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2話


「うわぁっ……」


神様を名乗る変な人の一声によって俺は地球から別の場所に飛ばされることになった。

真っ白い空間の中で俺は落ちてるのか飛んでるのか……それとも実はピクリとも動いていないのか。

妙な浮遊感を感じながら、いつ終わるのかわからない空間を彷徨っていた。


「まさか、このままここで……とかそういうのはないよね……」


広がる世界はただひたすら真っ白。

どこかに触れる感触はないし、自分が発する声以外は何も音がない……その声もはたして発しているのか、ただ頭の中で考えているだけなのか……


どれくらい時間が流れただろう。

時間という概念も忘れてしまう程にこの空間は何もない。

だが思考が止まろうとしたその時、視界の隅で薄気味悪いモヤのようなものを捉えた。


大きいのか小さいのか、遠いのか近いのか、感覚がつかめない。

それでも次第に膨れ上がっているのは見てわかった。


「……あれって、いったい……」


もしかして転移先となっている世界の入り口なのだろうか。

ちょっと不気味で嫌だな……

そんなことを考えていたら、いきなりその黒いモヤから禍々しい片腕が飛び出しぎらりと漆黒に光る爪がこちらに襲ってきた。


「へっ!? え!? うわああああっ」


その腕は俺に向かってるというわけではなさそうで、闇雲に辺り一帯を蹴散らすように一閃を繰り出していた。

俺は距離感などつかめる状況ではなかったが必死になってその爪の攻撃から体を反って逃れた。


「……っ!……」


だがわずかに掠ってしまったようで、肩から背中にかけてチクっとした痛みが走る。

そして、また攻撃を仕掛けてくるのではと視線を腕に戻し身構える。


当の腕は2、3度豪快に振り回した後、ピタッとその動きを止めてだらんと脱力してしまった。

まるで人形の糸が切れたみたいにピクリとも動かない。

程なくして、ズルリズルリとモヤの中に腕は引っ張られていった。

誰かあの奥に潜んでいるのだろうか……


「びっくりした……いったいあれって……」


まさか、これから転移する先の世界もあんな薄気味悪いものばかりがいるのだろうか……

そう考えると少し頭が痛い。

ただどこかワクワクしている自分がいることは事実で、この空間での浮遊感もありそわそわしてきた。


そしてようやくといった感じで白い空間に眩しい光が溢れてくる。

次第に目を開けるのも難しいくらいの光に覆い尽くされた。


「これでようや……っ……うわぁああ!!」


明らかに感覚でわかる。

どこかに落ちたんだと。


さっきまでの浮遊感が嘘みたいに今は重力というものを全身で感じている。

視界はまだ慣れていないのか、何も捉えることができず濃いモヤがかかっているように見える。

耳はだいぶ機能を取り戻してきたようで遠くから叫ぶ声が聞こえた。

それよりも早く、何かにぶつかった感触を全身に覚える。

おそらく落ちた衝撃だろうか。


ん……待てよ……


いったいどこに落ちたのだろうか……


その片手に感じるものは少し柔らかくて弾力があり、例えるなら手のひらより少し大きめのマシュマロを優しく握っているような、そんな感触。

もう片方は少しザラザラしたコンクリートのように硬い……そうアスファルトみたいな地面に手をついてる感じだ。


体のあちこちではサラサラしたきめ細やかな絹のような肌触りだったり、時々ゴツゴツした小さい宝石か何かのような感触だったり……

様々な感触を全身に感じている。


そして、俺の唇に触れる感触は今までに感じたことのない……ふにっとしていて少し湿っているというか潤いがあり、少しハリがあってこのままずっと離すのが惜しいと思ってしまうくらい頭がクラクラになりそうで……


実際にしたことはないんだけど、キスってこんな感じなのかなぁって……



ん? ……キス? ……



えっと……触れてる場所が少し熱っぽくて、ドキドキしてしまって、少し潤いとハリを感じて……



やっぱり……ひょっとして……



次第にクリアになる視界は徐々にその姿を捉え始める。


目の前にはキスしてしまうくらいの距離にお人形のような白く健康的な肌をしていて

栗色のふわふわして少し甘い匂いを感じさせる絹のようになめらかで美しい髪が少し乱れ

余程びっくりしたのかエメラルドグリーンの宝石のようにキラキラして美しい瞳は精一杯見開いており

熱っぽさがこちらまで伝わるくらい頬が紅潮していた。


あぁ、この距離からでもわかる。


目の前にいるのはこの世で見たことがないくらいとっても可愛らしいお姫様のような子で、俺はその子に覆いかぶさるように上からのし掛かってキスをしていた……



「……っうわああああ!!」


「きゃあああっ!!」


「姫!大丈夫ですか!!」


「なんか大きな音がこっちから……って、えっと……」


慌てて唇を離した瞬間に三者三様の叫び声や怒鳴り声、そして後ろから少々おっとりした声が混じってきた。

状況を整理しようと、立ち上がろうとするも慌ててしまい……


「きゃっ!?」


「……へっ?」


さらに押し倒すような形になってしまった。

そして俺の片手はあろうことか彼女の胸をしっかりとつかんでいる。


次の瞬間、背筋がヒヤリと凍り身動きが取れなくなってしまう。


「……貴様、どこから姫の部屋に入り込んだ……それも、姫を……お、おし、おし……たお、ん……き、きすなど……」


よくよく見ると剣を構えてはいるものの顔を真っ赤にして口ごもってしまっている女性が立っていた。

黒く腰までスラリと伸びた髪は美しいツヤがあり、顔は真っ赤にしているものの容姿端麗、藍に光るその瞳は高貴さと生真面目さをより際立たせて彼女の信条を体現しているようにも見えた。


「まぁまぁ、そんなに恥ずかしがることじゃ……それにしてもどっから来たんだろうね……不思議だ」


その後ろからはひょっこりという表現がぴったりなくらいどこからともなく、いかにも魔法使いっぽい衣装を身にまとった女性が現れた。

こちらは先ほどの剣士の人とはうって変わって大人の女性らしさを兼ね揃えてるように見えた。

少し垂れた目はにこりとした瞬間にドキリとさせられそうな魅惑があり、いわゆる出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる体はより世の男性を魅了してしまうだろう。


まぁ、ちょっと胸の主張があるなぁ……と思うけど……け、けっして大きいのがいいというわけじゃなく。

俺はむしろさっきの大きさくらいがちょうど……って!


「あ、えっと……これは違うんです! ……その」


そうだ、この状況をどうにかしないといけないんだった……


「ふぅ……何が違うのか知らんが、姫の部屋に見知らぬ男が入り押し倒している……貴様を斬るには十分だと思うが……」


ぐうの音も出ない……


確かにパッと見れば不審者に見られてもおかしくない状況である。

まったく、あの神様……なんでこんなとこに……


と言っても何も改善されないだろう……

ここは素直に謝るしかない。


「えっと、その……ごめんなさい! 何を言っても信じてもらえる状況ではないのはわかります、だけど本当にごめんなさい……」


俺は精一杯、頭を下げて彼女たちに謝罪の意思を見せた。

今できることはひたすら謝ること。


許してもらうとかそういうことは考えず、申し訳ないという気持ちをちゃんと伝えなくちゃ……

確かに理不尽なことではあるけど、傷ついているのは姫と言われる女の子だろうから。


「今更謝ったとして許されることではない……まったく国始まっての一大事だぞ」


「確かに、この状況は謝っても許されることではありません……それでも、今の俺は謝ることしか……」


「反省をするということは悪いことではない、ただ時と場合が悪かったと思うべきですね……」


そう言いながら剣士は構える剣を握り直す。

あぁ、着いて即人生終了か……それならさっきみたいな、誰かを助けたままで終わりたかったなぁ……

こんな勘違いされて終わりだなんて余りにも悲しすぎる。

最後に俺のせいでびっくりさせてしまったあの子には申し訳ないことしちゃったな……


なんてことを考えながら覚悟を決める。


「はーい、ストップ! もうルリは頭固いんだから……早くその剣しまってしまって」


「何を言ってるペネ! こいつは侵入者だぞ!? すぐに斬らねばならんだろう!」


「そうやってカッカしてる頭を冷やしなって言ってるの! 冷静に考えてごらんよ、仮に侵入者だったとしたら何が目的か、他にどんな仲間がいるか、そもそもどうやってここまで着たのか、とか聞かなきゃいけないことがたくさんあるでしょう?」


ペネと言われる魔法使いの人がルリと言われる剣士を落ち着かせていた。

どうやら命の危機だけは過ぎたようだ。


「だ・か・ら まずは牢獄に打ち込んで明日からたっぷり尋問したほうがいいと思うんだけど〜」


前言撤回。

どうやら死ぬより苦しい明日が待っているようだった。


「まぁ確かに、気になることがたくさんあるのは事実、ではペネに任せましょう……ほら貴様、こっちだ」


「あ……は、はい」


呆気に取られた俺は力なく従うしかなさそうだ。

せめてもう一度あの子には謝らなくちゃ……


「えっと、あの! 本当に、ごめんなさい……びっくりさせちゃったみたいで……その」


「……は、はい……」


姫と呼ばれるその人からようやく声は聞けたが、この返事だけ。


「早く行くぞ! それでは姫、お騒がせしてしまい申し訳ありませんでした、それでは後ほど」


ルリと言われる剣士とペネと言われる魔法使いは深々とお辞儀をして部屋を出た。

俺も癖というか二人に倣ってお辞儀をして部屋をでる。


「何故貴様まで……まぁいい……こっちだ、ついてこい」


「あ、はい」


「ふふ、なんか不思議な子だね……今から行く場所は牢獄なのにそんなあっさりついていくなんて」


そういえば確かにそうだ、二人は確かに俺の前後にはいるが拘束具もなく逃げようと思えば逃げれる距離感でもあった。

といっても二人の余裕から見て、仮に俺が走り出したとしてもすぐに追いつけると考えているんだろう。


「確かに不思議なやつだ、侵入がバレて姫を人質にするかと思えばいきなり謝罪するなどとは」


「ひ、人質かぁ……まったく考えが出なかったです」


「本当にこの子侵入者なのかな、まるで潜むとかそういうらしさが見れないし、腕が立つとも見えないし……」


「だったら明日からペネがたっぷり聞き出せばいいだろう……さて、ここだ」


どれくらい歩いただろうか。

気がつくと地下深くのジトッとした空気に満ち溢れた牢屋の階にまで来ていた。

そこには今は誰もいないようで、しばらくは俺一人の空間になりそうだった。


「いずれ見張りも来るだろう、大人しく入ってるんだぞ……」


そう言われて、ガチャンと大きな南京錠で施錠され牢屋に閉じ込められた。

はぁ、この先どうなるんだろう……


明日からの尋問にビビりながら、疲れた体は睡魔に抗うことができず俺は静かに寝ることにした。


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