第三章 月夜の下で 第二幕
「なぁ・・・」
いつまでも、裾を掴んで離さない来夏に言う。
「やだ!」
「大丈夫だって・・・」
昨夜、突然はぐれた俺に対して
彼女のとった行動
気持ちは解らないでもない
ないのだが・・・
このままではトイレにも付いて来そうだ
「何とかしてくれ」
思わず鈴華に助けを求める
「良いじゃない、モテモテで」
ツバメが口を挟む
「あんまり嬉しくないぞ、ソレ」
「・・・・・・・・」
言った途端、裾を握る手に力が入るのがわかった
「1日ぐらい、好きにさせてあげれば?」
あくまで他人事のように言う鈴華
確かに、昨日の出来事で心配を掛けたのは悪かったと思う
しかしこれでは、あまりに動き辛い
それに、考え事も出来やしない
「しょうがない・・・」
「・・・!」
こちらを見上げる来夏
「約束する」
小指を差し出す
「もう、勝手に居なくなったりしない」
じっと差し出された指を見つめる来夏
「ゆびきりだ」
「針千本・・・」
「そんなの飲みたくないからな」
おずおずと小指を絡めてくる
指切りの後、わずかに残った温もりが
来夏の安堵を感じさせた
「じゃ、ちょっと付き合ってくれるか?」
「?」
不思議そうな顔で応える
「行きたい所があるんだ」
「逢わせたい奴もいるしな」
特に意図した訳ではなかった
だが、一人で佇んでいる彼女の姿が思い浮かんだ
いつも独りで、空を眺めている
そうやって過ごしているだろう彼女
そんな彼女に
楽しいことを教えてやりたい
なぜかそう思っていた
それはきっと
『昔の自分に似ているから』
なぜかそう思えてならなかった