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Magick.2


同じような生まれでありながら、二人のベクトルは全く逆の方向に向いていますね。しかし、魔法というものは思いが強ければ強いほどその力を増していくもの・・・正義、愛情、憎悪、欲望・・・その形は問わないって言うんですから、少し背筋がぞくっとしますね。

さて、無駄話が過ぎました。どうやらテレジアお嬢様が街に着いたみたいですよ。


「ドゥム・スピーロー・スペーロー」


「やっぱりテレジア様の魔法はよく効くのう。昨日から痛んでいた腰痛がすっかり楽になったわい」


「おばあさん、体に気を付けてくださいね」


 百人以上はいると思われる行列の一番前では、リグレットが受付のようなことをしています。

「はい、次の方」

「そこの人、割り込まないで」


「こんな素晴らしい人がいるなんてね」


「街のヒーリング所なんて行っていられないわよねぇ」


「無料でどんな病気でも治してくれるって言うんだから」


「テレジア様は神様のようなお方じゃ」

 どうやらテレジア嬢は、無料診療所みたいなことをやってるみたいですね。


 おや?物陰から、その姿を恨めしそうに見ている人達がいますよ。

「あんなことされると、こっちは商売にならないよ」


「苦しい中でやりくりしてるってのにねぇ」

 先ほど話に上がっていたヒーリング所の人達みたいですよ。どこの世の中にも、全ての人を幸せにできることなんてないんでしょうかねぇ。


「ウィーウェ・メモル・モルティス」


「ありがとうございます、テレジア様」


「はーい、今日の診療はここまでです」

 どうやら、今日はここまでみたいです。テレジア嬢は清々しい顔をしてらっしゃいます。自分はこの世の全ての人を幸せにできる、そんな顔ですね。

これだから、貴族育ちは・・・い、いえ、なんでもありません。でも、やりすぎはなんでもだめって言いますから、気を付けて欲しいものです。


「テレジア様~、今日はもう帰りましょうよ」


「リグレット、いつもの日課は欠かさないって言ってるでしょ」


「はぁぁぁ・・・」


「そんなため息つかないで、私まで疲れちゃう」


 二人は、街を抜け歩き出しましたね。大きな城が見えてきました。『ノイサーペント城』と大きく書かれた看板・・・はないですが、ノイサーペント城と呼ばれる城で、この地方の領主様がお住まいになられているようですね。果たしてお嬢様はこの城に何をしにいらっしゃったのやら。


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼


さて、ペンを片手に朝食を終えたルートヴィヒ侯の方も、どうやら動き出そうとしているようですよ。

「二十分後に出る」


「はい、ご主人様」

 ウィンザーは返事をすると、壁に掛かった時計に一瞬目をやり、いそいそと食器類を片付け始めました。

 その間ルートヴィヒは身支度です。


「・・・・・」

 何やらぼそぼそつぶやいています。声が小さ過ぎて聞き取れませんが、何かの呪文でしょうか?

「金、紫、また白・・・」

 違いました。彼の頭の中は、研究のことでいっぱいのようです。

 クローゼットから取り出した古いコートも、使い込んだ革のブーツも、真っ黒ですね。それらを身にまとったルートヴィヒは、まるでカラスのようです。そう言えば、髪も真っ黒ですし。

 言った通り、二人はちゃんと二十分後に出発しました。城の周りは、うっそうと木が生い茂った暗い森。けもの道のような細く荒れた道を、ルートヴィヒとウィンザーは慣れた足取りで歩いていきます。ほうきにでも乗ればいいのに、わざわざ歩くんですね。


「ご主人様、今日こそ何か手応えがあると良いですね」


「・・・・・」


「いや、手応えどころか収穫、うん、今日は何か良いことがありそうな気がします!」


「・・・・・」


「張り切っていきましょう!!」


「・・・銀・・・」

 何だかウィンザーが可哀想になってきました。ルートヴィヒはいつも考え事をしていて、話なんて上の空。そんなに熱心に黒魔術のことを調べて、何か目的でもあるんでしょうか。


おや、二人が途中で立ち止まりましたね。森の木々が少し開け、二つの道が垂直に交わる四つ角のところです。それぞれの角には、見た目の異なる木が一本ずつ生えています。何かの目印のようにも見えます。

「今日も変化がありませんね」


「・・・ああ」

 ようやく、ルートヴィヒが返事をしました。

「北の木はずっと裸。東の木は芽が膨らんだまま。西の木には紅い葉が、南の木には青々とした葉が茂っている」

「何も動かない。時間の流れが止まっているようにも、同じ時間を繰り返しているようにも見える」


「全部、同じ種類の木ですもんね。それなのに四本とも全く違った姿で。いつ見ても不思議です」


「あれが戻ってくれば、謎が解ける」

 ルートヴィヒはそう言うと、北の木と西の木の間の道へと進み出しました。ぼんやりと木に見入っていたウィンザーが慌てて追いかけます。


「はい、あの、暖かくなったり寒くなったりを繰り返す現象・・・ええと、でしたっけ。えーっと」


 しばらく頭を抱えていたウィンザーに、ルートヴィヒが、振り返らないままそっと言いました。

「・・・季節、だよ」


 二人が向かう先は、これまたお城。その名は『キルシュバウム城』。彼らはそこに、何をしに行くんでしょう。

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