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Magick.7


 大会まで、一ヶ月足らず。

 テレジア嬢の声が今日も朝から響き渡っています。

「ドーナー・ノービース・パーケム」

 魔方陣も使いこなせるようになってきているみたいですよ。さすがに毎日練習しているだけのことはありますね。


「テレジア、おいしい紅茶が入りましたよ」

「魔法の練習もいいけど、たまには休憩なさい」


「はい」

 テレジア嬢も、お母様の言うことだけはしっかりと聞くみたいです。


「テレジア、練習は順調?」


「はいお母様。魔方陣を使いこなせるようになってきました」

「今日は、位置探索の魔方陣の練習をしてましたの」


「テレジアは誰に似たのかしら?あの人も私も、魔法なんてあまり使えないのにねぇ」


「じゃあ、おばあ様かしら?魔法を使ってらっしゃらなかったの?」


「あまり私たちの前では使ったのを見たことがなかったわね」


「お母様には兄上がいたと聞いていますわ」


「ええ、いたわ。でも私が小さな頃に家を出て以来、今も会えずにいるの」


「どこにいらっしゃるの?」


「噂では、世界中を旅してるとか・・・」


「どこにいるか正確にはは分からないんですね」


「ほんと・・・どこに行ったのかしら・・・」

「小さな頃遊んでくださったお兄様、優しかったわ」


「お名前は何ていいますの?」


「シンラ」

「シンラ=ローザス」


「シンラ叔父様、私もお会いしてみたいですわ」


「そういえば、お兄様は魔法を結構使えたようだったわ」

「私が転んで怪我したときなんかは魔法で治してくれたわね」


 シンラ=ローザス。何か重要な役目を背負っているような気がします。もう少し二人の会話を聞いていましょうか。


「叔父様はどうして旅に出られたんですか?」


「理由は分からない・・・でも」


「でも?」


「あの日、お兄様が旅立った日」

「朝、物音で目を覚ました私に、お兄様が言った言葉があったの」

「意味が分からなかったけど、今でもよく覚えてる」


「なんておっしゃったの?」


「『来るべき時、世界を取り戻す為、意思を継ぎ立ち上がる』。その時に私にペンダントを手渡してくれたのよ」


「いつも胸にかけているのは、叔父様からもらった物でしたのね」


 決して豪華なものではないですが、細かな細工が施されている銀のペンダントですね。中に、写真を入れることができるみたいですよ。


「中に、一枚だけお兄様の写真が入っているの」


「お母様、かわいい」

 アイネ嬢によく似た少女と、まだあどけなさが残っていますが、凛々しい表情の青年が写っています。

「この方が叔父様?」


「そうよ。かっこいいでしょう」


「そうですわね。お父様とは大違いですわ」


「テレジア!あの人はあの人で、良い所がたくさんあるのよ」


「それは分かってますけど」

 写真の下のほうに何か文字が書かれているようです。

「ふぁーたうぃ」

「ふぁーたうぃあむいんうぇにえんと?」

「お母様、この言葉は何ですの?」


「ファータ・ウィアム・インウェニエント」

「私にもよく分からないんだけど、お兄様がおまじないって、いつも言ってた言葉よ」


「響きは魔法によく似ていますけど、白魔法や黒魔法にはこんな魔法はないし・・・」

「もしかして、禁術魔法?」


「まさか!お兄様はそんな怪しげなことはしていなかったわ」


「そ、そうですよね」

「叔父様は旅に出て、何かをしようとしてらっしゃるのかしら?」

「世界はこんなにも平和なのに」


「いつも何かを調べていたみたいだったわね」


「何か世界の危機を感じていらっしゃったのかしら・・・」


「たぶん、そのうちひょっこり帰ってくるわよ」


「その時は私のこと、紹介してくださいね」


「でも、もう三十年以上も会ってないから、私のことも覚えているかどうか・・・」


「きっと分かりますわ」


「だったらいいんだけど」

 謎多き人物です。少し、本人を覗いてみますか・・・えーと、シンラ=ローザス、シンラ=ローザスと。

 どうやら、秘境ドゥーベにいるみたいです。


「父さん、うまいこと潜り込めそうやで」


「ミト、くれぐれも慎重にな」

「闇の者が罠を張り巡らせているに違いない」


「大丈夫、うちが失敗するわけないっちゅうの」


「それがお前の悪い癖だと・・・」


「はいはい、もう聞き飽きたって」

「父さんの方の、マナリンクの調査はどないなった?」


「最後の鍵のありかだけ分からないんだが、大体の内容は掴めてきた」

「しかし、肝心のポラリスがな・・・」


「あのことだけは、どのマナリンクにも書かれていないもんね」

「どうせまたザイアスのじじいが隠してんやない」


「ザイアス様のことをじじいなんて言うんじゃない」


「だって愛想は悪いし、大魔導師なんて言ってるけど魔法を使ってるのを見たことがないやん」


「ザイアス様にも事情があるのだろう」


「ふぅん。まぁええけど。それはそうと、父さんが言ってたテレジアって子、大会に出るみたいやで」


「パトリシアの娘・・・力になってくれればいいんだが」


「じゃ、うちは引き続きお仲間を探しに行ってくるで」


「では、一ヶ月後に王都アルカイドで」


「りょ~かい」

 何やら色々と調べているみたいですね。これも世界の平和のためなのでしょうか。それにしても、あの元気すぎる女の子。

 シンラのことを父さんと呼んでたって事は、テレジア嬢の従姉妹にあたりますね。


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼


 ルートヴィヒの方は、ちっとも話が進みません。でも大事なところっぽいので、一応ミハエルさんの話を聞いておきましょうね。

どうやら、こんなことが起こったみたいですよ。


 ミハエルさんの甥っ子の名はアシル。魔法は何でも得手不得手なく上手にこなす、優秀な人でした。魔術評議会にも認められ、だからこそ魔術大会に呼ばれたのです。

 アシルは月に二度ほど、ミハエルさんに会いにキルシュバウム城に足を運んでいました。それが、ふたつき前の半ば頃に来た時、妙な気配を感じると訴え始めたのです。見張られているとか、尾行されているとか言っていました。その時ミハエルさんは、気のせいかも知れないからもう少し様子を見てみなさいと言いました。

 そして、同じ月の終わり頃。アシルは再びミハエルさんの元を訪れ、王から直々に手紙が来たと喜んで報告しました。例の気配は続いていましたが、特に何かされたわけでもないし、その日は手紙が来たことが嬉しくて、気にしていないようでした。

 ところが次の日、彼はまたキルシュバウム城へやって来て、今度は真っ青な顔をして、例の気配が急に恐ろしいものに変わったと言いました。かなり動揺していて、拉致されるかも知れない、殺されるかも知れないと言い出したのです。

 ミハエルさんは、その前日手紙を持って訪れた時の態度から一変したことに呆れてしまいました。気配など気のせいで、恐ろしいものに変化したように感じたのは、大会の規模の大きさに怖気づいて、神経が過敏になっているのだと思い込んだのだそうです。


「甥は気が弱いわけではないが、少々神経質なところがあったのだ」


 アシルの家族も同様に思っていたらしく、ミハエルさんが来客があるから帰ってくれと言った時も、迷惑をかけないようにとすぐに連れ帰りました。

 ―――その翌日。

 夕刻頃、気配に怯えて外出を避けていたアシルは、朝から食事もとらず、一日部屋に閉じこもっていました。それが、夕方ふと部屋から顔を出し、部屋の前を通りかかった使用人を呼び止めました。

「空腹なんだ。何か食べ物を持って来てくれないか」


使用人は急いで厨房に走り、既に夕食の支度にかかっていたコックを捕まえ、消化に良いものを準備するよう言いました。それからまた急いでアシルの部屋の前へ戻り、扉をノックしました。

「アシル様、コックに言いつけてきました。すぐにお食事をご用意出来ますよ」


 その時は、中から返事がしました。

「ありがとう。届いたらまた声を掛けてくれ」


「かしこまりました」

 使用人は扉の前で待つことにしました。三十分もしないうちに食事が運ばれてきたので、使用人は再び扉を叩きました。しかし今度は数回叩いても返事がありません。そこで、扉を開けました。


「―――部屋の中は、既に相当荒れていたそうだ。机の引き出しを引っ掻き回されていたり、本棚に並んでいた本が床に散らかっていたり・・・。使用人とコックは明らかに異常な状態に目を見張った」

 

「警備を呼んでくる」


「お、お願いします!」

 コックだけが人を呼びに走っていき、使用人は部屋の前に残りました。


「アシル様ー!」

 使用人は入り口から部屋の中に向かって叫びましたが、返事がありません。誰か来るのを待てずに、中へ入っていきました。

「いらっしゃいますか・・・」

 床に散らばった本や書類、衣服などを踏まないように、恐る恐る入っていくと・・・・

「!」

 ソファとテーブルの間に、血を流したアシルが倒れていたのです。彼の周りには、束にしてあったのをほどかれた手紙や、彼が魔法を勉強していたノートなどが散乱していました。使用人は声も出せず、その場に立ち尽くしていました。


「すぐに他の使用人や警備の者達が集まり、不審者が捜索されたが、何も見つからなかった。部屋も荒らされてはいたが、何も無くなっていなかった」

「私も遺体を見た・・・不安に歪んだ青白い顔が忘れられない」

「あれから一ヶ月、色々と調べてみたのだが、なかなか糸口が掴めないのだ。・・・だが、それだけでは君には頼めない」

 ミハエルさんの表情が翳ります。ルートヴィヒは視線を下に向けたまま黙っています。


「ここまで証拠が出ないとなると、逆に考えられることは一つしかない」


「まさか」

 また泣き出しそうな顔のウィンザー。




「―――闇の勢力だ」



 この言葉に、ようやくルートヴィヒが顔を上げました。

「今年、マナクリスタルの五十年の封印が解かれるのに合わせて、何か企んでいるに違いない」


闇の勢力・・・人の命を犠牲にしてまで、何をしようとしているのでしょうか。

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