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毒舌男と毒舌幼女

作者: pluet

三人称練習作。



 ◆ 公園 ◆



 徐々に寒さも和らぎ、少しずつ桜が散り始めるとある春の日。

 一人の男が公園のベンチに背を預けて、紫煙を燻らせていた。



 その御崎(みさき)という青年は、大学の講義を終え、アルバイトの時間が来るまで暇を潰していた。

 何をするでもなく、タバコを咥えながら風に散らされる桜を眺めている。

 とはいえ別に風情を感じているだとか、そんな情緒溢れるわけでもない彼はただ胡乱気に見ているだけである。


 そこへ――


 「こんにちは! おにいちゃん!」


 しゅたっと、手を上げて元気よく挨拶をする少女が現れる。年の頃は10歳前後といったところか。手を上げた反動で長く艶やかな黒い髪が揺れている。

 彼女の名は美雪といい、この公園の向かい側にある小学校に通う少女であり、家族のお迎えを待っているところである。


 ちなみに、兄と呼ばれたこの御崎は兄弟姉妹はおらず、また、この少女のお迎え役でもない。

 二人はここでよく顔をあわせる程度の知り合いに過ぎなかった。


 御崎はそんな少女を視界に収めると同時に顔を(しか)めた。

 鬱陶しいのが来やがった、と雄弁に語るその顔を隠そうともせずにポケットから携帯灰皿を取り出した。

 まだ吸い始めたばかりだってのに、勿体ねぇ。と愚痴りながらもタバコを突っ込む。


 「あーあー、無闇に元気で結構なことだな」

 「もうっ、せっかくわたしがお兄ちゃんみたいな愚民に挨拶してるんだから、ちゃんと挨拶しないとダメだよ、おにいちゃん? まったく、ママから教えてもらわなかったの?」


 やれやれとでも言いたげに、肩をすくめる美雪。

 その姿が様になってるのが余計に御崎の神経を逆なでる。

 頬がひくつくのを自覚しながらも、彼は皮肉には皮肉で返していく。


 「残念ながら、ウチの家訓にゃ人を愚民呼ばわりする幼女に挨拶をしろなんて項目はないんだ」

 「そっかー、まあしょうがないよね。家訓は【金と権力と女が全て】っていつも言ってるもんね!」

 「言ってねぇ」


 御崎のノータイムの反論も、美雪は聞く様子もない。


 「ま、いっか。おにいちゃんに挨拶されても鳥肌が立っちゃうだけだもんね。きもちわるいから」

 「よっし、その喧嘩を買ってやろう。改めてこんにちはだ、クソ幼女。本日は大変いいお日柄ですね。気持ちのいい春の日差しが、お前の所為で台無しだ」


 これでもかと言わんばかりの笑顔を添えて言ってのける。

 そんな御崎を見た美雪はぶるりと身体を震わせる。


 「うっわぁ、ほんとに鳥肌立っちゃった! ほら、見てよ!」

 「ハハ、そうだな。ざまぁない」

 「わあ、こんないたいけな美少女に向かってひどい! 肺がんになっちゃえ!」


 増税にも負けずに吸い続ける御崎にとっては割りと現実味のある話である。


 「おいおい、俺が肺がんなんぞに掛かるわけないだろう? 掛かりつけの医者にも貴方の肺はお腹と同じイイ色をしてますねと褒められるくらいなんだぜ?」

 「つまり腹黒で、肺も真っ黒ってことだよね。わたし知ってるよ、そのお医者さんの弱みを握ってご飯をたかってるって!」

 「ひでぇ言い草だな、おい。アレは向こうから奢らせてくださいって言ってくるだけだぞ」

 「弱み握ってるのは否定しないんだね、最低!」


 そんな罵倒に(こた)えた様子を見せもせず御崎はベンチから腰を上げる。

 公園の時計の針はアルバイトの10分前を指そうとしていたからだ。


 突然立ち上がった御崎に首を傾げつつも、美雪は尋ねる。

 

 「あれ、もう帰っちゃうの? いつも会社に居場所がないサラリーマンみたいにここで居座ってるのに」

 「おまえは全国の働くお父さん方にごめんなさいしないといけないな」

 「あ、そうだね。いくらお昼にハトさん達に餌をあげてる寂しいおじさん達でも、おにいちゃんみたいな人と比べるなんて失礼だもんね。ごめんなさいっ」


 ぺこりと道行くサラリーマンに頭を下げる美雪。失礼なのはお前のほうだし、一度辞書で謝るという言葉を引いた方がいいなと、思った。

 しかし、それは口に出さず代わりの言葉を放った。


 「そうだな、そして俺にもゴメンナサイをしような」

 「嫌!」


 たった一文字のその言葉を眩しいほどの笑顔で言い切った。

 渇いた笑いを浮かべながら、御崎の額に血管が浮きあがる。しかし、ここで手を出したらこちらの負けだと言い聞かせ、自制した。

 いつかその可愛らしいおでこに、風穴が開きそうなほど全力ででこピンをぶち込んでやると誓いながらではあったが。


 「じゃあ、俺はこれからバイトなんでな。ここらで帰らせてもらう。

 ああ、そうそう最近物騒だから、一人でできるだけ暗くて人気のない道を通って帰れよ」

 「うん、おにいちゃんもバイト先に強盗とか来ればいいね! バイバイ!」


 そう言って元気よく手を振るミユキに後ろ手に振り返してやりながら、バイト先に向かっていく。






 御崎は非常に腹立たしかったが、存外いい暇つぶしだったと思い。

 美雪は迎えに来た姉と手を繋いで、先ほどの会話を楽しそうに語りながら家路着いた。






読了感謝です。


三人称の練習とは言ったものの、書いていて違和感がひどい。

今後の質の向上のために、できれば何かご意見などをいただけるとありがたいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 三人称に関しては特に問題はありませんよ、充分おもしろいです。
2012/07/05 10:33 退会済み
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