ウィザーシュタット 厄災龍カタストロフ編 3
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ハルアキ視点
妖魔を次から次へと引き裂いていく。
カタストロフ程ではないが、ミカドもリュウも十分に化け物じみている。
手綱を守る攻防は始まったばかりだが、リュウの体力切れが懸念される。
「リュウ、敵に突っ込んで、炎を浴びせるぞ」
――分かった。
俺の案を呑むと、リュウはかなりのスピードで妖魔の大群の元へ飛んだ。
「通力を送る。
存分に、炎を食わせてやれ!」
――ああ。
俺達は同時に通力を放射した。
直後、莫大な熱が生み出され、妖魔をことごとく焼き払っていく。
「はひゅう」
直後、リュウはポンッという音と、気の抜ける声で元に戻った。
俺は、自分が落下していくのを感じた。
「はわわわ!
ハルアキ!」
慌ててリュウが俺のローブを引っ張り、羽を目一杯動かして飛ぼうとする。
確か、その羽は推力を生み出してないんじゃなかったか?
そう、頭の片隅で考える俺だったが、そうも言ってられないと思い、呪術を発動させる。
風を操り、浮力に換える。
渡空 宗風の術。
俺が浮き上がるのを、リュウは唖然とした様子で見ていた。
「飛べるならそう言ってくれよ!」
「巨大化が切れそうなのを忘れていたお前が悪い」
憤慨するリュウだったが、俺はまゆも動かさない。
「う、一理あるぜ……」
「ほう、その言葉を知っているとは、利口じゃないか」
「褒めるなよ、照れるぜ」
「褒めてないんだが……」
そんなふうに言いつつ、俺は作戦を頭の中で組み立てる。
さて、どうする?
俺は空は飛べるが、そこまで速くは飛べない。
機動性に難があるのだ。
のろのろ飛んでいると、カタストロフの身体に叩き落される事になるかもしれない。
と言う事は、憑依転身とやらをやるのが一番いいか……。
さて、どうやろうか。
憑依、転身。
この二つを一度にやる必要がある。
憑依だけ、転身だけ、と言うのはやった事がある。
憑依は妖魔を纏う術、転身は身体を別のものへと変化させる術。
恐らく、常時召喚型の召喚獣と憑依する際に、より高度に融合を完成させるため属性、および身体を変化させるものだ。
失敗するか、成功するか?
「リュウ、やってみるぞ、憑依転身」
「ふえ? 出来るのか? ハルアキ」
「だから、やってみるぞと言っただろうが」
「まさか、また思いつきか?」
「そうだ」
リュウは、今度はジタバタしなかった。
「オッケーだ。
俺はハルアキを信じるぜ!」
そう言って、翼をばさ、ばさ、と動かす。
俺はほくそ笑むと、リュウの身体を掴み、目を閉じる。
憑依させ、身体を別物へと変える……。
「憑依転身!」
そのイメージが固まった瞬間、俺は叫んだ。
瞬間、リュウが光の粒に変わり、俺の身体にまとわり付いた。
ミカド視点
いよいよ攻撃が熾烈になっていく中、ハルアキとリュウは、妖魔の多くを一掃した。
私も妖魔を次々と切り裂き、手綱を守る。
――ミカド、三匹手綱に向かっている。
ロロウの声が響く。
「く! 間に合わない!」
全速力で空を駆けるが、今にも妖魔は手綱に近づこうとしていた。
瞬間、赤い線が走った。
妖魔三匹が一瞬で引き裂かれる。
「ハルアキさん?」
そこには、赤い鱗を全身にまとい、紅蓮の炎をその身に宿した、ハルアキがいた。
瞳の色が赤く変わり、雁行が鋭くなっている。
赤い鱗は絶えず炎を放ち、背中から紅蓮の翼が生えている。
――ミカド、あれは……。
「はい、憑依転身じゃありませんね」
では、何だというのだ?
私は自問した。
「何をぼうっとしている?
妖魔を殲滅するぞ」
不意に、深い響きを持った声が、腹に響くように私に届いた。
私は何とか頷き、近くを通った妖魔を通力の剣で切り裂いた。
その後も妖魔を片っ端から切り裂いていく。
やがて、妖魔の大群の一部が、ここに到達する。
遂に、私とハルアキは妖魔をさばき切れなくなった。
「……ミカド。
全力で俺から離れろ」
何とか一匹でも多く倒そうと奮戦している時に、ハルアキの声が聞こえた。
疑問に思ったが、とにかくそれに従い、私はハルアキから離れた。
「万物誘引」
ハルアキはそう言って翼で自分の身体を覆った。
瞬間、妖魔達がハルアキの元に吸い寄せられる。
私は強烈な引力を感じ、必死に逆の方向に飛んだ。
「万物滅殺」
二度目の声……。
瞬間、莫大な熱を背中に感じた。
振り返って見ると、妖魔が全て消し炭になっていた。
「ロロウ、あれは何でしょうか?」
――俺にも分からん。
ロロウのくぐもった声が聞こえる。
――それより……。
「いえ、決着は着いたようですよ?」
ロロウが言う前に、私はカタストロフが雄叫びを上げるのを見た。




