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『薪割り』ツアールの誕生

 次の日の朝、ロッテは俺を浜辺の散歩に連れて行きたがっていたが、見張りがいないと外には出られないし、朝からシャールテさんに頼むわけにもいかないという事で、一人で行ってもらった。


 ロッテが帰ってくるよりも早くに、マサグアさんが訪ねてきた。


「おはようございます、早速ですが今日から仕事があります」

「はい、何をすれば良いのでしょう?」

「暫くは単純だが力が要り、移動幅が狭く見張りをしやすいという点から、薪割りの担当です」


 マサグアさんの言葉遣いや態度は丁寧だが、表情は緩んでいない。いかにも仕事人といった感じで、この人なら俺がやることをしていればキチンと報告してくれるという安心感があった。


「ここが薪割り場です、あそこにあるように、ある程度割ったら束にして紐で巻きます」

「わかりました」


 薪用の丸太は全部が同じ太さというわけではないので、ただ置いてスコーンと割るという訳にはいかない。太い丸太は割りやすい大きさにしていく必要がある。なのでまずは太い丸太から取り掛かって行くとしよう。あとは斧を振り下ろして割っていくだけにしたほうが効率がいいはずだ。


「それっ!」 バキッ!

「ほいっ!」 バキッ!

「そりゃ!」 バキッ!


 テキトーな掛け声で斧を振り下ろしていく。斧を持ち上げ、真っ直ぐ振り下ろす。

この動作は以前にもやっていたのだろうか、しっくり来る感触があった。


「よし、太い丸太はこれで終ったな」


 太い丸太攻略が終るまでに結構時間がかかってしまったかな? どれくらいのペースが出来ていると認められるのかわからないので若干焦りが出てきた。チラッとマサグアさんを伺うと妙な表情になっていた。これはまずいのかもしれない、急ごう!


「フンッ!」 ガコッ!

「フンッ!」 ガコッ!

「フンッ!」 ガコッ!

「フンッ!」 ガコッ!

「フンッ!」 ガコッ!

「フンッ!」 ガコッ!

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・


 気が付けば随分時間が経っていたようだ。


「調子はどうー?」そう言ってロッテが駆け寄ってきた。

「ん、この薪をしばる紐が足りなくなりそうなんだ、どこで貰えるのかな?」

 そう言ってロッテを見ると、目を丸めて口をあけた状態になっている。


「どうしたの?」

「こ、これツアールが全部やったの?」

「そうだよ、で紐がね…」

「うわー、すごーい! ね、凄いよね? マサグアさん?」

 ロッテはまったく話を聞いてくれていなかった…って凄い?


「ええ、正直驚きました。こんなペースで薪を割り続けられる力と体力、斧を振り下ろす正確さ。今まで見たことがありません」

 …そうなの? あの表情は遅いからじゃなかったんだ、よかったー。


「すごーい! ツアールは薪割りの才能があるんだね!」

 ロッテは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている。

「それはよかった、と言うべきかな?」

 薪割りの才能って…俺の前の仕事は薪割り職人だったのかもしれないな。そんな仕事があればだけど。


(ぐ~~~~~~)


「そうだった、お昼出来たから呼びに来たんだった」


 お腹が盛大に鳴り、ロッテはここに来た理由を思い出したようだった。


「休憩に行ってもいいですか?」

「ええ、勿論です2時頃にまた迎えにいきますので準備しておいてください」

「わかりました」


 昼食が終ると、ロッテがシャールテさん相手に、凄い勢いで話し始めた。要は沢山薪が割れたという話なのだが、何やら凄いことをしたみたいな扱いで気恥ずかしい。


「それでね! ツアールが薪をね…」

「あらあら、それは凄いわねぇ」


「まあ何にせよ、役に立つことが見つかって良かったです」

「ツアールさんはきっと、もっと色々と任されるようになると思うわ」

「そうでしょうか、今は出来ることをやるだけです」

「ツアールなら大丈夫だよ、凄いんだよー」


 ロッテは上機嫌のようでなによりだ。そんな風に時間がすぎて行き、マサグアさんが迎えに来た。


「こんにちは、本日は午後も薪を割ることになります。予定以上のペースで進んでいるので、別のことでも良かったのですが想定していなかったため、仕事を教える人材を確保していなかったのです」マサグアさんは相変わらず丁寧だ。

「了解です、問題ありません」

 そういって、その日は薪をひたすら割り続けたのであった。


 翌日の仕事は木を切る仕事の手伝をすると言われて、マサグアさんについて行った。

「お前が『薪割り』ツアールか、俺は森仕事担当のロットンだ」

 ロットンさんはドワーフ系かな? 小さめな体格だが太い腕、赤みががった茶色の髪に同じ色をした立派な顎鬚。それにしても『薪割り』ツアールって何? いつの間にそんな二つ名ついてるの?


「…ツアールです、よろしくお願いします」

「その、薪割りって?」

「あ? 昨日ロッテ嬢ちゃんが、お前の薪割りがいかに凄いか村中に言って回ってたからなあ、皆に知れ渡ってるぞ」

 シャールテさんに話している様子で、想像しとくべきだった。ロッテ…恐ろしい子。


「それでだ『薪割り』の、まず森には他の種族が住んでいるという事を覚えておく必要がある」

 ロットンさんは茫然としている俺にお構いなく話を進めていく。


「この森には割りと近くにクィールが住んでいる。長毛種だから穏やかな連中だがよ、やっぱり怒らせると怖いぞ、というより死ぬ」

「長毛種? クィールについては聞いたのですがその中にも種族がいるんですか?」

「なんだ知らねえのか? そういや記憶が無いとか言ってたっけ」

 ロットンさんはちょっと面倒くさそうな顔をしたが、丁寧に説明をしてくれた。


 クィール族には、短尾種、長尾種、長毛種がいて、短尾種は小柄で隠密行動に優れる。

長尾種は中~大柄で三種族の中で最も戦闘能力が高く、好戦的なので注意が必要。長毛種は大柄で穏やかな性格なものが多く、人族の街にも出かけたりなど社交性も高い。ハーフに偏見なく接してくれるので、森での交易相手としてありがたい存在なので、絶対に怒らせるようなことをしてはいけない。


 クィールが怒るのは森の破壊活動だ。ゴミを巻き散らかしたり、火を放つ、生き物を無駄に殺して回ったり、過剰な木の伐採といった具合。直接的には尻尾を許可無く触ったりするとダメらしい。


「あと森に住むのはエルフだな」


 エルフは全員がシャールテさんみたいに親切にしてくれるというわけでは無く、寧ろ他の種族には無関心な者が多い。エルフの里は普通には辿り着けないのでロットンさんも場所は知らない。そういうわけでエルフに関してはクィールほど気をつけなくても大丈夫だろうとの事。


「今日は間伐をする、残すべき木を決めて、森の掃除をする感じだな。これは森の管理につながるから、クィールも怒ったりはしない」

「そして間伐で得た木材は、お前さんの得意な薪に使われるというわけだ」

「なるほど」


「まあ、森での仕事は他にも猟だったり、薬草の採集だったりと色々ある。男は力の要る仕事をまず覚える」

「わかりました、よろしくお願いします」


 色々覚えて村の皆に認めて貰えるように成らないと、ロッテやシャールテさんにも悪い影響を及ぼしかねない。


「ふむ、マサグアが言っていたとおり。人間にしちゃ嫌なやつじゃねえようだな」


 ロットンさんは、目を細めてそう言った。


 何日かすると森仕事の担当ロットンさんが見張りも兼ねることになり、マサグアさんは付いてこなくなった。少しは信用されたのかな? こうしてアスポート村での最初の一月はロットンさんに森の事を色々教えてもらいながら仕事を覚えるという形で過ぎていったのだった。

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