Magick.21
今日からは二回戦が行われるようです。一回戦では、実力が出し切れなかった選手たちもそろそろ本気を見せてくれるのではないでしょうか。
一試合目には、ミトが出てくるみたいですよ。
「お集まりのみなさん、本日からは二回戦が行われます!一回戦よりも、激しい試合が予想されますので、みなさんご注目ください!」
「さて、早速ですが一試合目、ミト=フロイト選手対ノエル=イルマーク選手の試合を行いたいと思います」
「お姉ちゃんも普通の人なんだろうな・・・。きっと」
「なに言ってんねや」
「僕の苦しみなんて誰もわかってくれない」
「わけわからんわ」
「ウィデーレ・エスト・クレーデレ」
「氷の刃がミト選手を襲うー」
ノエルが放った魔法は、まるで意思を持っているかのようにミトに襲い掛かりましたよ。
魔法は術者の力量に比例して様々に形を変えますが、ノエルの魔法にはそれ以外の要素が何か加わっているように思えます。
「なんやこれ・・・普通の魔法やない」
間一髪よけたかに思われたミトが不意にひざを落とします。よく見ると、かすり傷から徐々に体の自由を奪うかの様です。
「僕の魔法は普通じゃない・・・。僕が普通じゃないように」
「どういうことや」
俯いたままノエルはぶつぶつ言っています。
「どうせわからないよ」
「凍っちゃえ、ウィデーレ・エスト・クレーデレ」
先程と同じ魔法が、動きの鈍くなったミトを襲います。
「ミト選手、ピンチです!」
「ん、なんでしょう」
闘技場のミトの居た辺りから水蒸気が上がって、徐々に会場を包み込んでいくようです。
「前が、見えません」
少しずつ霧が晴れてくると、その中に人影があります。
「果たしてミト選手は無事なのか?」
「あかん、あかん」
「うちもなめられたもんやな、同じ魔法なんか効かんで」
そう高笑いしながら立っているミト選手の体を取り囲むようにして炎が燃え上がっています。
「メルトロームにはこういう使い方もあるねんで」
「メルトロームは拳に魔法を凝縮する武術と聞いていましたが・・・・・・」
「すごい、両者とも」
さすがに2回戦、いい試合が見れます。
「へぇ、やるじゃん」
ノエルは少しも動じた様子がありませんね。
「ディーウィデ・エト・インペラー」
そうノエルがささやくと、不意に空中に無数の剣が現れ意思を持ったかのようにミトを襲いだしました。
「炎の鎧では防ぎきれない!」
よもやリングアウトという所で、ミトは高くジャンプしノエルの頭上を飛び越え後ろに立ちます。
「ごめんな、これで終わり・・・・・・」
そう軽く右手を挙げたミトの足元が不意に歪みながら、竜巻のように地面と共にミトを巻き込んでいきます。
「二つの魔法を同時に操れるんだよね」
「僕の作った竜巻からは誰も逃れられないよ」
そういうと、ノエルは審判の方を見ます。
「死んじゃうよ」
「ノエル選手の・・・・・・」
「まだや!」
「竜巻の中から声が聞こえてきます」
「・・・」
「・・・」
竜巻が、急に逆回転し始めたかと思うとその中に居たはずのミト選手が、闘技場の端にいます。
「参」
「奥義、色即是空や」
「こんな魔法、見たことないよ」
「僕、初めて負けるの」
そういいながら意識をなくしたようにノエルは崩れ落ちました。
「ミト選手の勝利です!」
試合が終わったミトはノエルに駆け寄ります。
「ごめんな、痛かったやろ」
「大丈夫、手加減してくれたから」
「あら、わかってたんかいな」
「僕この力で、昔からみんなに恐れられて嫌われて」
「でもこの大会で勝てばみんな認めてくれるかなって」
「ほら、聞いてみ」
―よくやったぞ、坊主!
―いい試合見せてくれたな
―かっこよかったわよ
観客は口々にノエルを称えています。
「僕」
「そうや、もう大丈夫やで」
「ありがとう、お姉ちゃん」
少し涙を堪えるような、いい目をしたノエルを見送るとミトも静かに闘技場を去っていきました。
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「大丈夫かね!?」
ルートヴィヒが目を覚ますと目の前には白髪の男性の後姿が見えます。
「ここはどこだ?」
「ここは、わしの馬車じゃよ」
「俺はなぜここに!」
「覚えておらんのか、毒になどやられおって」
「お前は誰だ!」
「やれやれ、シトリーの言ったとおりの奴じゃのう」
「!?今なんて」
「お前の話はシトリーから聞いていた」
「シトリーからの定時連絡がなくなったと思ったらこれじゃ」
老人は、豊かなひげをゆっくりとなぜながらけんか腰のルートヴィヒの質問に答えていきます。
「シトリーを・・・知っているのか?」
「ほっほっ、面白い質問じゃな」
「わしがシトリーを知っているかじゃと」
「ご老人、お名前を」
急に丁寧になったルートヴィヒに気を良くしたのか少し笑ったように見えました。
「ただの老いぼれじゃて、ほっほっ」
「ザイアス・・・様ですね」
ルートヴィヒでも知っている名前、いえこの世界の殆どの人が知っているであろう人物、ゼクト=ザイアスでした。
「昔そう呼ばれておったときもあったのう」
「遠い昔のことじゃて」
「ここには何をしにいらっしゃったので?」
「シトリーから聞いておらなんだか」
「一度おぬしに会わなければならぬと思っておったのじゃ」
「そうでしたか・・・しかし、私に一体どういう御用が」
「そう焦るでない、まずは明後日の決勝戦が終わってからじゃ」
「明後日・・・・・・」
「決勝戦・・・・・・」
確かルートヴィヒが女性に毒を盛られたのが大会6日目、ということは既に1日以上が経過していることになります。
「しかし、私は2回戦に出ていない!」
「ほっほっ、何とかしておいたよ。かの者には悪いことをしたがの」
「ほっほっほっ」
ザイアス様、相当食えない老人のようです。
「シトリーは」
「みなまでいわんでも良い」
「知っておるとも、心配いらんよ」
「そうですか・・・」
「お主は試合に集中するが良い」
「話はそれからじゃて」
そういうと馬車のドアがゆっくりと自然に開きました。
「かえる君も心配しておろう、顔を見せてやるがよい」
馬車を出たルートヴィヒの前に少しウェーブのかかった赤髪の綺麗な女性が立っていました。
「ご武運を」
涼しげなその瞳にルートヴィヒも少し吸い込まれそうです。
「あぁ、忘れておったそこにいるリリスがお前をここへ運んできたんじゃ」
「世話になった」
珍しく素直なルートヴィヒは足早に馬車を離れていきました。
残すは決勝戦。
あ、決勝戦の対戦相手が決まったみたいですね、みんな群がっていますよ。
決勝戦対戦表
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ミト=フロイト × バルバトス
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ベリアル × テレジア=フォン=マルケス
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ルートヴィヒ=ブルクハルト × グシオン
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フェン=サマリー × ロア
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なるほど、決勝戦とはいっても一番を決めるんではなく優秀な四人を決めるんでしたね。
後はこれに魔法の評価点を足して、入賞者が決定するということです。