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帝城 鵺編 2


      3


 ひょう、ひょう。

 という音が聞こえた……。

 鈴か、鳥か、それとも?


 ひょう、ひょう、という音が近づいてくる。

 俺は前に進み出た。

 そして、呟く。


「鵺か……」


 暗雲が俺達の前を遮った。

 電撃がその雲に走り、びしっびしっと音を立てる。

 雲の中に、何かが居る。

 音を出している何かが居る。


 暗雲が俺達を完全に包み込んだ。

 瞬間、紫電が俺達を襲う。

 

 電撃は、光の速さと同じだ。

 避けきれるものではない。

 俺が取った行動は、避雷針の術を発動させる事。

 電撃を誘導し、横に逸らす。

 紫電が横に逸れ、地面を抉る。

 だが、視界が遮られている、敵を視認する事が出来ない。

 当然の事ながら、呪術は永遠には使えない。

 つまり、このまま電撃を避け続ける事は出来ない。


 鵺を倒すならば、矢を射るべきだ。

 だが、俺が持っているのは刀。

 ミカドも武器の類は持っていない。


 口寄せをするか?

 だが、矢の札など持っていない。

 

「ミカド、アンタ、矢を召喚できるか? 尖り矢だ」


「いえ、無理です……」


「そうか」


 俺は、電撃を誘導しながら思考を巡らせる。

 そして、思い出す。


「ああ、その手があったか」


 俺は、イクティヤールの教えを思い出す。


「魔帯剣 可変式」


 俺は刀を鞘から抜き放ち、刀の柄と鞘の入り口とを連結させた。

 瞬間、刀が炎に包まれ、弓矢を形作る。


「紅蓮の矢」


 俺は、そっと指を刀の柄から引いた。

 瞬間、燃える炎の矢がこの世に顕在した。

 そして、指を放す。


 炎の矢は雲を切り裂き、向こうにある何かを射抜いた。

 耳障りな悲鳴が聞こえる。

 紫電の音が、遠のいていく。

 雲が引いていき。

 視界が戻ってくる。


 そして、鵺の姿が見える。

 サルの顔、狸の胴体、虎の手足を持ち、尾はヘビ。

 仕切りに口から黒い妖気が漏れ、こちらを憎しみがこもった目で見ている。


「ここからが勝負だな」


 いつの間にか、雲が晴れると夜になっていた。

 月が輝いている。

 ひょう、ひょう、という音がやや濁って聞こえた。

 俺は刀を元に戻すと鵺に切りかかった。

 彼我の差は、十メートルほど。

 刹那の間にその差を詰める。


 初太刀……。


 鵺は身をひるがえしそれを避ける。

 どこかユーモラスな動き、滑稽なサルの顔……。

 俺は、上段に剣を構えた。


「魔帯剣 炎撃一閃!」


 瞬間、剣を縦に振り下ろす。

 炎が迸り、地面を這う。

 夜の街を煌々と照らし、その光が鵺を襲う。

 

 鵺は呻き、首を二三度振った。

 身体が焼け焦げ、ゴムを焼いたような匂いが俺の鼻に届く。


 吐き気を催しそうになったがこらえ、俺は刀に炎を宿したままもう一度突進した。

 そんな中、鵺の尻尾のヘビが、口から緑色の液体を吐き出した。

 避けられないと悟る。

 俺はガードする事に決め、剣を顔の前にかざした。

 

 だが、液体が俺に到達する瞬間、黒い影がそれを遮った。


「一人で戦うな、俺達もいる!」


 ロロウの声だった。

 ロロウの身体は光に包まれ、液体を遮ったようだった。


「済まない」


 俺はロロウにそう言うと、刀をもう一度構えた。


「ミカド!」


 ロロウが叫ぶ。

 瞬間、四つの光柱が鵺を拘束する。


「今です! ハルアキさん!」


 ミカドの声が聞こえた。

 俺は、振り返らずに頷き、距離を詰めるともう一度剣を横に薙いだ。

 確実に当たる一撃だった。

 

 だが、鵺は攻撃が当たる前に四散した。

 手応えが無い。

 

 そして、事態に気付く。


 猿、狸、虎、蛇……。

 その四匹が俺を取り囲んでいた。


「簡単すぎると思った。

 こういう手品が出来るとはな……」


 俺は、不適にも笑ってみせる。

 そして、刀を構える。


 瞬間、巨大な炎が俺の背後の蛇と狸を飲み込んだ。


「いい判断だ」


 俺は前方の二匹に意識を集中しながらもそう言った。


 リュウは、魔法石を食って巨龍の姿になっているようだ。

 そして、俺の上空にリュウが飛来し、俺を包むように身をくねらせると尻尾で前方の二匹を吹き飛ばした。

 

 四匹の妖魔はいとも簡単に倒れ伏した。


「リュウ、焼き尽くすぞ?」


 

――ああ


 俺はリュウに通力を送る。


莫大な炎が四匹を包む。

 

 そして、鵺は霧になりその場から消滅する……。



 


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