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ニート陰陽師が異世界に召喚されました  作者: 若槻 幸仁
グランシュタット 白虎編
13/39

グランシュタット 白虎編 3

 

    5


「と言う訳だ」


 サーシャとマハードを前に、俺は軽く事情を説明していた。

 白虎討伐隊の本部の会議室。

 石造りの、ひんやりとした部屋……。

 燭台があるが、今は蝋燭に火は灯っていない。

 中心にあるテーブルを囲んでたちは座っていた。


「なるほど、その刀を直すことで戦力が増えるかもしれないと言うことか……」


「何でも、複雑な魔法陣が施されているらしい。

 どんな力を持っているか知らないが、ハイリンヒの話から察するに、相当な力を持っているんだろうな」


 マハードが「ふむ」と頭を振り俺に視線を合わせる。


「貴殿は、その剣の製作に携わると言うことだな?」


「ああ、どうやら、直せるのは俺だけらしいからな。

 それに、白虎を倒す意外に目的も見つからないから俺はそうしようと思う

 もちろん、白虎が出現すれば、俺も戦う。

 安心しろ、報せをくれれば、どこにだって駆けつけるさ」


 マハードが一瞬、険しい目つきになったのを見て取って、俺はそう付け足した。


「分かった。

 私に異論は無い」


 マハードが頷いたので、俺も頷き返し、次にサーシャを見た。


「アンタも、それでいいか?」


「うん、いいけど、リュウとは、どうするの?

相棒でしょ?

 一緒にいなくていいの?」


「リュウはアンタと一緒の方が力を発揮できる。

 それに、俺みたいなのと一緒にいるのは、嫌なはずだ。

 アンタが、一緒にいてやってくれ」


「それでいいんだ?」


「それでいい」


 サーシャは目を瞑って、ため息を吐いた。


「キミ、言うほど嫌な奴じゃないよ?」


 不意にはなたれた言葉に、俺は沈黙する。


「気を遣って……」


「気を遣ったわけじゃない!」


「くれて、ありがとう」と続けようとしたらサーシャが立ち上がり、机を叩いた。

 俺は、今一度沈黙を余儀なくされる。

 サーシャの怒りの意味が分からない。

 険しく眇められた目に、俺はしばし見入った。

 改めて、整った容姿だと思う。

 だが、今は悲しそうにその顔は歪められている。


「リュウは、貴方のこと、嫌いじゃないし、私だって……」


 言いかけて、サーシャの顔はかあっと赤くなった。

 その意味は、俺には理解できなかった。

 マハードが部屋を去る。

 沈黙が続く。


 サーシャは、泣いていた。

 その意味すらも、俺には分からない……。

 理解できない。

 いや、受け止められないという方が正しいか。

 

「アンタが、俺を立ててくれるのは嬉しいんだが、やっぱり俺みたいな人間が他人に好かれるってことは、信じられない。

 俺は、アンタがいくら言ってくれても、多分嘘だと思い続けるんだと思う。

 だから、ごめん。

 無理だ。

 アンタが泣いても、俺はなんとも思わないんだ」


 サーシャが目を見開く。

 不意に、頬を熱いと感じた。

 次に、それが痛みだと気付いた。

 その次に、自分が叩かれたことに気付いた、

 そして、それがサーシャが放った平手打ちだと気付いた。


「馬鹿!」


 サーシャは、そのまま出て行った。


「やれやれ、勘違いされたらどうするつもりだ?」


 それでもなお、俺にはそんな気持ちしか浮かんでこない……。

 密室で、男をののしりながら涙を浮かべて出て行く女。

 下世話な人間が見れば、何が起きたかを誤認するかもしれない。

 俺は頬を押さえ、鼻を鳴らす。


 こっちの世界に来てまで、こんな思いをするとはな……。

 そう思って、俺は笑った。

 小さく、漏らすような笑みだ。


 こういう話がある。

 ある為政者が、力を得るために自分の子供の身体を妖魔に捧げ、力を得て繁栄を手にしたという話が……。

 それと似たようなものだ。

 と言うより、それをベースにして俺は力を得た。

 しかし、他人の一部ではなく、自分の一部。

 誰かを愛する心の機能……。

 陰陽師には必要ないと判断され、俺はそれを失った。

 

 何度も他人を愛せないのに悩んだが、妖魔を倒すことで自分の存在価値を示すことが出来た俺は、この前、この世界に来る前よりはずっとマシな気分だった。

 だけど、妖魔がある日突然消え去ってしまえば、俺には苦しみしか待っていなかった。

 だから、俺は難しいことに挑戦して気を紛らわせていた。


 俺は頭を掻いてため息をつく。

 

 不意に、パタパタと羽ばたく音が聞こえた。


「ハルアキ」


「どうした? リュウ」


「サーシャは、本気だぜ?」


 どこからともなく湧いて出たリュウは神妙な面持ちで言った。

 実は、表情はよく分からないのだが、何となく、そんな気がしたのだ。


「かもな」


 俺は、宙を見上げ、次に目を瞑りながら言った。


「どうしたんだ? 

 『もう、知らない』って言ってたろ?」


 俺は、平坦な口調で問う。


「冬樹が言ってたんだ。

 ハルアキは、ぶっきらぼうだから。

 何か嫌味を言うかもしれないけど、許してやってくれってさ」


「恩着せがましい、言い方だ……」


 俺は、鼻の先で笑った。

 しかし、リュウは気を悪くした様子も無く、話し出す。


「俺、冬樹にはお世話になったから、お前を全力で助ける」


リュウは「それに」と、続ける。


「お前は、嫌な奴だと思ったけどさ、トマトを買ってくれたり、俺が眠い時に懐に入れてくれたり、実はいい奴だから。

 お前の為に、俺は力を貸す。

 馬鹿で悪いけど、俺は本気だぜ?」


「そうか……」


 俺は、奇妙な感覚を覚えながら、リュウの頭に手を置いた。


「何だよう?」


 リュウはくすぐったそうに、目を細める。

 俺は、二三度撫でると、手を放した。


 不意に、警鐘が鳴った。


「白虎だ!」


 次に、そんな声……。


「行くぞ、リュウ」


 俺は、リュウに背を向け、走り出した。


「そう来なくっちゃ!」


 対して、リュウは気合満々といった様子で、俺に付いてくる。


 先程覚えた不思議な感情を胸に、俺は走り出す。


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