表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/39

プロローグ5

      7


「私たちを守っていただいて、ありがとうございます」


 御者が頭を下げた。

 ウィザーシュタットという世界の中の王国。

 この大陸全体をウィザーシュタットと呼び、王国自体も、ウィザ-シュタットというらしい。

 そこに俺は到着したのだ。


「私たちの旅はこれで終わりですが、貴方はどうなさいますか?」


 どうやら、女が死んだ件で、俺が相当ショックを受けたのだと思っているようだ。


「まあ、せっかくこの国に来たから、ぶらぶらしてみる」


 控えめな物腰で聞いてくる御者に、俺は、気楽な様子で答える。


 すると、年老いた御者は、金貨の入った袋をこちらに手渡した。


「では、これを持っていってください。少ないですが」


「ありがたく受け取っておく」

 

 そう言って、俺は袋を受け取ると、城門を見た。


 かなり高い……。


 白い石で出来た城門……。

 五十メーターはあるだろうか? その周りにも壁が屹立し、王国全体を守っている。


 ここで、リュウを連れていたら、やばいことになりそうだ。

 これだけ、妖魔や魔物に警戒を抱いている国だ。

 城門の前でお縄に、ということもありえる。

 案の定、御者もそれは注意してきた。

 しかし、具体的にはどうするか?


 そう言えば、この馬車に乗っているのは商人で、大量の品物を袋に入れて持って行ったらしい。


「袋をくれるか?」


       

数分後、


「ハルアキ、何のつもりだ? 

こら、やめろ! 

 縛るな、ふん縛るな!」


 俺は、袋の中にリュウを詰め込み、町を歩いていた。


 いぶかしげな顔をする人々の視線が痛い。

 この怪しい袋のせいか、俺の格好のせいか、両方か、いや、両方だろう。

 そう結論付けると、俺は、格好をどうにかしようと思い立ち、服屋を探す。

 

 そもそも、この世界では、服はどれくらいするもので、この金貨で足りるのだろうか?

 食料も買わなければならない。

俺が値段が分からないのをいいことに、あこぎに商売をしてくる可能性もある。


「さて、どうしたものか……」


中世の金貨の値段は、前に調べた事がある。

確か、十二万円……。

まさか、そんな価値があるとは思えないが……。


何はともあれ、まずは服だ。

格好を整えないと、舐められる。

服は、多少損をしても買うとしよう。

そう思い立ち、俺は視線を巡らせる。

この世界の服装も、同時に目に入る。

スカートタイプとまでは言わないが、丈の長い、地味な色のジャケットのようなものと、白い膝丈のズボンが主流のようだ。

 俺は、しばらくさ迷い服屋を見つけると、中に入っていく。


 すぐさま、店主が反応をしめし、俺の格好が見えた瞬間、目が$になる。

 守銭奴もかくやである。


「服を買いたいんだが?」


「ええ、お客様にお似合いのがありますよ」


 そう言って、色んな服を俺の元に持ってくる。

 そして、そのたびに、「お似合いです!」「素晴らしい」と、俺を褒めちぎってくる。

 ここで、俺は大体の展開は予想できた。

 恐らく、俺が着ている、見慣れない服を売ってほしいという話を持ちかけてくるのだろう。


「あの、お客様」


 店主は、手もみして、本題に入る。

 この服がどの程度の値段なのかは分からないが、とりあえず、店主の出方を見る。


「その衣服と、この中の衣服の二着と交換すると言うのはどうでしょう?」


「済まないが、この服とは、しばらく苦楽を共にしていてな、そう簡単には手放したくない」


「では、三着ではどうでしょう?」


「三着か……」


 俺は考え込むそぶりを見せ、唸る。


「分かりました! では、四着、いや、五着!」


「いいだろう。あと、服を入れる袋も頼む。この服の腰につけられるやつだ」


 俺は交換が成立した服の中から、一着を指差した。


「お安い御用です!」


 契約成立、損をしたのか、得をしたのかは分からないが、とりあえず、五着の服を手に入れた。


 その中の一つを着込み、俺は町へ再び繰り出す。


 この町は、賑わってはいるが、どうやら、貧富の差が激しいらしい。そこら中に物乞いがいる。

 反して、綺麗に着飾った、貴族のような人物が、町を闊歩している。


 ところで、リュウは相変わらずばたばたと暴れているが。

 幾分、街中の好奇の目は、薄れている。


 そんな中、不意に腹が減っているのに気付く。

 俺は食料品店に向かうことにした。

 

 しかし、そこら中に食料品店は立ち並んでおり、どうやら、ここは激戦区の模様。

 さて、どこに行こうか?

 

思考を巡らせ、俺はぐるりと一回りする事にした。


 一番目の店……。

ほう、ジャガイモ、ピーマン、にんにく、ナス、枝豆、トマト……。

品揃えが良いのか、良くないのか、俺には判断できない。

しかし、ふと気付く。

俺は、無意識に、野菜が置かれている場所の名札を見て、思考を巡らせていたが、この名札の字は、俺の知らない字だった。

何故か、それが分かる。

俺は、それに疑問を持ちながらも、棚上げする事に決め、次の店へ行こうとした。

次の瞬間、リュウが、袋の中から這い出した。


「トマトの匂いだ!」


 瞬間、激震が走る。


「妖魔だー!!」


「ふえ?」


 間抜けな声を出すリュウに、俺は、呪術をぶつけたいのを押さえ、袋に押し込もうとした。

 しかし、時すでに遅し。

 町中にその声は伝わり、一斉に人々が逃げ出した。


 ちょっとやばいな……。

 俺は、人事のように考えていた。

 どうやら、城壁に守られている人々には、妖魔に対する耐性が無かったらしい。

 しかし、いざとなったら、リュウに呪縛を掛けて、自分は逃げればいい。

 

「なあなあ、ハルアキ?」


「何だ?」


 能天気に声を掛けてきたリュウに、俺はいらいらしながら、問うた。


「このトマト、食べても良いかな?」


 ゴッツーン!

 

 俺が、渾身の一撃を食らわせると、「うへゃ!」という、気の抜ける声と共に、リュウがつんのめった。


 いい加減、手が痛くなってきた……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ