始まりにして終わり~霧の中の光へ。
時は西暦1571年。
ここはヨーロッパの南東に位置するバルカン半島。
その先端にあるレパントに面する地中海。
そこに溢れる大小様々なガレー船の群れが海上で今、まさに激突する。
帆には十字架の印と、また一方はコーランの文字。
激しい砲弾の音が、そこらかしこから響き渡る。
(((ドドーーーーーン)))
(((ドドーーーーーン)))
(((ドドーーーーーン)))
((((わああぁぁぁぁあ)))))
ぶつかり合う大型ガレー船。
凄まじい音と、ともに船の横腹から突き出されている数十本の櫂がドミノのように折れてゆく。
((((バリバリバリ…………)))))
真っ二つに船体が中央から割れ海に投げ出される人々。
『なぜ、我らは戦わなければならないのか……』
大破し海に半分浮かぶ船のマストを掴み、一人の十字軍戦士が呟いた。
荒波に弄ばれるムスリムの青年が、辛うじて板の破片に掴まっている。
戦闘で傷を負い、力尽き海の底へと沈みかける彼。
咄嗟に彼に手を伸ばす十字軍の戦士。
キリスト教徒とイスラム教徒。
決して相入れぬ二人の関係。
しかも、ここは戦闘の最中の海の上。
互いに深い信仰に基づいた聖戦を掲げる者同士であった。
『なぜ……敵である私を助ける?』
ムスリムの青年は、その十字軍の戦士に
見覚えがあった。
『君と、どこかで会ったような気がする……』
十字軍の戦士は、そのムスリムの青年に笑顔で答えた。
『やっと恩を返す事ができた……嬉しいよ、君に会えて。』
世に名高いレパントの海戦で、再びまみえた二人。
長い物語りの終わりにして始まりである。
船の甲板に引き揚げられたムスリムの青年と彼を助けた十字軍の戦士。
二人が乗った壊れた船は、不思議な力に引かれるように戦場を離れて行った。
霧に包まれた光に導かれつつ………………
二人の時は、ここから五百年の歳月を遡って行く。