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少女龍と黒髪少女  作者: 久吉
日常話
9/26

八話

ちなみ今更ですが話は時系列通りではないです。今更ですが。

 


「ではここは……」


 今日もお嬢様は会議だ。勿論、人間に対するものである。


 といっても人間と魔物の戦いは依然として魔物が優勢であり、魔物側にとってはどれだけ被害を出さないかが主になっているけれども。


 お嬢様や他の魔物達が話し合う中、扉がいきなり開かれる。



「やっほー! 久しぶり!」


 突然の来訪者。それは本来ここにいるはずのないものだ。お嬢様ことアグニとは違ったクルクルとした青いくせ毛。そして同じような身長に体格。



「やっほーじゃない、テティス。なんでやってきたのよ」

「いや、挨拶にね。久しぶり!」

「はぁ……今は会議中なの。後でね」

「ちょっと! そんなぞんざいに扱わなくても!!」

「はいはい」

「ちょっとシエルも何か言ってやってよ~」


 放っておかれたテティスさんは拗ねて私の所へとやってくる。



「大丈夫ですよ、お嬢様はちゃんと会議が終わったら構ってくれますよ」

「うえーん、私に構ってくれるのはシエルだけだよぉ~! もう私の所に来ない?」


 抱き付いてくるテティスさん。



「すいません。私はお嬢様に忠誠を誓っていますので」


 お嬢様と違った可愛らしさがあるけれどもテティスさんの所へ仕える訳にはいかない。

 私はお嬢様のメイドなのだ。



「むー」


 不満げに口をとがらせるテティスさんを抱きかかえながらお嬢様の会議が終わるのを隅っこで二人で待つのであった。





 会議が終わった後お嬢様の部屋で私とお嬢様、そしてテティスさんの三人で集まる。



「で、何で来たのよ」

「ひどいなぁ、用がないと来たらだめなの?」


 お嬢様の厳しい口調の質問にもテティスさんはぬけぬけと全く気にしていない様子で返す。これももう、いつも通りのやりとりだ。



「貴方の場合はそう言う問題じゃないでしょうが!!」


 最もお嬢様が怒るのも無理はない。


 今こうやって普通の少女のように、はしゃいでいるテティスさんは四龍の内の一柱、水龍なのであるから。


 人間からしては魔物の中にいる頂点の一つだ。そんなテティスさんが事前に連絡もなしに突然来られてはお嬢様も怒鳴りたくなるものだろう。



「はぁ……一体どうやってきたの?」


 お嬢様、アグニ様が治める場所とテティスさんが治める場所はちょっと、と言うには遠すぎるほど離れている。四龍の中でも一番遠いのだ。


 龍になって飛んで来たらあっという間だろうけどテティスさんはそう言うわけにもいかない。テティスさんは自分の姿を隠すことはできない。お嬢様や東や西にいる風龍エウロスさんや地龍レアさんはそういうことができるのだけれども。


 ここに来るまでも人間の町がいくつもある。それで騒ぎになっていないという事は龍の姿でやって来たのではないのだろう。



「まあ、人間に化けてちょろっとね」


 悪びれずもせずにテティスさんはさらっと言った。どうやら本来敵である人間に紛れてやって来たようだ。それも人間の交通手段を利用してやって来たようだから笑えない。



「あのねぇ、万が一ばれたらどうするつもりなの」

「その時はその時だよ。皆殺しにすればいいじゃん」


 平気な顔して物騒なことを言う。でも確かにテティスさんにはそう言えるだけの強さがある。


 ただ、そんな軽く言われても私とお嬢様は苦笑するだけだ。



「はぁ、なんにせよ来るときは言ってくれないと。こっちのも準備があるんだから」

「はいはーい」


 相も変わらず気軽な返事。反省していないことは明らかであり、これは次も期待できそうになかった。



「そういえばアキレスは? 来ているんでしょう」


 お嬢様の言葉にテティスさんは顔をそらす。アキレスさんは私やグラウディアさんと同じようにテティスさんに仕えている方だ。私も何度か会ったことがあるけれども横着で適当なテティスさんとは違い、真面目で堅実だ。

 恐らく今回もアキレスさんから逃げ出すようにしてここにきたのだろう。


 という事は明日にもアキレスさんがテティスさんを捕まえにここに来ることは間違いなかった。


 それが分かり、お嬢様も再び深いため息をつく。



「お願いっ! アキレスがやってくるまでは明日までは見逃して!」

「仕方ないわね……」


 本来なら首根っこ捕まえて今すぐに帰らせるのが正しいのだろうけれどもお嬢様も実は結構甘い、というか優しいのでそう言ったことをすることは無い。


 なんだかんだ口では色々と言いながらもテティスさんの事を気に入っているのだ。


 ずっと昔からの付き合い、それこそ私が生まれる前からの。そんな二人は気の置けない友人みたいなものである。それが私には少し羨ましかった。



「どうかしたか?」


 そんな私の様子に気付いてか、お嬢様が私へと声をかける。



「いいえ、なんでもありません」


 それに私は笑顔で応じた。




 ・・・・・・・・・・




「えへへー、シエル柔らかい~」

「ちょ、テティスさんっ! そこはっ!」

「いいじゃんか、今晩だけなんだしっ!」


 夜、私はテティスさんと一緒に客室へといた。今日はここでテティスさんと眠ることになったのだ。


 本来であればお嬢様と一緒に眠るのだけれども、どうしてもとテティスさんがせがみこのようなことになっている。


 まあ、テティスさんがいるのは今日だけだろうし、仕方がないと根負けした私とお嬢様だった。



「で、最近はどうなの?」


 にやけながらテティスさんは聞いてくる。まるで悪戯をする前の少年のようなワクワクとした顔。私は質問の意図が分からずに首を傾げる。



「またまた、とぼけちゃって。夜の事よ」


 意味を理解し私の顔は朱へと染まる。



「そ、そういうことはっ!!」


 慌てて否定するもテティスさんの笑みは深くなるばかりだ。


 確かに私はお嬢様を愛しているけれども私はお嬢様のメイドなのであり、主人とそう言ったことを望むのは不敬な事だ。


 そして、私は人間だ。人間と魔物が結ばれることなど……


 そんな私の考えは見通されているようだ。



「いいじゃん、主人とメイドでも。たとえ人間と魔物でも。私達の祖先も人間と子供を作ったそうだし。そのお陰で私達も人に近い姿を取ることが多いみたいだしね」


 初めて聞いた。驚きだった。でもそれも普通の事ではないんだろう。


 それに他にも問題はある。



「女同士ですし」

「龍に性別はあってないようなものだよ?」


 それは知っている。龍には性別というものがない。長きにわたり生きる種族であり、個体数も少ない。そのため気に入った番と子を残すためにもどちらにでもなれるという話を前に聞いた。



「でもお嬢様やテティスさんは女性の姿を取っているじゃないですか」

「こっちの姿のが気に入ってるからね。でも、シエルならアグニをその気にできるって!」


 そうだといいのだけれども……って、段々テティスさんに乗せられているような気がしてきた。


 それからもテティスさんと色々な事を話す。昔からお嬢様の事を知っているテティスさんと話は尽きなかった。


 けれどこう話していると私のとある不安は強くなる。



 本当に私がお嬢様の傍にいていいのだろうかと言う不安。


 私は人間だ。当たり前だけれどもお嬢様と私と寿命は違う。


 龍、そして魔物であるお嬢様の傍にはテティスさんやグラウディアさんだけでいいのではないかと思う。


 果たして私が本当にいる必要はあるのだろうかと。そんな私の不安に気付いたのかどうかは分からない。


 ただ、話の途切れ目にテティスさんはぽつりと呟くように言った。



「アグニはさ、シエルがやってきてから本当に楽しそうだよ」

「そうですか?」


 それが本当であるのならば私にこれ以上の喜びはないのだけれども。



「うん、シエルは知らないだろうけどさ。昔のアグニはもっと殺伐としていたからね」

「今も殺伐としていると思いますが」

「いや、なんていうんだろうね。余裕がないというか……隙を見せないとでも言うのかな」


 私にはよく分からなかった。果たして私がいる程度でお嬢様は変わるのだろうか。



「とにかくね、アグニにとってもシエルがいた方がいいんだよ」

「そうでしょうか……」

「私が、シエルを誘った時も不安そうな顔をしていたよ? 居なくなってしまわないかってね。この私が言うんだから間違いないって。だからもっと自信を持ちなよ。それにシエルはアグニと一緒にいたいんでしょ?」

「はい! それは勿論……」

「じゃあいればいいじゃんか。アグニもそれを望んでいるんだからさ」


 テティスさんが言うのならばもっと自信を持っていいのかもしれない。お嬢様が私を必要としているという事を。



「まぁ、もし何かあったら私の所においでよ。いつでも歓迎だよ?」

「私はお嬢様のメイドですから」


 きっとそんな時は来ないだろう。

 その時は私はこの世界にはもういないに違いない。



「ありがとうございます、テティスさん」

「元気がでたようでよかったよ。ふふふ、その分楽しませてもらうからね。覚悟してね」


 にんやりと笑うテティスさんのわきわきと動く両手。テティスさんのお陰で悩みが薄れたことだし、それぐらいは許容しようと思う。


 結局、朝方まで弄ばれたことは言うまでもなかった。


 決して浮気ではないですよ?


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