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プロローグ・1――エレノア、乗る――

今まで投稿されていたアンブレイカブルエンハンサーズと同じ世界を舞台にしていますが、知らなくても楽しめます。(エンハンサーズの方は諸事情により、削除中です。早くて六月以降に一気に投稿します)

 景色が前から後ろに吹っ飛んでいくのが分かる。耳をつんざくような駆動音と風を切る音が奏でる二重奏は彼女の耳に多大なストレスを与えては集中力を殺いでいく。

 シミュレーションでしか行ったことのない作業――目の前にひろがっている数多くの色とりどりのボタンと三つのレバーを手順に従って押しては引いていく。

「どうしてこうなったんだか……」


 二〇分前――


 ニューヨーク行き国際便に乗っていた彼女は人生二回目の飛行機を堪能していた。

 座席に備え付けられている液晶パネルから、真下に広がる青い海を映し出した。耳には音楽プレイヤーを聴くためのヘッドホンを当て、パネルをズームする。深海探査機とリンクして、一面が青色に染まった世界を映し出す。水晶が煌びやかな光を放つ世界が彼女の目を輝かせた。

 長いにも程がある旅の途上、楽しみといえばこれか、あるいは見飽きたアクション映画を見るしかない。後者は今となっては論外だが、この目に映る世界は日を置いて見ることにこそ意味があるものだ。まるで日によって模様が変わる万華鏡のように、変化している。

 人が生まれては死んでいくように。海の世界にも同じ事が起こっているのだ。

 魚の群れが彼方に泳いでいく姿を見届けてから、彼女は座席に背を預けた。音楽を点けっぱなしにして目を閉じよう。

 そう思った――矢先のことであった。

 運転席の方から、数発の銃声が鳴った。流れるような動きでヘッドホンを取り、シートベルトを外そうとした――時間を取られている間に、運転席と後部から武装した男女が突入してきた。

座席を埋め尽くす乗客らは何が起こっているのかを瞬時に理解したが、どうしようもできない事実を前に石像のように固まることしかできなかった。

 彼女を除いては。不快な舌打ちを聴いたハイジャック犯の男が彼女の額に銃口を突きつけた。

「動くなよ。安心しろ。抵抗しなければ――」

 男が最後まで言葉を紡ぐことはなかった。顎を掠めた拳に意識を完全に途絶し、膝を折って倒れ込んだ。揺れた機内を後ろに向かって転がって、座席の一つにぶつかった。

「お、おい――」

 既にシートベルトを外していた彼女はすかさず行動を開始した。弾かれたように座席から飛び出し、駆けてきたもう一人の向けている銃口の火線から身を逸らし、腹部に掌底を突き出した。

「おぐぅ」

 くぐもった声を漏らす男の首根っこを力尽くで掴み、すかさず身を翻す。前方にいる二人に向かって突撃を敢行する。倒した男を盾の代わりにして距離をある程度稼いだら盾を蹴って、二人の立ち位置を揺るがす。

「うわっ――」

 揺れ続ける機内で体を揺らさずに立ち続けるのは不可能に近い。足元に倒れ込んできた仲間に向かって発砲する度胸や冷徹さはなかったのが幸いし、彼女は間隙を狙って、勢いに任せて距離をつめると初撃と同じように最低限の動きで相手の頭を拳で打ち抜き、意識を喪失させた。

 どうしてハイジャックなんて真似をやらかしたのか――後部に引きずって問いただそうとした時、運転席側からまたしても銃声が響いた。途端、飛行機が右に向かって大きく傾き、思わず倒れそうになるところを座席に掴まってなんとか耐えた。

 乗客の阿鼻叫喚を聴きながら彼女は運転席に向かった。扉を開けた先には、血で染まったコンソールと操縦席に座っている機長の――死体があった。

「ちょっと、どういうことよ?」

 最悪の事態だ。運転をしているはずの機長がどういうわけか死んでいる。

 つまり、この飛行機は誰も動かしていない状態になっているということだ。手には銃器が握られ、運転席の後ろには座席にいた男女らが所持していた銃器を入れていたらしいケースが置かれていた。今はどうでもいいことだ。彼女は携帯端末を取り出すと、操縦席に記されている番号に通信を送った。すぐに端末から映像が投影される。

『はい。こちらニューヨーク国際空港、管制局』

 起こった事態を克明に、簡潔に伝えると映像の向こうが用意していたかのように怒鳴り声と悲鳴に包まれた。

『了解しました。では、乗客を全員後部に集めてください。緊急用の脱出ユニットがあります』

「取り付ける方法は?」

『安心してください。ユニットは互いを結び、飛び降りるだけでいいです。あとはユニットが自動的に起動し、安全に落下していきますから』

「安全に落下って……」

 意味がわからないが、そうするしかないらしい。だが。

『ですが、今のままでも危険です』

「予定航路を大きく超過するか、あるいは墜落する危険があるということですね」

『その通りです。何とか、全員が脱出するまで機体を安定させる必要があります』

「自動操縦機能は?」

『残念ながら、操作を受け付けてくれません』

 コンソールを見やり、パネルの一つが割れているのが見えた。

「壊されてるみたいね。操作方法の説明を。やるなら、やるしかないわ」

『ところで、あなたのお名前は?』

「エレノア・黎といいます。明日、NYPDに配属されることになっています。もう時間がないわ」

『了解しました。では、最初に機内に放送をお願いします』

 指示を受けて、エレノアは機長の耳からマイク付きイヤホンを剥ぎ取った。

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