第二章 鈴の音 第三幕
日は既に傾き始めていた。
あれからどのくらいの時間が過ぎたのか
響也は、ただ独り辺りをさ迷っていた。
「この俺が、道に迷うとは・・・」
元々旅をしていた響也には
方向感覚において自信があった
だが、一向に知っているはずの場所にたどり着くことができない
空には真円の月が輝いている。
草木を手で掻き分けながら響也はひたすら進み続けていた
「んがぁ~っ!!」
「どうなってんだ?・・・・・くそっ!!」
脇にあった大木に拳を叩きつけて叫ぶ
確かに道は合っているはずなのに
すでに数時間歩き続けてきた響也だったが
『なにかがおかしい』事を感じ始めていた。
「まさかこの森に、何かあるんじゃないだろうな・・・?」
空に浮かぶ月を眺めながらつぶやく
「目に映るものが全てだと限らない・・・」
ポツリと誰かがつぶやいた
「昼間の・・・?」
声の主は昼間に街で出会ったあの少女だった。
『ちりん』
風に揺られて小さな音が響く
遠くまで拡がる草原に風が流れていく
その中に月の光を浴びて
響也と少女が佇む
「今の言葉、どういうことだ・・・?」
沈黙の中、先に口を開いたのは響也だった
「全ては、自分の心が生み出す」
謎掛けのように少女は言うと再び視線を空に移す
「俺に迷いがあるっていうのか?」
彼女は何も答えない
「信じないぞ、そんなこと・・・」
響也も再び視線を空に移す
「あなたの心は解っている」
「あなたが、たどり着くべき場所が・・・・」
「俺の心は知っている・・・?」
少女が指を指す
「今はただ、流れていくだけ・・・」
風が流れていく
「この風についていけば、あなたの居場所へ行けるわ・・・」
指を刺したまま響也を見つめる
「さよなら」
そう言うと彼女は別の方向へと歩き出す
「俺の居場所・・・・か」
彼女の言葉が響也の中に深く染み込んでいく
その空には
蒼く輝く月が見下ろしているだけだった。