第一章 あの空の下で 第四幕
「とりあえず言っておくが、わざとやったわけじゃないぞ。」
なんとか、事の成り行きを説明したものの
彼女の怒りは収まらないようで
口元がピクピクと歪んでいるのがわかる。
「で?あんたは何者なの!?」
「ただの流れ者だ」
言った瞬間、鋭い眼光が突き刺さる
すげぇ、怖い。
「えっとね・・・この人ずっとお腹空かせて公園に居たから
だから、ご飯食べさせてあげようと思って・・・・」
懸命に説明するも、終わりの方には声が小さくなっていく
「・・・・・・・・ふぅ」
ため息をつきながら、頭を抱える。
「気にするな、裸を見られたのはお互い様だ」
再び、鋭い眼光が突き刺さる。
さっきの何倍も怖い。
「一日だけっ!」
人差し指をまっすぐに立てて言う。
「一日だけ停めてあげるわ」
「ほんと!?やったぁ~♡」
自分のことのように喜ぶ
「やったじゃん!ラッキー♡」
飛び回りながら喜ぶ
「ば、ばかっ!お前は、しゃべるな!!」
しまった、と思っても遅い。
だいたい考えてみれば
人間の言葉を理解し
さらには人間の言葉を話す鳥なんて
非常識極まりないことだ。
ヘタすればこのまま、怪しい科学者なんかに生け捕りにされて
解剖されかねない。
今までも、極力気を付けてきたつもりだったが・・・
まずい・・・これは非常にまずいぞ・・・
いろいろ考えを巡らす横で
怖い女が、何かつぶやいている
「何・・?この子・・・?」
「いや、今のはその・・・」
必死に、ごまかす
「すっごく可愛い♡」
瞳からハートマークを散りばめながら
うっとりとした声で、つぶやいていた。
「え・・・?いや、ありがとうございます」
「あんたじゃないわよ!!」
ドスの効いた声で、言い放つ
すんげぇ、怖ぇ・・・・
「二人のお名前は、なんていうのかな・・・?」
こちらを指差しながら訪ねてきた。
「え?俺か・・・?」
「あんたは別にいいけど」
まだ根に持っているようだ。
「わたしは『来夏』『神楽 来夏』だよ、
来夏って呼んでほしいな。」
街で、であった少女が言う
「私は『鈴華』(すずか)、鈴華でいいわ」
すごく怖い女が言った
「すずちゃんは、わたしの妹なんだよ」
来夏が付け足すように言う
「似てないな」
特に性格の方が
「悪かったわね!?」
見透かされたようだ
「あたしは『つばめ』つばめだよ!」
羽を、大きく拡げて言う
「つばめちゃんね」
鈴華が瞳をウルウルさせながら言う
俺とはえらく扱いが違う
「ちなみに名前の由来は、まぁ、見たまんまだ」
『燕』だから『つばめ』かなり適当なネーミングセンスだと我ながら思う。
「ひどいよねぇー
どうせなら、もっとカワイイ名前にして欲しかったよー」
こっちを見ながら訴えてきた
「例えば『フランソワ』とか『ジョセフィーヌ』みたいな」
「んなもん、却下に決まってるだろ!」
言い終わる前に釘を刺す。
「でも『つばめ』でも可愛いよ」
「ホント?嬉しいー♡」
喜びながら飛び回る。
「で?」
「あなたは、何ていうお名前なのかな?」
「私は別に訊きたくないけど」
鈴華がそっぽを向いていう
「え!?嫌だよ!!
ちゃんと訊いておかないと一緒に遊べないよ?」
どんな基準だ。
「で、お名前は何ていうのかな?」
軽く咳払いをしながら息を吸い込む
「俺は『響也』『武神 響也』だ」
「よろしくね、響也」
「ああ・・・」
来夏に言われて、とりあえず返事を返しておく
「よろしくね、つばめちゃん♡」
鈴華は、つばめにしか目を向けていなかった。
「なんだ?」
ふいに鈴華が響也の顔をじっと見つめていた
「惚れるなよ・・・?」
「惚れるか!!」
吠えられた。
「あんたって、変な奴ね」
なんか、失礼なことを言われてる気がする
「ま、良いわ・・・
悪い人間じゃなさそうだし・・・」
なんだそれは・・・・?
それだけを言い残し
鈴華はつばめ達の元へと入っていく
「そうそう、あんたの寝場所ね
そこの隅の方だから」
『そこの』と言われた場所を見る
茶の間の隅に、枕と毛布が置いてあった
「つばめ、お前はどうする?」
訊ね終わる前に二人に付いていってしまった。
「まぁ、いいか・・・・」
誰も居なくなった茶の間で、仰向けに寝転がる
月の光が差し込んで響也を照らす
そのまどろみの中で響也は眠りに落ちていった。