ウィザーシュタット 厄災龍カタストロフ編 7
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苦痛と共に、俺は目を覚ました。
「ぐ、ああ」
呻くことしか出来なかった。
「ハルアキさん! 大丈夫ですか!?」
ミカドの声……。
「まさか、生きてるとはな」
俺は痛みを抑え込んで、息を吐いた。
「ハルアキさん……」
「ああ、痛みは引いた。
大したことも無いな、龍殺しの呪いというのも」
「そうですか」
ミカドは安心したらしく、座っていた椅子に深く座りなおした。
「ここ、どこだ?」
俺は、かすむ視界を走らせながらそう言った。
「城の一室です」
「そうか」
虚ろに天井を見上げた。
そう言えば、この世界に来る前は、いつものようにこんな姿勢になっていたんだな。
俺は思い出した。
でも、この世界に来る前とは決定的に違う。
今は、満足感が俺を包んでいた。
「そうだ、リュウは?」
俺は天井を見上げたままミカドに問い掛ける。
あのうるさい奴がいないのは、何となく俺を不安な気持ちにさせた。
「他の部屋で眠っています。
あの子も相当なダメージを負ったようでした」
ミカドは少し言いにくそうにした後、そう言った。
「命に、別状は無いのか?」
「ええ、大丈夫です」
「そうか、良かった」
俺は笑みを浮かべる。
ミカドに笑いかけ、拳を掲げた。
「気分がいいな。
全部、取り戻す事が出来たみたいだ」
俺は痛みとは裏腹に心の底から湧き出てくる不思議な感情に戸惑い、しかし喜びを覚えていた。
そして、ふと気付く。
俺の腕に、禍々しい刻印が刻まれていた。
「龍殺しの報いか」
俺は腕を見つめ、その刻印をもう一方の手で撫でた。
幸いと言うべきか、左手にはその刻印が無い。
「貴方の呪いを解く方法は私には分かりません、ごめんなさい」
ミカドが深々と頭を下げるのを見て、俺はそれを制そうとしたが激痛が走り、目を瞑った。
幸運な事にミカドには気付かれていなかったようだった。
ミカドはそっと俺の手を掴んだ。
「貴方は、無茶をする人ですね。
私の弟に似ています」
俺をたしなめる言葉、仕草は俺の大切な人に似ていた。
「大切な人、だったんだな?」
ミカドは「ええ」と首を縦に振った。
「人を愛する心を取り戻した今、大切な人が居るって言う感覚を鮮明に理解できるんだ。
尊いな、本当に尊い」
俺はミカドの顔を真っ直ぐに見た。
そして、笑みを浮かべて見せた。
その後、立ち上がりミカドの肩に手を置いて歩き出した。
「どこに行くんですか?」
ミカドが慌てて俺を制そうとする。
だが、俺はそれを受け入れず、ドアを開けた。
大切なものがあるから、俺は呪いを受けた。
この呪いは忌むべきものではなく、逆に誇りに思うべきもの、この痛みさえも……。
「後は、セイメイ。
最強の陰陽師を倒しに行く。
アンタも、手を貸してくれ」
俺はミカドを横目に見た後、その部屋を後にした。




