神はそれを望みたもう~クレルモンの公会議。
時は西暦1095年.11月18日~
ここはフランスの中央に位置する山岳地帯の町。
クレルモン。
支柱に聖人たちの立像が並ぶ公会議場に詰めかけた大勢の人々。
彼らの目的は、時の教皇の言葉を自らの耳で聴き贖罪の機会を捉えんとするものだった。
白髭を蓄え威厳を備えた教会組織の要を成す人物が静々と演壇へと昇って行く。
群衆に紛れて、その人物に視線を送る青年の姿もそこにあった。
聴衆の関心を引く数々の問題取り上げられる。
壇上から声高に演劇さながら熱弁を振るう時の教皇。
『唯一の神に信仰を捧げる同胞の兄弟たちよ!』』
『汝らの命が神に召される時、我ら聖職に、あるものが必ずや天への道筋を備えん!』
『灰の水曜日より復活祭にいたるまでの46日間を汝ら信仰の全き証を示す時とせよ!』
『神の休戦が発布された期間は、いかなる戦闘行為も行ってはならない!』
日毎に聴衆に告げられる教会宣言の数々。
日程が進み27日の最終日に重大な発表をするとの予定を聞いていた聴衆は群れをなして押し掛けた。
大群衆を広い平原へと移動させた教皇は異教徒テュルクの攻撃に劣勢なビザンティン帝国より
救援を乞う報を聞き及んでいることを告げた。
同じキリスト信奉者を救うことは神のご意志であると熱く訴える教皇。
『今まさに、この時も異教徒たちの手によりキリスト教圏が犯され、同胞たちが殺害され奴隷され恥辱されている!』
『さらに武力にものをいわせ改宗を強いて教会を破壊し神への冒涜行為に及んでいる!』
『これ以上、手をこまねいてばかりいて、異教徒の横暴を許してはならない!』
『十字架のもとに集いし同胞たちよ!』
『今こそ、キリストの名のもとに聖戦へと赴く時なり!』
『聖地エルサレムを異教徒より開放し、聖墳墓教会を奪還せよーーー!!』
『神はそれを望んでおられるーーー!!』
(Deus lo vult)
教皇の演説はフランス中は、もとより、ドイツ、そして海を隔てたイギリスへも波及して行く。
民衆十字軍の後を追うようにして、新たな十字軍が結成されて行く。
領主や諸侯が率いる胸に赤く染め抜かれた十字架の鎧で武装したものたちであった。
その中に若き聖騎士、黄金の眉差し兜で
装う青年の姿もあった。
時代の波は、いやおうなしに一人の青年を戦いの渦中へと投げ込んで行く………………