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Magick.18


 なんとか会場に入れたミトも、測定を開始したようですよ。


「いっちょやったろかー」

「アウラ・ウェニアース」


「ミト=フロイト様、八十七点です」


「あんまいかんなぁ」

 続けて魔方陣。

「デウム・コリト・クイー・ノーウィト」

 今度は光魔法です。

「ミト=フロイト様、百点です」


「やった」

「さっきもろたカオスカードにも点数が表示されてるわ」

「どないな仕組みか分からんけど、おもろいな」


 そう言えば、そろそろ二日目の競技が始まるみたいですよ。

「お集まりの皆さん!お静かに願います」

 先ほどまで演武場を包んでいた観客の声が、ピタリと止みました。

「ただいまより、大会第二日目を開始させて頂きます」

「本日より大会の司会、実況を担当させて頂きます、ジール=ラジールと申します。どうぞ、お見知り置きを」


「いいぞー」


「熱い実況たのむぜー」


「みなさんお待ちかねの様なので、今日の出場者の紹介をさせて頂きたいと思います」

「マジックボードをご覧ください」

 観客の目は、演武場上部にあるマジックボードに集まります。

「本日の出場者は、Aと書かれたブロックの八名となっています」

「上から順に」

「ノエル=イルマーク選手、百六十点」

「クロエ=オスロ選手、百四十七点」

「ミト=フロイト選手、百八十七点」

「ソフィア=トリティア選手、百五十点」

「アザール選手、九十九点」

「バルバトス選手、百八十九点」

「ベルナッハ選手、百三点」

「ローゼス五世選手、百二十九点」

「様々な得点ですが、試合はこれから!何が起こるか分りませんよ」

「全ての出場者にチャンスは残されています!!」

「みなさんも応援よろしく!!」


「おー」

 演武場がものすごい熱気に包まれていますね。今日はミトが出場するんですね。

お、早速、第一試合が始まるみたいです。

「フェグダ地方の予選を勝ち上がってきたノエル選手、弱冠十四歳の少年です」

「対するは、聖魔術師のクロエ選手」

 体格差は結構ありますね。子供と大人、普通の少年と魔術師。少年に勝ち目はあるのでしょうか?

「坊主、悪いが一撃だ」

「ソール・ルーケト・オムニブス」


「クロエ選手が放った光の衝撃が、ノエル選手を襲った――」

「大丈夫なのか・・・」

「おお、ノエル選手、傷一つ付いていません」


「おじさんも、やっぱり普通の人なんだ・・・」

「ウィデーレ・エスト・クレーデレ」


「そのような単純な黒魔法ではやられはせん」

「ダビト・デウス・ヒース・クォクェ・フィーネム」


「今度はノエル選手が生み出した無数の氷がクロエ選手を狙った!しかし光の壁でこれを防御する」

「・・・ん?これはどうしたことでしょう。ノエル選手、リングを離れようとしています」


「もう、終わったよ」


「クロエ選手はまだ立っています、試合は続行です」


「よく確かめてみなよ」


「どういうことでしょうか?」

「クロエ選手!クロエ選手!」

「反応がありません・・・まさか」

 リングで氷漬けになったクロエを確認したジール。

「すごい少年が現れました!ノエル選手の勝利です」

 観客からは惜しみない拍手が送られます。観客席には、テレジア嬢とフェンがいるようですよ。

「いくらなんでもあんな初歩の黒魔術で・・・」

 テレジア嬢、感激とも恐れともつかない表情ですね。

「マナの力」


「え?」


「聞いたことがあります。魔法の力を極限にまで引き出すことができる特異体質のことを」

「見たのは初めてですが」


「あの子がそうなのかしら?」


「わかりませんが・・・クロエとてそう簡単にやられるような選手じゃなかったはずです」


「フェンさん、どこで『マナの力』のことをお知りになったの?」


「え、えーと、本で読んだんですよー」

「あ、ほら、次の試合が始まりますよ」


「ノエル選手と同じくフェグダ地方の予選を勝ち上がってきたミト選手、メルトロームと言われる魔武術を使うと聞いています」

「対するは、植物研究家としても有名なソフィア選手」


「おばちゃん、覚悟はええか?」


「おばちゃん・・・」

 ソフィアさんの眉が、ぴくぴくと引きつっています。ミトったら、怖いもの知らず・・・。

「本気出させてもらいましょう」

「ドゥム・アウローラ・フルゲト・アドゥレスケンテース・フローレース・コッリギテ!」


「フィールドの足元から、植物が生えてきました!」


「司会の方、動かないほうがよろしくてよ」


「草と言えるのでしょうか?色とりどりの草らしきものが生えてきました」


「なんや、この草。でも関係あらへん」

「いくで。フォルテース・フォルトゥーナ・ユウァト」

「草なんて火で燃やせば終わりや」


「それはどうかしら」


「ミト選手の炎の竜が草を燃やそうとしております」

「ですが、草は逆に炎を取り込んで大きく成長しているようです」


「私の植物は少し気が荒くてね」


「そんなあほな」

「なら肉弾戦で行くで!アウラ・ウェニアース」


「でました!ミト選手の得意なメルトロームです。風をその両手両足にまとっています」


「壱」


「ミト選手の目にも止まらない攻撃がソフィア選手を襲います」

「しかし、これは・・・草です!草が彼女を守っています」

「ミト選手、一度後ろへ下がりますが、草達はミト選手を追撃しております」


「なんや?この草」

「うちについてくる」


「ふふ、動くものに反応するように作ってあるのよ」


「なら、動かなかったらええんやろ」


「おーっとミト選手、動くのをやめました」


「そうなることを予想しなかったと思って?」

「インキペ・ディーミディウム・エスト・ファクティー・コエピッセ」

 呪文を唱えてから、ソフィアさん、うっすら笑いました。

「・・・この花の吐き出す花粉には毒があってねぇ」


「悪趣味な花やな」


「毒の花粉と草に挟まれたミト選手、逃げる以外にありません!」


「あのおばちゃんに近づけたら・・・」

 もうかれこれ十分も逃げ回っていますが、いっこうにソフィアには近づけそうもありません。

「しまった」


「おーっとミト選手、態勢を崩してしまった」

「草が襲いかかる!ミト選手ピンチ!!」


「ふぅ、危なかった」

「でも今一瞬動きが遅なった気がしたわ」

 逃げ回っているうちに、何かに気がついたみたいですね。

「やっぱりや。やっぱりたまに動きが遅うなる時があるわ」

「いつや?」


「何をぶつぶつ言っているのかしら?」

「もう後がなくてよ」


「ミト選手、フィールドの端に追い詰められました!」


「空、太陽に雲がかかった時や」

「その時に一気に近づいて・・・」


「終わりよ」


「今や!」

「奥義、風陣閃光」


「ミト選手が消えました!!」

「一体どこに・・・」

「あっ、いました!フィールドの反対側です!!」


「やったか」

 ミトは息をはずませています。

「お譲ちゃん、よく気がついたわね」

「私の負け」


「あの一瞬、太陽が隠れなかったらうちが負けてたかもわかれへん」


「第二試合、ミト=フロイト選手の勝利です!」

 再び観客席。試合を見ていたテレジア嬢達は何を話しているんでしょうか?

「さっきの女の子、強かったわね」


「はい、お母様」


「少しテレジアに似てたように思ったけど」


「そうですか?」


「気のせいかも知れないわね」

 パトリシアが、いたずらっぽく笑いました。

「お母様ったら」

 そんな二人を、観客席の上の方から眺めている男がいました。

「パトリシア・・・」

「そして、あれがパトリシアの娘」

「まだ、今は早いか」


「父さん、こんなとこおったんかいな」

「探したで」


「今の試合、危なかったんじゃないか?」


「ちょっと苦戦したけど、あんなもんちゃう?」


「これから、もっと強い敵――その中には闇の者もいるかも知れん。気をつけろ」


「分かってるって」

「あの下におるんは、前言ってたテレジアって子やない?」


「うむ」


「誰なん?」


「取り敢えず、明日の試合を見ておけ。その後で話そう」


「もったいぶるなぁ。まぁええわ」


 どうやら、二日目の残りの試合も終わったようですよ。合計得点で二回戦進出者は、ノエル選手、ミト、バルバトス選手と、ローザス五世ですね。

テレジア嬢は、試合が終わったので、家族と仲良く家路に着こうとしています。

「テレジア様~、とうとう明日ですね」


「そうね・・・リグレット」


「緊張してるんですか?」


「そうね・・・リグレット」


「テレジア様?」


「そうね・・・リグレット」


「心配になってきたなぁ・・・」

 ちょうど演武場の門の所に来た時、リグレットが誰か・・・いえ、何かとぶつかったみたいですよ。

「いてて」


「失礼しました」

 おやおや、ウィンザーとぶつかってしまったんですね。しかし、ルートヴィヒがすたすたと先に行ってしまうので、ウィンザーは一礼だけして、早足で去っていきました。

「カエルがしゃべった・・・」


「ファミリアでしょ?」


「カエルの横にいた人、すごく怖い顔してましたね・・・」


「何か考え事をしてたんじゃないかしら」


「それに、横をすれ違った時、かなり強く魔法薬の匂いがしました。選手かなぁ」

「何歳くらいなんだろう」


「あまり人の詮索をするものじゃありません」


「分かりました・・・」

 でも試合が終わった今頃、なぜ中に入っていったんでしょう?また何か忘れものでもしたんですかね。


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼


「ご主人様~、待ってください!」

 普段から怖いルートヴィヒですが、今日は特に怒りが激しい様子です。一体何があったのでしょうか。

「とろとろするな!早く思い出せ」

 誰かにぶつかったのか、一旦止まってから追いかけてくるウィンザーに対して、柄にない大声を上げています。

「すみません!ええと・・・一緒に今日の試合を観戦して・・・」

 どうやら、シトリーとはぐれてしまったようです。

 今日は一緒に会場に入れたウィンザーは、シトリーと二人でノエルの試合に見入っていました。観客席にいたのはウィンザーとシトリーの二人だけで、ルートヴィヒはしばらくマジックカウンターを観察していました。

試合が終わって二人で客席を立った後、移動中にはぐれてしまったようです。

「試合の間、何もなかったのか。知らないやつが接触してきたりしなかったか」


「いえ、観戦中は・・・」


「どこで見失った?」

 ルートヴィヒが、客席へ上がる階段の手前で立ち止まり、左右を見回します。

「三階席で見ていて、二階までは一緒に降りてきて――」


「お前は馬車で待ってろ。はぐれただけなら、あいつもそこに戻るはずだ」


「はっ、はい!・・・ご主人様は?」

 ルートヴィヒ、ウィンザーの答えを聞き終わらないうちに階段を上り始めたと思ったら、あっと言う間に行ってしまいましたね。自分自身の胸騒ぎに、苛立っているようです。

 シトリーは、どこにいるんでしょう。ただの迷子なら良いのですが。


「ご主人、ご主人。しっかり」

 シトリーの影から小さな声がします。

「うーん・・・」

 気を失ったシトリーに、ファミリアのムルムルが声をかけていました。気がついたようです。

「大丈夫?ご主人。動ける?」


「大丈夫だよ。どこも痛くないし。でも、体は動かないな」

「それに何も見えない。ムルムルと話が出来るってことは、光があるはずなんだけど」

 シトリーのファミリアは彼自身の影なので、本当に暗闇の中なら存在できません。と言うことは、どこからか多少なりとも光が差して影を生じさせているはずなのですが、シトリーは何も見えないようです。冷静に答えはしましたが、少し声が震えています。

「ルートヴィヒに、迷惑かけちゃうなぁ」


「彼の器は、最近少し大きくなった。そんなことでは怒りませんよ」

 ムルムルの答えに、シトリーが吹き出します。

「あはは。そうだねぇ」

「ねぇムルムル、僕の最後の記憶は、お姉さんなんだ。色白で、髪も服も真っ黒な」

「人ごみの中で誰かに腕を引っ張られて、ウィンザーと離れちゃって。そしたらあのお姉さんに声を掛けられて、その後どうなった?」

 おっと、その人って・・・。

「あれは、ミザールの予選で勝ち上がった人です。あの人が、ここに閉じ込めた」

 やっぱり。きっと、ルートヴィヒに条件がどうとか持ちかけてきたあの人ですよね。

「ここって、どこ?」


「あの人が持ってたカプセルの中だと思います」


「カプセル?すごいなぁ。どんな魔法を使ったんだろ」


「関心している場合じゃないです。それに、これは魔法じゃなくて、たぶんファミリア。自分と同じじ《・》がする」


「悪趣味だねぇ」


「感想を述べるより、脱出方法を考えてよ、ご主人」

「あの人、肩にいくつかカプセルをぶら下げてました。鎖みたいに繋げて」


「そう言えばそうだね。魔法薬の入れ物か何かかと思ったんだ。外から見たら透明だったし」


「中から外が見えないから確かめられませんが、恐らく今もカプセルの鎖の一部としてぶら下がっています」

 ムルムルの言葉に、シトリーは一瞬だけ逡巡しました。

「じゃあ、ルートヴィヒが気づくのを待とうかぁ。お姉さんは大会出場者だし、カプセルを隠してるわけじゃない。見つけてくれると思わない?」


「危険です。ぶら下がってるというのは予想。鞄にでもしまわれていたらアウトです」


「お姉さんの目的が何かは分からないけど、僕、今、全然苦痛じゃないんだ。閉じ込められて、動けなくて、目も見えないのに」


「ファミリアの機能でしょう。たぶん感覚を操作している」

「・・・と言うことは、ご主人を痛めつけて何か吐かせようとか、そういうことではないと」


「うん。きっと僕の奥に目的があるんだよ」


「ザイアス様か、ルートヴィヒ?」


「だろうねぇ。だったら僕は人質だし、どちらかの前に晒されるまで命までは取らないでしょ」


「それが全部正解だったらですが」


「ルートヴィヒなら、きっと助け出してくれる」


「のん気な。ご主人は、彼の何をそんなに信頼しているんです?」

 ムルムルの最後の質問には、シトリーは笑って応じただけでした。


シトリーは能天気に構えていますが、ルートヴィヒは心中穏やかではありません。会場中を走り回って・・・疲れた様子で馬車に戻ってきました。

「ご主人様」

「シトリーさんは、戻ってきていません」


「・・・・・」


「係の人に届けますか?」


「・・・いや。あいつのことだ。そこまで心配要らないと思う」


「でも・・・」


「明日か明後日には会えるだろ」

 そう言うと、さっさと座席に座って目を閉じてしまいました。

「どういう意味ですか?」

ウィンザーは名残惜しそうではありましたが、しぶしぶ馬車を走らせ始めましたね。

それにしてもルートヴィヒ、さっきまであんなに慌てていたのに、いつものクールな表情に戻りましたね。動き回っているうちに冷静さを取り戻したのでしょうか。

シトリーが心配ですけど、明日を待つことにしましょうか。

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