Magick.20
大会五日目。今日はDブロックの一回戦が行われます。
第一試合は・・・あの奇妙な人、ロア選手ですね。相手はミハエルさんの甥の予定でしたが、本人不在のため、審判がロア選手の不戦勝を宣言しています。
第二試合は、招待選手の魔法剣士レオが、みんなが知らない珍しい魔法を使い、観衆をわかせて勝利しました。
第三試合は、同じく招待選手である魔法学校教師ハンクが、模範的な戦術で勝利しました。
そして、今日最後の第四試合。フェンの登場です。
「さぁ、大会も中盤に差し掛かってまいりました」
「本日の最終試合、一回戦の最終試合でもあります、選手の紹介をさせて頂きます」
「いつもは国家魔法学校の客員教授をされています、フェン=サマリー選手。フェン選手は、魔法研究においても数々の研究成果を残しているとのことです」
「対するは、アルカイドの予選を勝ち上がってきたイゾルデ=リースト選手。イゾルデ選手は、予選では中々の成績を収めたと聞いております」
「では、試合の方を始めたいと思います」
お、フェンがゆっくりと動き出しました。イゾルデの方は様子をうかがっているようです。
「若いのに教授とは、たいそうな御身分だな」
「いえ、僕なんてまだまだ」
「試合では、そんな戯言は通じないと知れ・・・」
「ネーモー・フォルトゥーナム・ユーレ・アックーサト」
「フィールドに六つの丸い円が作られました!」
「な、なんと、丸い円の上に一人ずつ、まるでイゾルデ選手が六人いるように見えます」
「さぁ、どこから来るか分からない攻撃を、果たしてよけきれるのかな、教授さん」
「あらら・・・。どれが本物かなー」
「こっちかな。足が震えてるぜ」
「・・・・・」
「おまえを倒して俺が先に進ませてもらう。死ね!」
「アウラ・ウェニアース」
「二人とも同時に同じ魔法を放ったーーー!!」
「何故・・・」
「姿は隠せたとしても、殺気があなたの居場所を正確に教えてくれましたよ」
「不覚」
「フェン選手の勝利です!!」
「これにて、一回戦全ての試合を終了させて頂きます!。明日からは二回戦を行いますので、みなさん引き続きよろしくお願い致します」
とうとう、一回戦が終わりましたね。少しずつ姿を現した闇の勢力、二回戦以降どのように動いてくるのか少し心配ですね。
「今日の試合は、あんまり見どころなかったなぁ」
会場の外では、ミトとシンラが話をしています。
「フェンと言う男の実力もあまり測れなかったな」
「全然本気だしてなかったみたいやしな」
「まぁ他の者も含め、明日からの試合で少しずつ見えてくるだろう。お前自身も明日試合があるんだ。気を付けろよ」
「はいはい」
「父さん、あそこ。あの暗い男、ルートヴィヒ言うたかいな」
会場から今日の試合を見終えたルートヴィヒとウィンザーがちょうど出てくるところでした。
「ルートヴィヒ=ブルクハルト、地方領主でありながらかなりの使い手のようだな」
「あの横にいるカエル、あれがファミリア・・・」
「シュバイツァー!」
「承知しました」
「ミト、何を・・・」
「ちょっとからかってみるだけや」
ミトに何かを命令されたシュバイツァーが、ウィンザーめがけて一直線に向かっていきました。
「わぁぁぁぁ!ご、ご主人様」
ルートヴィヒのマントに翻されるように、シュバイツァーはミトの元に戻ってきます。
「ごめんごめん、うちのファミリアが」
「・・・・・」
「うちは、ミト=フロイト言うねん。よろしく」
元気よく差し出されたミトの手をルートヴィヒは握ろうともせず、通り過ぎようとします。
「待ってーな、謝ってるやろ。うちも試合出てんねんて」
「・・・慣れ合うつもりはない」
「ちょっとでええから話聞かせてや」
「自分の飼い犬くらいちゃんと見張っておけ」
「・・・・・」
あーあ、捨て台詞を残して行ってしまいました。
「なんやーあれ!感じわるー!!」
「お前も悪い」
「あんなんが『解き放ちし者』なわけないわ!」
「次行こ、次!!」
ミトとルートヴィヒ、相性は限りなく・・・悪そうです。
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ミトに捨て台詞を残して去っていったルートヴィヒ、ウィンザーを広場のベンチにおいて、一人で選手控え室の方へ向かっています。試合が終わって誰もいないはずですが・・・おや、いますね。例の謎の女性です。
「二回戦進出、おめでとう。また約束通り特殊な力を一つ見せてもらったわ」
「・・・・・」
どうやら、予選の時のようなやりとりがまた行われていたようですね。一体いつ?ウィンザーがシトリーとはぐれて、ルートヴィヒが一人で探しに行った時でしょうか。
「ファミリアがあの子とはぐれたと聞いた時の動揺、まるであなたじゃないみたいだったわ」
「この二日間、気が気でなかったでしょう。でもファミリアの前では、そんな様子全く見せなかったわね」
あぁ、やっぱりあの時です。
「思ったより優しいのね」
「まぁ、そんなことはいいけど。ねぇ、あれどうやったの?物質の破壊と再構築の魔法で、どうやって魔法を破壊したの?」
「・・・シトリーはどこにいる」
女性はくすくす笑って、肩から提げているガラス玉のようなものに触れました。
「そう慌てないで。ここにいるんだから」
ルートヴィヒ、とっさに女性の胸倉に掴みかかります。
「返せ」
「割れちゃうわよ」
たじろぎもしません。やはりこの人、大した度胸です。
「・・・俺にも、分からない」
ルートヴィヒは力が抜けたように、手を離しました。
「どういうことかしら」
「魔法も、唱えて具現化されてしまえば、それは既に物質だと思い当たった。光の十字架なら光の粒子の塊だ。そういうイメージで詠唱したら、魔法も破壊できるようになった。それだけだ」
「ふぅん。特別なことはしていないというわけね」
「もう一度聞くわ。私達のところに来ない?」
もう一度?ということは、あの時も同じ打診を受けていたのでしょうか。
「返せ・・・」
こんな弱々しい声を出すルートヴィヒ、見たことがありません。
「その気はないのね。あなたはこちら側でうまくやっていける人間だと思うんだけど」
「俺は、どこにも属さない」
「そう」
女性はちょっと首を傾げて、考えるそぶりを見せてから言いました。
「アシルだけじゃなく、シトリーも犠牲にする気なの」
二つの名前に反応して、ルートヴィヒが再び掴みかかりました。今度は首に手をかけ、後頭部を壁に押し付けて、ぎりぎり締め上げています。いくらなんでもやばいのでは・・・。
「俺にどうしろと言うんだ」
「もうすぐ、マナクリスタルの封印が解ける。その時、あなたの知識と力が必要なの。居心地良い世界を作るためにね」
「だけど全然つれないあなただから、こういう方法を取っているのよ」
女性は顔色一つ変えず、不敵に微笑んでいます。
「アシルを――」
殺した、と言いかけて、ルートヴィヒは口をつぐみました。
「アシルのところへ行ったのも、私達の仲間よ」
「そんなやつらに貸してやる力はない」
ルートヴィヒは、首にかけた手に更に力を込めます。
「―――!」
と思ったら、みるみる顔面蒼白になって・・・倒れてしまいました!
「何をした」
息を荒げています。立とうとしますが、手足も思い通りに動かないみたいです。
「ちょっと刺しただけ。毒薬は得意分野?」
「・・・・・」
睨み付けようにも、視界がかすみます。
「死にはしないと思うけど、あなたは白魔法が苦手だから、どうかしらね」
「俺を脅すために、アシルに手をかけたのか」
ルートヴィヒは地面に這いつくばったまま、下から女性を見上げました。彼女の冷ややかな視線が落ちてきます。
「いいえ。あなたを知ったきっかけがアシルだったの」
可哀想に、アシルは無垢だったので、簡単に思想を支配され、取り込まれてしまったのです。
そして彼らは、伯父のミハエルさんが高名な魔法研究家だと知って、その家にも行ってみました。そこでルートヴィヒを見つけたのです。しかもあとをつけたり、身辺を調査したりといったことまでしていたようです。
「堅物だって聞いてたけど、人付き合いが苦手なあなたがどうやって取り入ったのかしら。一緒にしてたみたいな研究の内容も掴めなかったし」
ルートヴィヒは歯噛みしました。監視の目に全く気づかなかったことは、きっと彼にとってとてつもない屈辱でしょう。
「アシルは良い子だったわ。でもある時、秘密を知ったまま逃げ出しちゃったのよ。それで、ね」
彼女は身を屈め、何食わぬ顔でルートヴィヒの顔を覗き込みました。
「ねぇ、ルートヴィヒ。今みたいな世界、つまらないと思わない?光の勢力が作ったこんなゆるい日常」
冷ややかな視線が、ルートヴィヒの鋭い視線とぶつかります。
「私達の時代が来れば、どんなジャンルの魔法も制限なく研究・使用させてあげられる。今、規制されている魔法もね。探究心旺盛なあなたには嬉しいでしょ」
「・・・・・」
「まぁいいわ。そんなに返事は急がないけれど、あまり時間がないのも確かね」
「シトリーは、もうしばらくここにいてもらうわね」
彼女は肩から提げた玉の鎖をゆらゆら揺らしてみせ、そのまま去っていきました。
ルートヴィヒは視線だけ動かして目で追いましたが、まだ体を動かせません。
「違う、そんなんじゃ、ない」
何か呟いていますね。息がとても苦しそうです。
「俺が、見たいのは、魔法じゃ、ない」
朦朧とする意識の中、さっきの女性とは違う足音が聞こえました。
「大丈夫ですか!?」
足音が駆け寄ってきます。
「俺が、見たいのは・・・」
自分助け起こした誰かを確かめようとして、ルートヴィヒは気を失ってしまいました。