、これも賢者様によって広められた風習ですね」



 他にも貴族などが女性にあげた場合などは、愛人になれという意味になったりもするとシスターは知っていたけれど、子供達の手前、それは言わなかった。



「ほら、シスターも言ってる!」



 ネックレスの風習のことを言った子供が、自慢げにそう言った。



「はい、ではそろそろ朗読に戻りますよー」



 シスターが優しくそういう。

 すると子供達は皆口をつぐんだ。

 

 

 シスターは再び朗読を始めた。



「ある時、一人の人間の少年が亜人間の少女をいじめているのを賢者は見つけた。賢者は少年に尋ねた。「どうしてその少女をいじめるのか」。すると少年は答えた。「この少女の耳は魔物と同じである」。それを聞いた賢者は嘆き悲しみ、その日から亜人間の素晴らしさを人々に説いて回った」



 聞き入る子供達を相手に、シスターは続ける。



「またある時、エルフがダークエルフを迫害しているのを知り、賢者はエルフに問うた。「どうしてダークエルフを迫害するのか」。するとエルフは答えた。「この者達は我々と肌の色が違う」。すると賢者は言った。「エルフの高貴な白い肌も素晴らしいけれど、ダークエルフの妖艶なその黒い肌も素晴らしい」」



 シスターはそこで一呼吸をはさんだ。



「賢者は全ての人々を平等に愛した。人間、亜人間、エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、分け隔てなく愛して、自身の知識を分け与えた。そして互いに互いを慈しむことを説いて回り、大陸全土に平和をもたらした。しかしあるとき、人間が賢者の愛を一人占めしようと考えた。そして人間は賢者の寵愛を受けていた亜人間の少女を殺した。そのことを精霊から聞いた賢者は涙にくれた。賢者は言った。「ただ、ハーレムを楽しんでいただけなのに」」



 一人の少年が手を挙げた。



「シスター、ハーレムって何ですか?」

「賢者の世界の言葉で、万人に愛を平等に分け与えることという意味だそうです」

「へー」



 少年が納得しているのを見て、シスターは聖なる書に目を落とした。



「悲しみにくれた賢者は、時空のはざまより元来た世界に戻っていった。……今日の読み聞かせはここまでです」



 顔をあげて、シスターはにこりと笑った。



「そのあと賢者様はどうなったの!?」

「その時空のはざまってどこにあるの!?」

「どうやったら賢者様の世界に行けるの!?」



 子供たちから矢継ぎ早に質問が飛んでくる。



「残念ながら、それは私にも分かりません」



 シスターの言葉に、ええー、という子供たちの不満の声がそろった。



「ですが、実はこの教会の地下のどこかには賢者様の住まう並行世界とつながる扉があるそうです」



 シスターの一言に、子供達は沸いた。



「え、本当!」

「見たい、見たい!」

「えー、嘘だー」



 子供達は皆、興味津津と言った様子でシスターを見ている。



「さぁ、どうでしょうね。あくまで噂です」



 シスターは、ふふふと笑ってそう言った。それからシスターは立ち上がり、子供達やその後ろの大人を見渡した。



「皆さんは賢者様のように、いつもハーレムを楽しめるような広い心を忘れないでください」



 シスターがそう言うと子供達は元気よく、はい、と返事をした。

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