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少女龍と黒髪少女  作者: 久吉
日常話
3/26

二話

迷走中

 

 空を飛び、翔けて行く。隣で飛ぶのはディアだ。今日は粘液族(スライム)達の救援である。本来なら私が出向く事などないのだが、他に出れる魔物もおらず今回は特別にだ。最近向かっていないこともあって、視察も兼ねているのだが。

 


 人間と粘液族スライム達が争っている様子見える。私の配下の中でも粘液族(スライム)はなかなかに上位の魔物だ。物理的な攻撃はほとんど効かない上に魔法までも取り込む。それに加え、相手をあっという間に取り込んでしまう吸収力。その粘液族(スライム)が苦戦していると言うのだ。


 何かあったのだろう。


 下を見ると粘液族(スライム)の前には大きな土の壁が出来ていた。その壁に阻まれ、粘液族は(スライム)は進むことが出来ないようである。その後ろから絶え間なく魔法を打ち続ける人間達。

 いくら粘液族(スライム)とはいえ、永遠に魔法を耐えれるわけでもない。段々と倒れていく粘液族(スライム)達。ふむ、少し手助けをするか。


 口を大きく開き、一発だけ炎弾を放つ。その炎弾は土壁にあたり、周りに土屑を飛び散らしながら弾ける。崩れた土壁へとなだれ込む。思いもがけない攻撃に人間達は驚き、慌てている。


 うむ、これで少しは優勢になるであろう。私は先にここの本拠地へと向かった。



「この度は私達が至らないばかりに……わざわざアグニ様にこのような所まで来ていただき本当に申し訳ありません」

 粘液族(スライム)の長である人型(と言っても人の形を取っているに過ぎないのだが)が頭を下げる。

「お前達にならば大丈夫と思ったのだがな。一体何があったのだ」



 まあ、先程の様子を見て大体想像はつくのだが。



「アグニ様もご存知の通り、私達は大抵のものなら何でも溶かします。けれど人間共の新しい魔法であるあの土壁は私達に溶かす事は出来ず……」

「つまりあの土壁さえどうにかすればいいのだな」

「はいっ! 本来なら私達が何とかしなければならないのですが……」

「気にするな。どんな魔物にも得手不得手はあるさ」



 軽く励ましてやる。何にせよ動くのは明日からだ。今日はもう日も暮れている。人間達も一旦引くことは間違いない。


 私は砦を周り、粘液族(スライム)達に軽く挨拶をしておく。それからは特にする事もなく、用意された部屋へと向かうだけであった。



「シエル、お茶をお願い……」


 言った後で気づく。今シエルはいないんだった。


「私でよければお入れしますが」



 すかさず隣から声をかけるディア。その顔は笑っているように見えた。


「あ、ああ。頼む」


 いつの間にここまでシエルが居るのが普通になってしまったのだろうか。拾ってからずっと私と一緒にいるシエル。昔は面白い人間、程度の扱いだったのにいつの間にか傍に居ないと不安を覚えるようになってしまった。私は……一人の人

 間に左右されるほ弱くなってしまったのだろうか。


「決して悪い事ではないと思いますよ?」



 私の前に紅茶を差し出しながらそう言うディア。何を悩んでいるかはお見通しのようだ。



「炎龍たる私がこんな事で悩むとはな」

「お嬢様ですもの」



 訳の分からない受け答えをする。


 私だからなんだと言うのだ。



「早く終わらせて帰りましょう。シエルもお嬢様の帰りを待っていますよ」

「そうだな……」



 何にせよシエルに早く会いたいという事には変わりない。そのためにも人間共を蹴散らして屋敷へと戻るとしよう。



 次の日、明らかに人間の数は増えていた。


 これは……



「恐らく私達が出てきたからでしょうね」



 龍である私が出てきたことでどうやら相手が増えてしまったようである。私達龍は人間にとって一番警戒するものだ。


 そもそも私達が前に出ることなどほとんど無いが、人間にとっては私達四龍の首を取ったら勝ちのようなものなのである。なぜ、そんな龍の一柱である私が出てきたかって?


 そんなことは決まっている。万が一にも負ける事がないからだ。それほどまでに人間と龍、魔物との力の差は歴然なのだ。


 仮にも『勇者』と呼ばれた者なら龍にも匹敵するかもしれないが……今の所人間側に『勇者』は現れない。所詮は伝説のようなものだ。本当にいたかも疑わしいものだ。


 まあ、万が一にも負けることがないとはいえ私もなるべくなら出ないようにしているのだが……今回は特別だった。

 たまにこのようなこともある。そして、いつものように人間共は龍である私の出現に浮きだっていた。



「さて、愚かな人間共に現実を見せてやるとしようではないか」



 私は砦を飛び立つ。頭にあるのは早くシエルの元へと帰ることであった。





 ――結果は圧勝だった。


 殲滅するまでには至らなかったものの、ほぼ壊滅したと言っていいだろう。再びここを襲うには時間がかかるはずだ。私の仕事も終わりである。



「ありがとうございました。この度はアグニ様のお陰で……」



 粘液族スライムが長々と挨拶をしているが私の頭には届いていない。まだ、シエルは起きているだろうか。もう日も暮れかけている。このまま今から帰ると屋敷へ着くのは深夜になるに間違いなかった。



「アグニ様? どうさまれましたか」



 返事をしない私に疑問を抱いたのか、粘液族スライムが首を傾げる。


 それに誤魔化すように受け答える。



「いやなに、少し疲れたようだ」

「そうでしたか、では部屋の方へ……」



 粘液族スライムの言葉を遮る。



「いや、今日は泊まらずに屋敷に帰るとしよう」


 早く私は帰りたいのだ。粘液族(スライム)は何かを口にしようとして止めた。恐らく引き留めようとしたのだろう。自分たちの頂点である龍が来て、喜んでいたようであるしな。だが、私は屋敷へと戻り、シエルに会いたいのだ。



 それから粘液族(スライム)達の見送りを受け、私とディアは飛び立つ。来る時とは違い、全力で飛んでいる。後ろからついてくるディアは少し辛そうであったがお構いなしだ。


 しかし、シエルはやはり寝ているだろうか。帰るのは二日後と言ったから予定では明日だった。



「お嬢様、急がなくてもシエルは逃げませんよ」

「し、しかし寝てしまっているかもしれないではないか!!」



 別に寝てしまっていてもいいのだが、帰った時出迎えがないのは少し寂しいものがある。いや、それならば朝起きた時に驚かせてやればいいか。朝、起きた時に私が横にいることに気付き驚く様子を想像する。


 うむ、見事に抱き付いてくる様子しか想像できない。



「大丈夫ですよ、きっとお嬢様のお帰りをお待ちしています。シエルも立派にお嬢様のメイドとして成長していますから」

「成長しているのは関係ないのと思うのだが……」



 確信に満ちた顔、間違いないとディアは断言する。


 そうであるといいのだが。





 屋敷が見えてくる。


 ちらちらと見える明かり。この時間に起きている者は見張りぐらいであろう。



「お帰りなさいませ、アグニ様」

「うむ、ありがとう」



 門を見張るものから出迎えを受ける。その中にシエルの姿はなかった。朝ならば大抵ここで私を待っているのだが……やはり寝ているのだろう。


 私が少しの落胆を感じ、部屋に向かおうとした直後だった。



「お帰りなさい、お嬢様!」



 ぱたぱたと駆けつけてくる見慣れた艶やかな黒髪に白を基調とした、沢山のフリルがついたメイド服。


 勢いよくやってき、私へと飛びかかる。私はそのか細い柔らかな体を受け止める。



「起きていたのか、明日だと伝えていたと思うが」

「えへへへ、何となくお嬢様が帰ってくるような気がしまして」



 なんという直感であろうか。



「寝ていてよかったのだぞ?」

「お嬢様がお帰りになるのを出迎えない訳にはいきません!」



 自慢げに胸をはるシエルに苦笑する。どうしてここまで私に懐いたのであろうか。


 本当に面白い人間を拾ったものだ。



「ほら、私の言った通りだったでしょう?」



 にこやかに微笑む。ああ、そうだな。


 私は先ほどのディアの言葉に頷くしかなかった。ディアの言う通りシエルは立派に私のメイドとして成長しているみたいだった。

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