訪問者ときっかけ
暑い!
気がめいる時は無心で仕事をするのが一番
ここ数日せっせと自分に与えられた仕事をこなした
掃除、洗濯、草むしり、買い物、王子の相手?
「エル王子・・・こんな所にいちゃマズいでしょう?」
町に買い物に来た時に王子と会うとかあり得ない
エル王子はお忍びで城を出るのが大好きらしい
今日も商人風な格好で偶然?私と出会った
「王子っていうな!エルだ!仕方ないじゃないか城じゃ会えないし」
周りに聞こえない小声で私に話しかける
城では顔がばれ過ぎなので逆に町の方が都合がいいと言いたいようだ
「で?なんの用です?」
私は頼まれた買い物を済ませて急いで城に帰りたい
「アキラに記憶が戻らなかった事を伝えた」
そうか、もう知っているのか勇者さんは
「案の定婚約解消するって言いだして、今大変な事になっている」
とほほ・・・という顔をした
「・・・・・」
私は固まった
あんな幸せそうだった二人が
勇者さんって、本当は酷い人なんじゃないかっと思ってしまう
いや冷静に考えて酷いだろう
いくら自分の妻の記憶を戻す為って言っても偽装結婚って
普通心痛むだろう
でも、私のせい?
私はエル王子に勇者さんと話をしたいと言った
エル王子は苦しそうな顔をして
わかったっと言って
ちゃっかり私の買い物に付いてきて城に帰る時に帰って行った
きっとあの抜け道だろう
侍女の寮は普通相部屋だが、たまたま私の部屋は今一人で使っている
仕事以外は結構自由に過ごしても問題ないが勿論男子禁制
城外に出る時も届出がいるのだ
その日の夜いつもどおりお風呂から上がり部屋で髪を乾かしていた
私の髪は長めのボブなので乾かすのはタオルで十分だ
外は雨が降り、雨音がしとしとと聞こえる
カタ
小さな音が響く
私は何の音か見当がつかなかったが次の瞬間窓が静かに開く
え?ここ3階ですよね
人影が見えた瞬間凍えたように固まった
まさかの幽霊?まさかまさか・・・・
黒い人影は雨に濡れてぽたぽた滴を垂らしながら窓から部屋に入る
大声を出そうか、逃げようかと部屋の扉に視線をやると
「俺だ・・・・」
この声、聞き覚えがある
「勇者さん?」
黒い人影は被っていたフードをとり中から顔を出す
間違いない勇者さんだ
こんな夜中に男子禁制の寮に窓からって
しかも3階って
たしかにエル王子に話がしたいって言ったけど
「ふ、普通に会いに来れなかったのですか?」
ちょっと呆れ顔で言ってしまった後、いそいそと乾いたタオルを取りに行き勇者さんに渡した
「ありがとう・・・・」
フード付きのマントを脱いでタオルで体を拭く
その間にお湯を沸かし暖かい飲み物を準備した
「どうぞ」
「あぁ」とお茶を受け取り椅子に座る
一口飲み、私を見つめる勇者さん
「話があるって聞いて」
「はい。大ありです!勇者さん「アキラだ」
真剣な目で訴えてきた
どうやら勇者さんと呼ばれるのが嫌らしい
「・・・・・アキラさん婚約解消するって言ってるらしいですね」
「あぁ。もう結婚する意味がないから」
少し暗い瞳をして床をみる
「私の記憶が戻らなかったからですか?」
「・・・・・」
「そんな事で婚約解消されたらサラサ姫の気持ちはどうなるんですか?」
アキラの瞳が驚きと怒りの色に変わり私を睨む
「そんな事?お前の記憶を取り戻すのがそんな事なのか!?」
椅子から立ち上がり手に持っていたお茶をテーブルに置くと私の肩に掴みかかった
私は驚き固まっていた
アキラは私を睨みつけ掴まれている肩が痛い
「お前は昔っからそうだよな・・・・・」
「何がそうなんですか?」
私は睨み返した
「・・・・・」
アキラさんは口を一文字に結ぶ
何が言いたいのかわからない
ちゃんと言葉にしてもらえないと解らない
言わなくても解るだろうって何で思うのだろう
昔っから・・・・・
昔っから?
アキラさんを睨んでいた瞳が泳ぎ出し記憶を呼び起こす
「カリンさん?」
私の様子がおかしい事にアキラさんも気が付いた
「え?あ、えーと」
頭の中がぐるぐると回っている
何か思い出しそうな、そうじゃないような
混乱しているとアキラさんが私に抱き着いた
そして、キツく締める
く、苦しい・・・・・でも
暖かい・・・・・
「・・・・・香織・・・・・」
かおり?私の名前・・・・・カリンじゃなくて香織だ!
私は太田香織、太田明の妻だ
思い出した・・・・・前の世界の記憶も何もかも
「あ、明痛い・・・・・ちょっと力緩めて」
私は明の腕の中でもがいたら、ゴメンと力を緩める
心配そうに私を覗き込み目が合う
「そんな顔しないでよーこの位じゃ死なないって」
明が目を目開き驚き再び私を強く抱いた
この位じゃ死なないは私の口癖だ
「香織、思い出したんだね」
「うん」
「良かった・・・・・」
「うん」
顔が見えなくても明が泣いているのが解った
私もそんな明の気持ちが解り涙が出てくる
3年間・・・・・ひとりで頑張ってきた私の夫だ
お忍びで村に行くのが大好きなエル王子は赤みががった黄色のイメージ
勇者アキラは黒がかかった緑のイメージです




