アイスシュタット 玄武編 3
3
リュウ視点
ずっと馬に乗って進んだら森についた。
ここを越えれば、アイスシュタットに着くとマハードは言っていった。
ひたすら続く雪の野原に、俺は正直に言うとうんざりしていたからここまで来たのは嬉しかったけど、ハルアキに会えるかどうかは分からない。
そうマハードには何回も言われた。
でも、我慢できなかった。
それにハルアキはこの向こうに居ると思うんだ。
「へっくし!」
正直な所、俺は風邪を引いちゃったらしい。
何回も何回もくしゃみを繰り返して、マハードには大分心配されたみたいだから、正直申し訳ないと思う。
「寒いのかい?」
いきなり、さっき会ったハイリンヒって言う奴が俺に話しかけてきた。
「そ、そんなことねーぜ」
強がるのが男の道だ。
ハルアキの奴には何回も鼻で笑われたけど……。
やっぱり、男たるもの心意気が無いとダメだよな。
そんな事を思っていたらハルアキの気配を感じたくて、俺は森を見た。
沢山の木が突っ立ってる。
何となく気が沈む暗い森だった。
でも、ハルアキに会いたい。
俺は馬を降りたマハードの懐から飛び出した。
マハードたちは馬を降りて馬に向かって何かをぶつぶつ言っていた。
「何やってんだよう!? 早く行こうぜ!」
俺は少しイライラしながら二人に呼びかけた。
「リュウ、急いては事を仕損じる。
馬に魔法をかける時間位は欲しいのだがな」
「あ……」
俺は急に恥ずかしくなった。
気ばっかり焦って二人の事を考えていなかったのに俺は気付いた。
「ごめん」
地面を見て、俺は翼をぱたりと動かした。
「ごめん」
繰り返す……。
そう言えば、ハルアキにも言われたっけ。
せっかちが過ぎると、損をする。
そうやって、叱られた。
「ごめん、ハルアキに会いたくて……」
「別に悪い事ではない」
「そうだよ、謝る必要は無い」
二人の優しい言葉に、俺は頭を下げてため息を吐く。
「ごめんよう……」
とにかく、謝る。
そんな必要は無い事くらい分かっているはずなのに……。
「さあ、行こう、リュウ」
「そうそう、しょげてたって仕方ないよ」
「うん、そうだな……」
俺は、ぱたっ、ぱたっと羽を動かした。
その次に、空元気って奴だったけど俺は力こぶを作って見せた。
二人がくすりと笑う。
「っくし!」
「リュウ、僕の荷物袋の中に入ってなよ」
ハイリンヒが呼びかけるので、俺は頷いてハイリンヒの方に進んだ。
どうやら完全に風邪を引いたようなのでもう隠そうとはしないでおこうと思った。
俺は、茶色のリュックの中に潜りこんで顔だけを出した。
すると、リュックの中がすごく暖かいのに気付いた。
「あれ? 何でこんなに暖かいんだ?」
「状態保存魔法だよ。
本当は食事を保存するためにかけたんだけど暖炉の側に置いていたから、暖められていたままの状態になっているんだ。
君は風邪を引いたみたいだね?
早く言ってくれれば、入れて上げられたのに」
「ごめんよう」
今日何度も謝っているけど、やっぱり、謝らずにはいられない。
またも二人はくすりと笑った。
俺は恥ずかしくなってリュックの中に首を突っ込んだ。
4
森にいる間は妖魔が何度と無く襲ってきたけど、基本的にマハードとハイリンヒが何とかしてくれた。
ハイリンヒは剣術も出来るみたいで、マハードには遠く及ばないけど、妖魔と戦う事が出来ていた。
ハイリンヒが言うには、お祖父ちゃんの教えで色々なことを習ったらしい。
妖魔と渡り合うには剣や槍の攻撃をするしかない。
他には『かやく』っていうものを使った攻撃もあるらしいけど、俺にはよく分からない。
森の中にいる変な妖魔が寄ってこなくなった頃、俺達は向こうに街が見える崖に差し掛かった。
空はひたすら曇っていて、ぱらぱらと雪が降っている。
向こうの街は目視できるか出来ないかくらい。
崖は雪に覆われていて、少し油断をすれば滑り落ちそうだ。
「リュウ、お前の翼なら街に直行できるが、大事を取って共に行こう。
妖魔に襲われないとも限らん」
俺達が行くのは崖の上を伝って大きく遠回りした道。
もどかしかったけど、俺はリュックから顔を出し、その言葉に頷いた。
しばらく歩き、俺達は一際高い道に差し掛かった。
そんな中……、
前方に、白い豹みたいな妖魔を連れた男が歩いてくる。
顔は黒いローブに隠れ、よく見えない。
妖魔はこちらを睨みつけている。
すごい形相の目……。
細い滑らかな身体……。
白くて雪と区別がつかない。
白い毛並みに点々と黒点がある。
俺と同じだ!
じょーじしょうかんがたの、妖魔だ!
という事は、アイツは呪術者?
もしかして、ハルアキ!?
そんな期待を一瞬したけど、そんな分けない事くらい、十分知ってた。
男はローブのフードを取った。
豹と同じで鋭い目つき、でもかなり整った顔だった。
ローブが風に揺れて、黒くさらりとした長髪が揺れる。
こいつ、かなり強い!
そう、悟った。
「どちらがハルアキだ?」
鋭く、静かな声が届く……。
「どちらも違う」
「そうか……」
マハードが切り返すと、男はしばらく沈黙した。
「まあ、良い。
その妖魔を差し出せ」
当然のことだけど、俺の事を言っている。
「悪いが、承服しかねる」
マハードが、剣を構えてその男に向かい合った。
「やる気みたいよ? レオ?」
「の、ようだな……」
いきなり、豹のような妖魔が男に話しかける。
女か?
レオと呼ばれた男は軽く頷いた。
次にばっとローブを開いてその下の姿を見せる。
着物だった。
ハルアキと俺がいた世界の服の一つだった。
「ササメ」
「ええ」
男は、ローブの懐から白い石を取り出した。
「あれは! 魔法石!?」
ハイリンヒが叫んだ。
「その通り、これをササメに食わせれば、何が起こるか位は分かるな?」
「まずい! ハイリンヒ殿! リュウに魔力を!」
「え?」
ハイリンヒが首を傾げた。
瞬間、男の方から莫大な光が発せられた。
莫大な音が響いた。
見えるものが全部黒に包まれた。




