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初めての孤児院経営? side ミーヤ and リュウ

side ミーヤ



 タナカさんと一緒に商人ギルドを訪れた日の夕暮れ前、タナカさんの家から自宅へと歩いて帰る途中で私は自己嫌悪に陥っていた。



(どうして一昨日金貨を貰った時にまず新しい服を買わなかったのよ、私のばか)



 私は、タナカさんに買ってもらった服に身を包み、タナカさんに買ってもらった靴で歩いていた。

 私は衣類を買い与えられてようやく、今までのぼろ服ではタナカさんの外聞を悪くしていたかもしれないことに気付いた。

 今思えば、一昨日タナカさんが私に金貨をくれたのも、言外に身なりを整えてと伝えていたのではないだろうか。



(それなのに私は、家を借り戻しただけで、後はまたいつお金が必要になるから分からないからって貯金して……)



 私は自らの馬鹿さ加減に溜息を吐いた。 

 しかし、こんな私にもタナカさんはあきれたりせず、優しくしてくれる。

 衣類を買い与えて、更に金貨までくれた。



(どうしてだろう……)



 タナカさんに貰った五枚の金貨が、重かった。



 きっとタナカさんは仕事の正当な報酬として、この金貨五枚をくれたのだろう。それは分かっている。

 タナカさんにとって自分は特別ではないと思う。



 胸が、苦しくなった。



 気まぐれに与えられる一度の施しにはきっと、理由なんて求めずに済んだ。でも絶え間ない無償の優しさには、理由を求めてしまう。



(何かちゃんとタナカさんの役に立ちたいな……)



 強くそう願う。



(でも、どうすればいいんだろう……)



 色々とよくしてもらいすぎだから、せめて給料か食事の賄い、どちらかを断ろうとした。でも何故かタナカさんにどちらも断られてしまった。



 こんな時、きっと優しかったお母さんなら、あなたにできることをすればよいのよ、と言っただろう。



(私にできること……)



 料理? タナカさんの家で食べる料理は、私が作る料理なんかより百倍美味しい。お肉などの食材だって行商の途中で手に入れたのだろう高級食材が使われているし、特にあのプリンという甘味を食べた瞬間は今思い出しても……。



 私はプリンの柔らかい食感と、その滑らかな甘みを思い出して、うっとりしていた。



 プリンの事で頭がいっぱいになっていると、突然後ろから声をかけられた。



「ミーヤちゃん」



 我にかえって振り返ると、そこにいたのはサキちゃんだった。



「サキちゃん」



 サキちゃんは手を振って、私の横に並んだ。



「サキちゃんは今帰りなんだ」

「うん。今日はもう仕事がなくって。ミーヤちゃんも今帰り?」



 サキちゃんの顔には疲労の色が濃く出ている。

 私は頷いた。



「そうだ。この前のあれ、ありがとうね」



 私はサキちゃんにお礼を言った。



「あれ?」

「ほら、商人ギルドについて教えてくれやつ」

「ああ、いいよ全然。ミーヤちゃんの新しい雇主のタナカさんの助けにはなった?」

「うん」



 私は頷いた。

 私は以前の井戸での水くみ以降、また時々昔みたいにサキちゃんとこうしてお話しできるのが嬉しかった。



「ミーヤちゃんもしかしてその服、新しく買ったの?」



 サキちゃんが私の服を見てそう言った。

 私は、息がつまった。



「え、う、うん。その、買ってもらったんだ、タナカさんに……」

「……そうなんだ、いい服だね。あ、もしかしてその靴も?」

「う、うん」

「……そっか」



 二人とも下を向いて歩く。

 沈黙が間を支配した。



 嫌な感情ばかりが私の中で渦巻く。



(でも、サキちゃんは私の友達だ)



 私は足をとめた。そしてためらう気持ちを捨てて、サキちゃんに声をかけた。



「あ、あの!」



 サキちゃんがこちらを向いて、立ち止まった。



「ちょと、こっちに来て」



 私はサキちゃんの手を引き、大通から横道に入った。

 そしてその横道の入口あたりで、二人向き合った。



「そ、その、これ……」



 私は内ポケットから金貨を一枚取り出し、それをサキちゃんに差し出した。

 金貨を見て、目を丸くするサキちゃん。



「これ、どうしたの……」

「えっと、今日金貨五枚その、タナカさんが給料としてくれたから……」

「金貨五枚!」



 サキちゃんは大きな声を出してしまったあと、慌てて口をふさいだ。

 そして驚きの表情で私を見た。



「五枚って……。一体どんな仕事を……」

「えっと、基本的にはタナカさんを街の色々なところに連れていくのが仕事……あ、後よく分からないけれど、絵のモデルになるの」

「絵のモデル?」



 私は頷いた。



「よく分からないけれど、動く絵を描く魔道具をタナカさんが持ってて、それを使って絵を描くの。そのモデル」

「……」



 サキちゃんは私の持つ金貨を見た。そして少しためらいの表情を見せた後、首を横に振った。



「……これはもらえないよ」

「え、ど、どうして?」



 驚く私。

 サキちゃんは悲しげな眼で私を見た。



「だって、これはミーヤちゃんが、つらいのを我慢して思いをして稼いだお金でしょ」

「い、いいよ、私まだ四枚あるし」

「駄目だよ!」



 サキちゃんが何故か急に泣き出してしまった。



「どうしたの、サキちゃん?」

「ううん」



 私が尋ねると、サキちゃんは私をぎゅっと抱きしめた。



「ミーヤちゃん、つらい時はいつでも言ってね。私ならいつでも相談にのるから」

「う、うん……」

「つらいよね、でもきっとつらいのは今だけだから……」

「あ、あの、もしかしてサキちゃん、何かものすごい勘違いしてない!?」

「え?」



 ぎゅっと私を抱きしめた腕を解いて、私の目をみるサキちゃん。その目は涙で腫れていた。



「仕事って、普通のお仕事だよ? その、そんな変な意味の仕事じゃなくて」

「そ、そうなの? 私はてっきり、そのミーヤちゃんが体を売って、そしてその様子を絵に……」

「ち、違うよ!」



 私は恥ずかしさのあまり叫んでいた。サキちゃんの思い込みが激しいことは良く知っているけれど、これには驚いた。

 謝るサキちゃん。



「でも、だったらその金貨はどうして?」

「……たぶん、特に理由はないと思う。タナカさんはきっとすごい商人さんでお金があるから、たくさん給料としてくれただけだと思う」

「え、そんなことってあるかな……」



 サキちゃんは当然ながら、納得していないようだった。



「タ、タナカさんは優しいから……」



 私の言葉にも耳を貸さずに、考え込むサキちゃん。そして口を開いた。



「……もしかして、愛人になれって意味なんじゃないかな?」



 サキちゃんは真剣な表情でそう言った。



「愛人?」

「うん、つまりお金をやるから俺の都合のいい女になれっていう意味」

「え、そ、そうなのかな?」



 タナカさんの愛人である自分を想像して、顔から火がでそうになった。

 でも、そうならいいかなって思った。



「……もしかして、ミーヤちゃん。タナカさんからネックレスとか渡されてない」



 心配そうな顔で尋ねてきたサキちゃん。

 それに対して、男性が女性にネックレスを渡すという行為の意味を知っている私は、慌てて首を横に振った。



「そ、そんな。貰ってないよ! そ、それに、タナカさんはきっと私の事を別に何とも思ってないよ?」

「……そっか。でも、それでもやっぱり私は愛人になれって意味だと思うけれど……」



 サキちゃんは難しそうな顔でそう言った。



「えっと、変なことを言ってごめんね」

「ううん」



 私は首を横に振った。

 私たちは表通りに戻り、再び歩き出した。



「でもさ、ミーヤちゃんはそのタナカさんのことが嫌いじゃないんでしょ?」



 サキちゃんは前を向いたまま、ぽつりと言った。



「う、うん。すごく感謝してる」

「……ならさ、私は愛人でもいいんじゃないかなって思う。だって金貨を五枚もくれるってことは相当大事にしてくれてるってことでしょ? ……ってごめんね、私がとやかく言うことじゃなかったね」



 サキちゃんはそう言って笑った。



 サキちゃんはそれ以降、タナカさんのことについて触れなかった。

 その後も会話をしながら、二人は街中を歩いた。

 別れしな、もう一度サキちゃんに金貨一枚を差し出すと、今度は受け取ってもらえた。



side リュウ



 その日、孤児院で一人の孤児が死んだ。俺のグループではない、別のクラスの誰かである。食べるものがなくて衰弱して、そのまま床の上で餓死したらしい。

 そいつは孤児院の敷地内に埋められることになった。



 俺は地面の上に置かれた名も知らぬ遺体を見下し、鼻で笑った。そいつの頬は痩せこけ、手足は棒のように細かった。

 こいつは臆病者だ。床の上で餓死するくらいなら、森の奥で魔物に食われて死ねばよかったのである。そのチャンスを俺は差し伸べてやったのに、その臆病者は怖がって逃げたのだ。逃げ場なんてどこにもないのに……。



 俺は拳を強く握りしめながら、ある亜人間の女子を後ろから睨んだ。

 そいつは、エマは、数日前まで一緒に魔物を狩りに行くグループの仲間だった。

 


 エマは両膝を地面につき、そして量の掌を顔の前で合わせている。そして数秒間祈りをささげた後、立ち上がろうとして、ふらついた。

 エマは隣の女子に支えてもらい、立ちあがった。



 エマは土の精霊魔法の使い手だった。といっても非常に微力で、子供すら入りきらない程度の土地を耕せば、それだけで疲れてしまう。



 周りの奴らが、エマが魔法で耕した部分の地面を掘り、更に周りを削りながら穴を広げてゆく。



(こんなことのために、その土魔法を使うなよ……)



 命をかけて魔物を狩ることを止め、全てを諦めてしまったエマが腹立たしかった。

 そしてそれ以上に、エマの土魔法がないと、どうにもならない自分が腹立たしかった。



 『リュウ、妹をお願いね』



 脳内で声が響く。



 俺は我慢できなくなり、エマの肩をつかんだ。

 振り返るエマ。



「こんなことして、何になるんだ」

「……」

「このままじゃ、俺たち全員飢え死にだぞ」

「……」



 何か答えろよ。



「いつまで、アリアの事を引きずって……」

「お姉ちゃんの事は言わないで!」



 エマが叫んで、俺の手を振り払った。

 周りの視線が全て俺たちに集中した。



「言わないで……」



 エマは泣き崩れた。横にいた女子が俺を非難の目で見てくる。



 俺は腹立たしかった。

 泣けば何かが変わるのか。同情すればいいとでも思っているのか。

 もう俺の口は止まらなかった。



「うるせぇよ! アリアはもう死んだんだよ! いい加減に認めろよ!」



 アリアは魔物に殺された。

 その日からだった。エマがこんな風になってしまったのは。

 ……いや、本当は分かっているのだ。エマはもともと臆病で、強い魔物に見つかり、仲間が引き裂かれ、踏みつぶされ、喰い殺されてゆく日々に、心を限界まで減らしていたことを。そしてその最後の糸が、最愛の姉の死により切れてしまったのだろう。



(でも、どうしようもないんだよ……)



 エマの土魔法がないと、魔物の足をとることができないのである。エマなしで行った魔物狩りは、悲惨な結果だった。



 エマは泣いたまま、何も言わない。

 俺は舌打ちをして、後ろに下がった。エマがいなければ、俺にはどうすることもできない。

 遺体の埋葬を終えた後、エマや他の奴らはその前で黙とうを始めた。



 エマ達が黙とうを初めてどれくらいの時間がたっただろう。

 孤児院に見知らぬ二人組がやってきた。

 変な顔立ちをしたを男と、亜人間の女子だった。



「あ、あの、私はタナカといいます。ここの管理人の人に少し用があるんですけれど、どこにいけば会えますか?」



 男の方が話しかけてきた。



「管理人? しらねぇよ、そんなの」



 ここで働いていた大人たちは全員、とうの昔にやめた。院長先生が今も時々様子を見に来てくれるだけで、あとは食料を持ってきてくれていた商人ももうずっときていない。



「えっと、管理人さんなら、あそこにいます」



 そう答えたのは、エマだった。エマは敷地の隅にある小屋を指さした。

 そういえば、昨日誰か来てたな。どうせ俺達に関係のないことだろう。

 俺は鼻を鳴らした。

 男はエマに礼を言って、亜人間の女子と共に小屋の方へと歩いて行った。



 それから黙とうを終えた奴らは、各々散って行った。しかしエマはじっと動かない。

 気づけば、俺とエマを除いて誰もいなくなった。



「リュウくん、ごめんね……」



 前に立つエマが、そう言った。

 俺はため息をつきながら、頭をかいた。



「だったら闘えよ……」



 エマは首を横に振る。



「なんかね、もう疲れたの……」

「そんなの俺だって一緒だよ……」

「そうだよね」



 エマが地面に座ったので、俺も腰を下ろした。

 そしてエマの丸まった小さな背中を、ぼぅっと眺める。



 このまま最後まで自分は、エマに何もしてやれずに土にかえってゆくのだろうか。

 そう思うと、悔しくて、情けなかった。

 大切な友との最後の約束すら守れない自分を恨んだ。



 しばらくそのまま座っていると、小屋の方から一人の女性が近づいてきた。確か昨日やってきた、管理人である。

 その女性は、にこやかな笑顔で話しかけてきた。



「こんにちは。あなた達はこの孤児院の子よね?」

「あ? そうだけど」



 俺とエマは、その女性の方を向いた。



「頼みがあるんだけれどきいてくれない? もしきいてくれたら、きっと食べるものが貰えるわよ。……それに、治療や、きっと亡くなったお友達も壁外のお墓に埋葬してもらえる」



 その女性は掘り返された土の部分をちらりと見てそう言った。



「きっとって何だよ……」



 俺は疑った。

 何をやらされるのかは知らないけれど、やるだけやらされて後はうやむやにされるに決まっている。



「それはね、少なくとも食べ物の代金を支払うのは管理人の私ではなくて孤児院の出資者だから」

「出資者?」



 出資者というのはつまり、お金を出してくれる人の事であろう。



「そんな奴いるのかよ」

「ええ、きっと出してくれると思うわよ」

「……お姉さん、さっきからきっとばっかりだな」

「だって絶対の確証なんてないからね」



 俺は舌打ちした。



「……何をすればいいんだ」

「簡単よ。手先の器用な子を五人くらい集めて、小屋の方に来てほしいの。それだけ」



 難しくもない頼みだった。仕事があったころは、家具や日用品を作る仕事の手伝いをしていた奴はたくさんいるので、五人くらいすぐに集まるだろう。こう見えて俺も手先の器用さには自信がある。



「えっと、それって女の子でもいいですか?」



 俺がどう答えようか迷っていると、エマが先に答えた。



「ええ、問題ないと思うわよ」

「なら、私が集めてきます」



 そう言ってエマは立ち上がろうとする。

 しかし、俺がそれを手でとどめた。



「いいよ、お前さっきの魔法でまだ疲れているだろ。俺が呼んでくるから、お前は先に小屋の方に行ってろ」

「……ありがとう、リュウくん」



 俺は立ち上がり、孤児院の方に向かって歩き出した。



 俺は適当に顔見知りを三人見つくろい、言われた通り小屋に向かった。

 途中で、何をさせられるのだと尋ねられたが、そんなものは俺も知らない。



 小屋についた後は、管理人の女性と共に中で待機させられた。

 訳も教えてもらえぬまましばらく待っていると、外から男の声が聞こえてきた。



 管理人の女性が扉をあけると、そこには昼間の変な顔立ちをした男が立っていた。

 その男は中身が入った麻袋を管理人の女性に渡して、お願いしますと頭を下げている。受付の女性はそれを受け取って、今晩の食事は必ず間に合わせます、と言った。

 そして俺達の事を男に紹介して、管理人の女性は小屋を出ていった。



「あ、こんにちは、えっと、私は今日からこの孤児院の出資者になりました、タナカと申します」



 タナカというらしいその男は、へこへこと子供の自分達に向かって頭を下げている。

 昼間も思ったことであるけれど、この男は顔立ちだけでなく態度も妙だった。



「あー、みなさんは手先が器用ということで、よろしいんですかね」



 若干数名が頷く。



「ああ! その前に自己紹介が普通ですね。すみません。えっと私はタナカと申します。あの皆さんの自己紹介もよろしくお願いします……えっと、あ、あなた先ほどお会いしましたね」



 タナカがエマを見て言った。



「……エマです。よろしくお願いします」



 エマはそう言って頭を下げた。

 それから一人ひとり、自己紹介をしてゆく。最後に俺の番がやってきた。



「……リュウです」

「はい。皆さんありがとうございます」



 タナカはそう言ってパチパチと手を叩いた。

 全員、胡乱な目でタナカのことを見ていた。



「……えっとですね、皆さんにはね。明日からある仕事をしてもらいたいんです。いや、難しい仕事じゃないですよ。本当に。それに孤児院の他の仲間達にも手伝ってもらっても全然いいです。なにもここにいる人達だけでやらなくても、全然いいです、はい……」



 何やらよく分からない弁明をしながら、仕事とやらについて話すタナカ。

 ようするに、明日やってほしい簡単な仕事を持ってくるから、それを自分たちに協力してやってほしいということらしい。



「以上で何か質問はありますか?」



 タナカが尋ねた。

 数秒の沈黙の後、一人が尋ねた。



「あの、その仕事をすれば食べ物をもらえるんですか?」

「ああ! そうですね。それを言い忘れてました。えっと……、私は孤児院の出資者であって、経営者ではないのでよく分かりません。その辺は先ほどまでここにいた、あの女性にきいて下さい」



 なんだそれは。

 俺は思わず声をあげそうになった。

 しかしタナカの言葉には、まだ続きがあった。



「……でも、とりあえず、食事は今までよりもう少しましなのが出るかなと思います。皆さんちょっとやせ過ぎなので、なるべく食べてください。とりあえず今晩は夕食を持ってきてくれるそうですよ」



 驚きで声が出なかった。信じられない。

 それは他の奴らも同じで、がやがやと騒ぎだした。



「あ、あの!」



エマが手を挙げた。



「はい、えーっと……」

「エマです」

「エマさん。すみません。何でしょうか」

「本当に食事を貰えるんですか?」

「? 質問の意味がいまいちよくわかりませんが、出資者なので代金は払いましたよ。……繰り返しますけれど、これ以上の細かいことは分からないので、詳しいことは先ほどいた女性、マヤさんにきいて下さい。すみません」

「そ、その食事って何人分でしょうか?」

「ああ、それは、孤児って何人いるんでしょうか? でも、たぶん孤児全員のぶんはあると思いますよ」



 ざわつきが大きくなる。



「マヤさんが食事を持ってきてくれるらしいので、孤児院のみんなには皆さんのほうから伝えておいてください。他に何か私に尋ねたいことはありますか?」



 誰も何も言わなかった。



「それでは、私は今日は帰ります。走って疲れたので。マヤさんが来たら私は帰ったことを伝えておいてください」



 そう言ってタナカは、部屋を出て言った。



 部屋の中で誰もが互いの顔を見合わせていた。本当に信じてよいのか、誰も分からなかった。

 俺たちは小屋を出て、孤児院に戻った。

 あっと言う間に、小屋での出来事のうわさは孤児院中に広がった。誰もが浮き足だし、孤児院を飛び出して今か今かと来るかもわからない希望を待っていた。



 そして商人が昔のように魔亀車を引いて門からやってきた時、敷地中に歓声が沸いた。

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