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ニート陰陽師が異世界に召喚されました  作者: 若槻 幸仁
グランシュタット 白虎編
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グランシュタット 白虎編 7

      9


 翌朝、ハイリンヒの下へ訪れると、嬉しそうにハイリンヒがカウンターから出てきた。


「いらっしゃいませ、ハルアキさん!」


 ハイリンヒが挨拶した。

 俺は、軽く腕を上げ、それに応える。


「魔法剣の作り方を教えて欲しい。

 どうやら、その技術が必要らしいからな」


「ああ、その話なんですけど。

 貴方がやらなくても、何とかなるかも知れません」


「どういうことだ?」


 職人独特の、深遠な光を宿した目を見て、俺は試すように言った。

 ハイリンヒは右手をこちらに差し出した。

 その手に何かが乗っている。

 手のひらサイズの、水晶玉のような球体。


「僅かに、通力を感じる……。

 何だ、これは?」


「通力を貯めておける球体です。

 祖父が研究をしていたものなんですが、これに通力を貯めて、僕がこの球体から通力を剣に送り込めば、貴方がやらずとも僕がやれば、出来るかもしれません。

 魔法陣の構造は難しいですけど、多分、何とかなると思います」


「そうか」


 俺があごに手をあてながら頷くと、ハイリンヒは更に続ける。


「三日、時間が必要です。

 その間、僕のアシスタントをしてくれますか?」


 少し、目がいたずらっぽい光を帯びたように見えて、俺は、どんな事を言い出すのか気を揉んだが、それほどのことも無かったので、軽く首肯する。


「じゃあ、一緒に買い物に行きましょう!

 食料が大量に必要ですから!」


「構わない」


 再び首肯すると、ハイリンヒは可愛らしい笑顔を俺に向けた。

 

「アンタ、本当に男なのか?」


 ふと、俺は確かめたくなってくる。


「……確かめてみますか? 脱がせて」


「笑えない冗談を言うな」


「割と本気ですよ? 女の子だったら万々歳じゃないですか」


 ………………、

 空白。


「悪いな、男の身体に興味があるわけでもないが、かといって、女の身体にも興味は無いんだ」


 空白の後に、何とか軽口で応えた俺に、ハイリンヒは口を尖らせて俺を少し睨んだ後、急に表情を緩めて言う。


「うーん、僕、そこら辺の女の子より、ずっと可愛いと思うんですけど、それでも興味は湧きませんか?」


「自覚があるんだな?」


 手に負えず、である。


「自覚ってことは、ハルアキさんもそう思っているって事でしょう?

 ふふっ、嬉しいなあ」


 ハイリンヒは、本当に嬉しそうに言った。

 気色が悪い。

 男だったとしても女だったとしても、こんな奴がこの世界で一番の杖つくりとは、世も末か?

ああ、そうか、本当に世界は終末に差し掛かっているのか……。

世界は、呪術師に占領され、人々は妖魔に怯え暮らしている。


 まあ、それは、今は置いておこう。

 俺は、右手を振り上げた。



 

 賑わう町の中で、俺とハイリンヒは歩いていた。


「殴ること無いじゃないですかあ」


 何だか、リュウを引っぱたいた後に文句を言ってくる感じを思い出して、俺は僅かに笑った。


「ああ、笑ったあ! ハルアキさんは、年下の少年、または少女を傷つけて、性的な欲求を充足する人間なんですね?

 つまり、異常性嗜好の持ち主なんですね!?」


「異常性思考? それは何だ?

 絶対に褒め言葉じゃない気がするが……」


「思考じゃなくて、嗜好です。

 考えることじゃなくて、何かを特に好むことです!

 そして、異常性ではなく、異常な性です!」


「異常な性? 嗜好の意味ぐらいは分かるが……。

 初めて聞く言葉だな」



 俺が、首を傾げていると、ハイリンヒが講釈を垂れる。


「その昔、グランシュタットには、いかがわしい店がそこら中にあったのです」


「いかがわしい店? 国家に認められない武器を違法に売っていた、とかか?」


「違います! 文脈から察してください!」


「文脈? 済まない。

その前の会話の意味も分からないから、文脈を読もうにも……」


 ハイリンヒはしばらく俺の顔をじっと見た。

 俺は、首を傾げながら見返す。


「どうやら、本当に分かってないようですね?」


「だから、そう言ってるだろ?」


「信じられないんですよ!

 その歳になってまで、性のことに無頓着だなんて……」


「性くらいしっているさ」


「じゃあ、子供がどうやって出来るか分かるんですか?」


 俺はとりあえず答えようとするが、何だか自分でも自信が無くなって来た。

 俺は、性について、どれ位の事を知っているだろう?


 思い出す。

 そうだ、最初に子供がどうやって生まれるかについて興味を持ったのは、本当に子供の頃だ……。

 確か、生島に「子供ってどうやって作るの?」と聞いたのが発端だ。

 生島は、「コウノトリが運んできてくれるのです」とだけ言った。 

 生島が間違った情報を俺に流すとは思えない。

 つまり、これが正解だ。


「コウノトリが持ってくるんだろ?」


 俺が言い放つと、ハイリンヒはしばらく俺の顔を信じられないものを見るかのように見つめ、口をあんぐり開けた。


「本気で言ってるんですか? ハルアキさん。

コウノトリの意味は分からないですけど、絶対、その人は、その場しのぎの嘘を言っています!」


 ハイリンヒの言葉に、俺は少しむっと来て、反論する。


「いや、確かな情報源から仕入れた情報だ。

 間違いであるはずが無い」


「それ、何歳の頃に仕入れた情報ですか?」


「六歳くらいだと思うが……」


 途端に、俺を可愛そうな目で見るハイリンヒ……。

 何なんだ一体?

 そう思いながら、俺はもう一度首を傾げた。

 今日何度目だろうか?


「こうなったら、僕がハルアキさんに教えて差し上げて……。

 でも、さすがに恥ずかしいかも、でも先っちょくらいなら」


 ハイリンヒがぶつぶつ呟く。

先っちょ? と心の中で疑問を発する。

また、首を傾げてしまった。


「ここは少しずつ、まずは、どの程度知識があるのか調べよう!」


 ハイリンヒは考えをまとめたようだった。

 そして、俺の顔を真っ直ぐ見つめ、質問を始めた。


「ええと、処女って分かりますか?」


「それ位は分かる。

 穢れを知らない女のことだ。

 だが、そうだ、穢れるってどういうことなのかを聞いたら、苦い顔をされて、また今度、と言われたな。

あれはどういうことなんだ?」


 ハイリンヒは驚愕の表情を浮かべた。


「じゃ、じゃあ、童貞は?」


 気を取り直して、と言わんばかりのやり方でハイリンヒは驚きを受け流すと、そう聞いてきた。


「どうてい、か……。

 どうてい、どうてい。

 記憶に無い言葉だ」


 またも、驚愕……。

 ちなみに、道程の事ではないことは何となく分かっていたので、何も言わなかった。


「じゃ、じゃあ、一物いちもつとか……」


「一物……。腹に一物、とかのあれか?」


「間違ってないけれど!」


 またも驚愕である。


 その後も、質問が重なっていくのだが、その度にハイリンヒは驚愕を露にして、可愛そうな目で俺を見てくるのだった。

 しかし、コウノトリの話は確かな物のはずだ。

 他の質問も腑に落ちない所はあったが、それだけは譲れない。


「まあ、買い物を済ませよう」


 それだけを言って、俺は歩き出した。

 そんな中、俺の腕に細い腕が絡みつく。

 ハイリンヒの腕だ。


「少しずつ覚えていきましょう!

 これがデートをする時の格好です」


「それ位は知っている。

 あまり馬鹿にするな。

 そして、暑い」


「ハルアキさんが一人前になるまで僕が色々手解きをしますので、覚悟してください」


「? 魔法剣を作るやり方はもう覚えなくていいんじゃないのか?」


「そういう意味じゃないんですが……」


 全体的に腑に落ちない事ばかりだったが、俺はそれ以上何も言わなかった。

 ハイリンヒは、俺の右腕に頬を擦り付けている。

 俺は、はあ、とため息を吐いた。

 何だか、自分の無知が露見されたように思えた。

 結構色々な事を知っている自負があったのだが……。

 まあ、知らなくてもいい事もあるのだから、覚えないでもいいだろう。

 そう結論付け、俺はトマトを売っている店を見つけて、早足で歩き出した。


      10


サーシャ視点


 ハルアキくんが女の子と腕を組んで歩いていたと言う話を討伐隊の人から聞いて、私はまさかと思いながら、ハルアキくんの所、もとい、ハイリンヒの工房に向かった。

 あんな話をした後に、ハルアキくんがそんな事をするとは思えない。

 きっと、何かの間違いであろうと私は思っていた。


 私は、綺麗に磨かれた家を前に、すっと息を吐いていた。

 深呼吸、深呼吸。

 そして、中に入ろうとする。

 ここに居れば、恐らくその噂は嘘だ。

 だが、中から声が聞こえてきたのだ。


「あ、駄目、ハルアキ、そこは……」


「手退けろよ、見えないだろ?」


 妙になまめかしい、女の子と思われる声と、意地悪そうなハルアキくんの声が聞こえた。


「う、あ、ハルアキの意地悪」


「意地悪で結構」


 何だか、ハルアキくんの声がいつもより数段生き生きとしている。


「ほら、もっと速く動かせよ、さっきから腕が止まってばかりじゃないか」


「だって、ハルアキが酷い事ばっかりするから……」


 事ここに至っては、情状酌量の余地なし、と見た私は、一気に店の中に踏み込んだ。

 ドアの札がクローズになっているのにもお構い無しである。


「ハルアキ! くん……」


 鋭い声でハルアキくんの名前を呼ぼうとしたが、竜頭蛇尾というか、とにかく、声がしぼんでいった。

 ハルアキくんと女の子(?)は、チェスで遊んでいたのだ。

 つまり、手退けろよ、とか、酷い事、とかは別にいかがわしい事をやっていた訳ではなくて……。


「どうした? サーシャ」


 ハルアキくんは首を傾げた。


「あ、何でもない、かな……」


私が、羞恥に耐え兼ねそうになったのを見て取ったか、ハルアキくんはフッと笑って話題を切り替えてくれる。


「チェスをやっていたんだが、お前もやってみるか?」


 ハルアキくんが、そう言うと、女の子(?)は私の顔をしげしげと見て、次にハルアキくんに向き直る。


「ハルアキさん、この方は誰ですか?」


「ああ、こいつはサーシャ。

四神討伐の旅に同行してくれている」


「そうですか。

 よろしくお願いします、サーシャさん。

 ハイリンヒと言います」


 その言葉に、私はしばし沈黙した。

 そして、ようやっと言葉を紡ぐ。


「貴方が、ハイリンヒなの?」


「はい。そうです」


 ハイリンヒは、軽く頷いた。


「女の子だったんだ……」


「僕に初めて杖つくりを依頼した人もそう言いました。

 どっちだと思いますか?」


「え? じゃあ、男の子?」


 私は、目を白黒させて、目の前の性別不詳の子供を見つめた。


「どうでしょうね?

 ハルアキは僕の服を脱がせて確認しようとしましたけど、貴方はどうしますか? 脱がせて見ますか?」

 

 重大な何かが聞こえた気がした。


「ハイリンヒ、サーシャが本気にするから、悪い冗談を言うな」


「えー? でも、確かめたいって確かに言いましたよね?」


「お前は本当に男なのかと聞いただけだ」


 その言葉を聞いて、安堵はしたものの、少し不安だ。

ハイリンヒの性別は分からず仕舞だし。

 二人は、この空間で、半日以上一緒に居た事になるし。

 何だか、ハイリンヒさんはハルアキくんに熱い眼差しを送っているように見えるし。


「あ、そうだ!」


 と、話題の転換を図るべく私は大きな声で切り出した。


「ハルアキくん!

 リュウちゃんが、待ち遠しくしてるよ?

 皆、そろそろ集まってる。

 料理しなくちゃ!」


「ああ、それなら大丈夫だ。

 この店の厨房で作った。

 しかし、ここには大抵のものはあるんだな?」


 私からハイリンヒさんへと、関心事が移る。

 また、少し私は不安になった。


「そうですね、何でもあるって訳じゃないですけど、祖父は色んな事を極めようと、色々研究していましたから」


「なるほど、生きていたら、会いたかったものだ。

 その人物像には、共感できるものがある」


「僕も、ハルアキさんって、おじいちゃんに似ていると思うんです!

 僕、重度のお爺ちゃんっ子だったので、甘えたくなるって言うか……」


 そう言いながら、ハイリンヒさんは、立ち上がったハルアキくんに寄りかかり、その腕に自分の腕を絡めた。


「いや、むしろ興奮します!」


 ハルアキくんは腕を振り上げた……。


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