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ニート陰陽師が異世界に召喚されました  作者: 若槻 幸仁
グランシュタット 白虎編
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グランシュタット 白虎編 5

      7


 兵士達の様子は俺が想像していたのとは違っていた。

 皆、概ね笑顔で肩を叩き合っている。


 俺とすれ違い様に賞賛の声を掛けてくるものもいた。


「意外か?」


 不意に、マハードの声が聞こえた。

 俺は振り返り、マハードに目を向ける。

 マハードのマントが風に揺れる。

 俺はマハードから目を逸らし、谷の底を見ると「ああ」と頷いた。


「言ってみれば、俺は新参者だからな。

 そいつに従って作戦を立てたのに、何の成果も得られなかった。

 責められても文句は言えない場面だ」


「いや、皆ここまで白虎を追い詰めたことは無い。

 むしろ、貴殿に感謝しているくらいだ。

 今まで白虎をこの谷まで誘導して、街から遠ざけるくらいのことしか出来なかった。

 その過程で、何人もの兵士が死んでいったが、今回は一人も死んでいない。

 我々は、正直、希望を見出すことは出来なかったのだが。

 今回、希望を見出せた。

 私からも感謝する」


 マハードは、強健そうな印象を与える顔を緩め、俺に笑いかけた。


「だが、同じ手は使えないぞ?

 白虎も馬鹿じゃない。

 少なくとも、リュウの四倍の知能はある」


「ハルアキ!

 あいつ、喋れないんだぞ!?

 絶対俺の方が頭良いって!」


 リュウがギャーギャーわめくが、俺は気にしない。


「とにかく、新しい作戦を立てる必要があるんだ」


「そうだな、だが今日は、祝いの酒を酌み交わさないか?」


「俺は、まだ十八歳だ」


「十分ではないか?

 十六歳が成人だ」


 一瞬戸惑ったが、俺はここが俺の住む世界とは違う世界なのだと思い至る。


「悪いな、酒は儀式の為に少し飲んだとことがあるくらいなんだが、その時すぐに頭がぼーっとしてしまってな。

 あれ以上飲むとやばそうだ」


「そうか、だが、料理も振舞うつもりだが?」


「……正直に言おう。

 宴席というものが嫌いなんだ。

 だから、済まないな」


「だが、貴殿が主役なのだぞ?」


 思ったよりしつこいマハードに、俺は少し意外に思ったがやがて頷いた。


「分かった。

 だけど、酒宴が興ざめになることは承知しておけよ?」


「承知だ」


 冗談と受け取ったようだが、俺は実際の所、冗談半分、本気半分と言ったところ……。


「ハルアキくーん!」


 ふと、サーシャがこちらに手を振りながら走ってくるのが見えた。


「ハルアキ、手を振り返せ!

 きっと、サーシャが喜ぶ!」


「何で俺がアイツを喜ばさなきゃならない?

 お前が手を振ってやれ」


「それじゃあ、意味無いっての!」


 リュウがお説教モードに突入するが、俺は気にしない。

 サーシャが俺達の下に駆け寄ってなお、説教は続いたが、いい加減疲れたのか、リュウは肩で息を吐き、力なく、翼をパタ、パタと動かした後、沈黙する。


「ハルアキくんもリュウちゃんもすごかった。

 次は、きっと倒せるね?」


「さあ、どうかな?」


 俺は肩をすくめてなんとも言えないと、言外に示した。


「それと、リュウちゃんは大丈夫かな?

 白虎の攻撃を食らったように見えたけど……」


「それなら大丈夫だ。

 俺の通力で治したし、治さなくてもその内回復していたさ」


「うん! 俺は全然平気だぜ!」


 リュウは元気よく翼をはためかせ、右手で力こぶを作った。


「そっか、良かった。

 ハルアキくんは、怪我無いかな?」


「俺が傷を追うわけがないだろ?

 杞憂だ」


 俺が不遜にもそう言うと、サーシャはくすくすと笑った。


「それは、俺が守ってやったからだろ!? ハルアキ!」


「あれは余計なお世話だ。

 俺は結界術も使える。

 一撃くらいなら防げたさ」


 リュウの文句に、俺は素知らぬ顔で応じた。

 そんな俺に、リュウは唇をきゅっと結んで「ふんだ!」とそっぽを向く。

 サーシャは、苦笑いをしながら、そんな様子を見ていた。


 そんな中、俺はリュウの頭に手を置き、ポンと叩いた。


「な、なんだよう?」


 少しだけ嬉しそうな素振りで頭を振って、手を退けようとするリュウに、俺は柄にも無いと思いながら、そっと言った。


「まあ、助かったのも事実だ。

トマト、買ってやる。

 それとも、トマト料理がいいか?」


「まじで!?

 作ってくれるのか?」


「ああ」


 リュウの喜びように俺はフッと笑いながら、歩き出した。


「トマト料理といえば、ミートスパゲッティか……。

 サーシャ、ミートスパゲッティっていう料理を知ってるか?」


 俺は後ろについて来るサーシャに問い掛ける。


「ミートスパゲッティ?

 ごめんなさい、知らないかな……」


 そうか、と呟き、俺は顎に手を当てた。

 となると、この世界にレシピは無いのか……。

そして何より、パスタも無い。

 パスタを作るのは、さすがの俺でも無理だ。

 まあ、いいか。

 とりあえず、今やることは決まっている。


「休息を取ったら、食材を買いに行く。

 それでいいよな?」


「分かったぜ!

 でも、楽しみだなあ」


 俺の料理のスキルについては、親父からでも聞いていたのだろうか?

 色々な事を極める過程で、俺は料理にも興味を持ったが、あれは一ヶ月くらい持った。

 しかし、まだまだ学びきれことも多かったので、時々資料を集めたりしているのだが、料理は奥が深い。

 だが、そんな俺でも、生島の料理には敵わなかったな……。

 それにしても、生島はどうしているだろう?

 きっと、アイツは、俺がこの世界にいる事を知っている。

 情報源は、やはり親父だろうが……。

 

 生島の料理が食べたいな……。

 そう、思った。


 子供のころは、今のリュウのように生島が料理をして、皆で食べるときは、いつもわくわくしていたっけ?


 戻りたいとは思わない。

 それでも、懐かしいとは思う。

 人を愛せた時代が……。

 生島を好きになれていた時代が……。


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