第一章 あの空の下で 第三幕
ひぐらしの鳴く夕暮れの道を 歩いていく
「るんるん る~ん♪」
上機嫌で、俺の手を引いて歩く少女
「なぁ・・・」
「ダメっ!」
言い終わる前に怒られる
そんな彼女の背中を眺めながら思い返す
「んじゃ、そろそろ行くか・・・」
おもむろに歩き始める
「もう、いくの?」
相棒が肩に乗っかる
「ああ、日が暮れる前に寝床を探さないとな」
どこに行くかなんて、決めていなかった
ただ、いつまでも同じところにいるのは苦手だった。
「待って」
呼び止める声に振り向きもせず進む
「じゃあな」
片手を上げて別れを告げる
「ぐあっ!?」
突然バランスが崩れ、思わず変な声を上げる
服を思いっきり引っ張られていた
「何をする・・・?」
やはりというか彼女の仕業だった
「・・・お風呂」
「はい?」
変なことを言い出す
「濡れたままじゃ風邪ひいちゃうよ・・・?」
「これくらい、すぐ乾く」
そのまま切り上げようとする
「ぐはっ!?」
またも、引っ張られる
「ダメっ!風邪ひいたら大変だよ!?」
「平気だって・・・」
「くちゅん!!」
言い終わる前に、さえぎられる
「ほら!ダメだよ!!」
「今のは俺じゃないぞ!?」
「ダメ!一緒に来るの!!」
彼女は、そのまま俺の手を引き歩き始める
ちなみに、くしゃみの犯人は
俺の肩で丸まっている相棒だった。
そうして俺たちは夕暮れの中を
トボトボと、歩いているのだった。
「どうした?」
不意に立ち止まった彼女によって
現実へと戻される。
「ここが私の家だよ!」
なぜか『鳥居』が飾られたその一軒家に
引き込まれるように招かれる。
「ただいまーっ」
軽い足音を立てながら、そのまま奥へと進む
「こっち、こっち~!」
手招きしながら呼ぶ
「じゃまするぞ・・・」
呼ばれるまま、奥へと上がり込む
「この奥が、お風呂場だから」
ガラス戸で仕切られた一室を前にしていう
「沸いてるみたいだから、入っちゃっていいよ」
「わかった、すまんな」
内心、久しぶりに入るまともな風呂に
心が踊る。
いそいそと準備を終えて
ガラス戸を開け放つ
「・・・・・・・・・・」
そこには見知らぬ女の子がいた。
おたがい、服など着ている訳もなく
濡れた髪を、バスタオルで包んだまま立ち尽くしている
「言っておくが『事故』だぞ、これは」
なるべく冷静を保ったまま立ち去ろうとする
「いやぁぁぁぁぁっ!!!!?」
叫び声と同時に
いろんなものが飛んできた
「ちょ・・・ちょっと待て!おい!!」
パコーーーン!
乾いた音が俺の頭を通過していく
「落ち着けって!」
止める声も届かず
次々に、風呂桶が飛んでくる
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ
一体いくつあるのかもわからないが
それは全て俺に命中する。
「どうしたの?」
奥から覗き込んでいる彼女の方に
這いずりながらもたどり着く
「お、おまえ・・・・ぐふっ!?」
さらに石鹸が、後頭部を直撃した。
「ど・う・い・う・こ・と・かしら!?」
腕を組んで仁王立ちで、先ほどの少女が言う
怒りのオーラを身にまとい
正に、『仁王様』のようで大迫力だ。
「あのね、この人が風邪をひかないようにお風呂を貸してあげたの」
奥することもなく説明する
通じているのかは皆無だが・・・