第二章 真実 ―The truth―
第二章 真実 ―The truth―
目を開けたそこは清潔そうな部屋だった。
清潔な壁。
清潔な床。
清潔な寝具。
何もかもが清潔で、おもしろみが無かった。
もちろん、こんな部屋を見たことがあるわけが無い。
「・・・拉致か?」
その可能性が高い。
「ん?そういえば、これって拉致か?それとも誘拐なのか?」
彼は素早く布団から出た。
「どっちみち、無人で監禁はしないだろうからな。
誘拐したやつに聞いてみるか」
扉は造作も無く開けられ、廊下には複数の扉と奥に別な扉があっ
「俺がいた部屋と同じ扉が何個もあるってことは、こいつは多分
彼は反対にあったその扉をニ、三回叩いた。
「・・・・・・」
応答が無い。
今度はその右隣の扉を叩く。
「・・・・・・」
応答が無い。
今度はその反対側の扉を叩く。
「・・・・・・」
応答が無い。
今度はその左隣の扉を叩く。
「・・・・・・」
応答が無い。
「三部屋も叩いて返事が返って来ないって事は、どう考えてもそこの扉が怪しいってことだよな?」
彼は廊下の端の扉を叩いた。
「・・・・・・」
応答が無い。もう一度叩く。
「・・・・・・」
強めに叩く。
「・・・・・・」
連続で叩く。
「・・・・・・」
殴る。
「・・・・・・」
蹴る。
「・・・出て来い!」
「勝手に入れー」
彼の気分とは正反対の半分間抜けな声が返ってきた。
彼は扉を蹴り破った。
扉が床に倒れる。
「おいおい、何やってんだよ。修理代払えよな」
ちょうど彼の父ぐらいの年齢をした人物が彼を見ずに言った。
「キレさせたおっさんが悪いんだろうーが」
「これだから近頃の若者は・・・・・・
若者よ、広い心を抱け」
外見からは不似合いすぎる返答が返ってきた。
「それより、拉致と誘拐の違いって何だ?」
彼は一息ついてから言った。
「拉致は、その人物自体に意味があってどこかに監禁することで、
誘拐は、その人物を利用して何かをするために監禁する事じゃないのか?
ま、そこのコンピューターで調べてみろ。回線ならつながっている。
アナログだけどな」
「コンピューターかよ。パソコンじゃねえの?」
「そんなもの、ニラレバとレバニラみたいなもんさ。大して差が無い」
「同じじゃねえのかよ」
「馬鹿者。ニラレバはニラが主体で、レバニラはレバーが主体だろ」
「ニラばっかりのニラレバなんて食いたくねえよ。
第一、どっちも嫌いだ」
「この世にはずいぶんと不幸な人間がいたもんだなぁ!
レバニラをまずい、と?ニラレバをまずい、と?
お前今すぐそこの回線切って首吊って死ね。
実家に帰れ。いや、土に還れ」
よほどニラレバとレバニラに情熱を燃やしている人物らしい。
「・・・・・・
いや、実家っていうか、そもそもなんで俺を拉致したんだ?」
「その前に拉致と誘拐の区別をはっきりつける必要があるんじゃないのか?少年」
「まあ、その通りだな」
彼は比較的慣れた手つきで辞典を検索する。
「ほう、やはり若者は適応能力が高いな。
まあ、それだからMWFUWを乗りこなせたわけだがな」
話に答えながらも目は画面に釘付けになっている。
「MWFUW?そういえば起動する時にそんなことを言っていたような気がする・・・・・・って、
おっさん、あれに関係あるのかよ!」
「もちろんだ。
じゃあなんで、中学の成績がオール三のごく普通のやつを拉致する必要がある。
呼ぶとしたらオール四か五ってとこだろ?」
「なんで成績を・・・・・・」
「お前のデータベースから調べさせてもらった」
「おっさん、ハッカーか?」
コーヒーを注ぎに彼は立ち上がった。
「そんな事を国家研究員がやっててたまるか」
「おっさん、国家研究員かよ!」
コーヒー豆を挽く音が聞こえる。
「その通り。じゃなければ戦闘兵器の開発なんて出来るわけないだろ?
金持ちでも無いのに」
「ところで、MWFUWって何の略だよ」
「Manned Weapon For Unmanned Weapon」
「で、意味は?」
「対無人兵器用有人兵器」
「わかりやすく言うと?」
「十分わかりやすいだろ」
「・・・確かに」
「わかるなら言うなよ」
彼は豆を挽き終わり、挽いた豆をフィルターに移し替えていた。
「コーヒーになにかこだわりでもあるのか?」
「この歳で緑茶を貧相にすするのも格好がつかないし、
これしかないからどうせなら・・・という理由だ。
そろそろ検索できただろ?」
「ああ、拉致は無理矢理人を連れて行くこと、誘拐は人を騙して連れて行くこと。だとさ」
「ほらな、俺ので良かったろ?」
「いや、多分違う」
彼は挽いた豆の上から熱湯を注ぎいれていた。
「おい、少年どこへいく」
彼は立ち上がって扉があった部屋と廊下の境界線に立っていた。
「用が済んだらとっとと帰る。これ鉄則」
彼は部屋に着くなり布団に横になった。
そして深く瞬きをした。
「とにかく、要約すると俺が乗ってたのはあのおっさんが作った対無人兵器用有人兵器・・・だったか?で、
辞典によると俺は拉致されたって訳か。
そもそも、何で拉致するんだ?
それにあんなものをあんなところに置いとく意味がわからねえ」
彼はゆっくりと横を向いた。
「とりあえず、とんでもないことになってきた・・・のか?
って、もう十二時前かよ。さっさと寝るか」