ウィザーシュタット 厄災龍カタストロフ編 6
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目を開ける。
同時に轟音が響く。
電撃がスパークしたような音が何度もする。
カタストロフは、結界を破らんとしていた。
どれくらい気を失っていたのか?
それは定かではないが、そんな事は今はどうでもいい。
俺は立ち上がり、リュウを探した。
見ると、側に赤い小さな龍が転がっていた。
「おい、リュウ」
俺はその身体に触れ、揺り動かす。
「う、うん?」
リュウは重そうにまぶたを開けると、俺の顔を見た後カタストロフを見て、血相を変える。
「う、うわわわ!
早く止めねえと! ハルアキ、何か無いか?」
「奴を倒す方法……か」
龍殺し、龍は最も神に近い存在とされている。
ならば、神を殺すという観点から攻めれば、突破口が見つかるか?
「四神を取り込んだ以上、奴は神としての性質が更に大きくなっているはずだ……。
神道の観点から言えば、神は絶対に殺せる。
奴の属性は風、炎、そして、俺には不明な元々の属性……」
不明な属性の謎を解ければ……。
「カタストロフ、厄災か……」
ならば、祈祷が有効か?
いや、祈って静まる相手でもないし、ここまで怒らせればそんなものは意味が無い。
龍は、厄災の象徴とも呼ばれる。
もちろん、伝承によってそれはまちまちなのだが、厄災の名を冠する以上、その性質がある事は確かだ。
ならば、逆に厄災の属性が龍の属性を強めているとするならば。
「丁度いい、やはり西洋風にドラゴンスレイヤーか。
更に、風、火に有効な地、水の属性を混合」
俺は、そっと息を吐く。
「決まりだ。混合魔帯剣 龍殺二閃」
俺はそう言って刀を空中にかざした。
そして、刀の魔法陣をなぞっていく。
魔帯剣に詠唱は必要は無いが、それ以上の集中力がいる。
カタストロフは俺に気付いたのか、尻尾を叩きつけてくる。
俺は、それを避け舌打ちした。
地面が抉れるのを横目に、俺はもう一度剣をかざす。
だが、苛烈な攻撃は容赦なく俺を襲ってきた。
リュウを引き寄せ、飛び上がり横なぎに払われた尻尾を避ける。
「隙が無いな……」
「そんなあ」
リュウはそう言って羽を忙しなくパタパタさせる。
「私が隙を作りましょう!」
ミカドの声が聞こえた。
俺は、声の方向に顔を向ける。
そこには、憑依転身したミカドがいた。
そして、一気に飛び上がりカタストロフの右側面から急襲した。
俺は刀をかざし、通力を込める。
イクティヤールに習った最高難度の術。
混合魔帯剣。
刀に宿る光が増していく。
黄色、青、黒……。
光の粒が収束し、一色に纏まっていく。
そして、複数の属性を混合した印である、白い光へと変わっていく。
「憑依転身」
俺はリュウの方向を向き、そう言った。
リュウは俺に頷き返し、光の粒へと姿を変える。
瞬間、俺達は一つになり、一気に飛び上がった。
「龍殺二閃!」
カタストロフの上空へ、俺達の視線とカタストロフの視線が交差する。
憎悪に染まった目だ。
禍々しい殺気が俺達を射すくめようとする。
俺とリュウは急降下した。
咆哮を上げる。
両方同時にだ。
カタストロフの炎が放たれる。
俺は、剣を振り下ろす。
白い光、そして、カタストロフが放つ黒い炎の光がぶつかり合った。
俺とリュウは唸り声を上げた。
そして、視界が黒い光に包まれるのを感じながら、それでも目の前の白い光を前に突き出した。
「ぐ、あああああ!?」
だが、推力が足りない、力も……。
だめ、か?
俺は、目を瞑ってその力に屈しようとした。
だが、
――大丈夫。
君なら出来るよ。
ハルアキくん。
誰かの、優しい声が聞こえた。
そっと、背中が温かい光に後押しされる。
――私も、付いてる。
サーシャ、そして、リェール……。
そうだ、俺は一人じゃない。
俺を必用としてくれたこの世界と、俺を必用としてくれた人々のために。
俺は、必ず勝つ!
搾り出したような大声を上げる。
そして、黒い光を振り払い、カタストロフと激突。
振り下ろされる牙を叩き斬り、更に上空へ。
そして、カタストロフの顔の上に着地し、思いっきり剣を突き刺した。
おぞましい悲鳴が聞こえる。
「……リュウ、龍殺しの呪いって知ってるか?」
俺はおもむろにそう言い出した。
リュウは、俺の身体の中で首を振ったようだった。
「神に近い存在である龍を殺した者は、必ずその恨みを受ける。
それによって、呪われるんだ。
こいつを殺した瞬間、俺は……。
だから、ここで、憑依転身を解くぞ」
身体から、リュウの力を引き剥がそうとする。
リュウが抵抗するのが分かる。
赤い光が明滅しては、それを繰り返す。
そして、数秒後、俺はリュウを完全に引き剥がした。
「ハルアキ!」
リュウが叫ぶのが聞こえた。
俺は、リュウを置いて、刀を握ると、カタストロフに突き刺したまま、背中へ向けて走り出す。
傷が広がり、カタストロフが苦悶に呻いた。
白い光は、黒い龍を引き裂き、内側から滅していく。
青い光、赤い光がカタストロフの中から、まず消えた。
そして、カタストロフ自身の力も費える。
俺は、カタストロフが黒い光となって空中に浮かぶのを見ながら落下していった。
そして、呪術を使い落ちるスピードを落とす。
俺は、地面に降り立つと両手を広げた。
「来い、お前の怨念、一つ残らず受け止めてやる」
カタストロフが黒炎となり、俺にまとわり付いた。
闇が視界を多い尽くす。
痛みと、苦しみが、俺を苛んだ。
ゆっくりと目を瞑り、その全てを受け止める。
意識が遠のいていく。
そして、遂に俺の意識は断絶した




